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閉ざされた運命

挿絵(By みてみん)


エボルチオ研究所に収容されたネオ・ヒューマンたちは、それぞれ異なる能力を持ち、個性豊かだ。しかし、彼らの背後には重い影が垂れ込めている。


定期的に与えられる運動時間。提供された白く無機質な広場には、他にも数名のネオ・ヒューマンが集められていた。


「随分と少ないんだな……」

「前はもっと多かったさ。でも、いなくなっていくんだ」

「……それは、つまり」

「察しのいい奴だな。俺はここに5年いるが、誰も戻っちゃこない」


アルフレッドは、収容者たちが置かれた状況を目の当たりにし、胸に怒りを秘めた。


「君たちは、必ず此処から解放する」だがその言葉を表に出すことはなかった。彼の計画は、慎重に進められなければならない。ネオ・ヒューマンとしての演技を貫きながら、真相に迫る鍵を掴む為に。


「新顔だ!!」


ロレインがアルフレッドとの場の空気を和らげるように声を張り上げると、周囲にいた能力者たちが集まってきた。


アルフレッドはゆっくりと一歩前に進みながら、囚人服の袖を整えると、控えめだが堂々とした声で話し始める。


「私の名前はアルフレッド・バーナー。能力は『完全記憶能力』だ」


言葉を選ぶように、しかし流れるような語り口で続ける。


「些細なことも含めて、一度見聞きしたことはすべて覚えてしまう。……まぁ、この能力を持つせいで忘れたいことも忘れられないんだがね」


冗談めかしたトーンで締めると、小さく肩をすくめて笑う。だがその目には鋭い知性と慎重さが宿り、まるで周囲の反応をすべて読み取っているかのようだ。


「こんな場所で出会うのは不幸かもしれないが……これからよろしく頼むよ」


最後には少し柔らかな笑みを浮かべた。彼の冷静さと親しみやすさが自然に場を和ませた。


「ハイハイ、次は私!」


目の前にいた女の子が勢いよく手を挙げ、軽快なステップで前に出た。腰に手を当て、顎を少し上げて挑発的に周囲を見渡す。彼女の黒髪はポニーテールにまとめられているものの、結び方は雑で毛先があちこちに跳ねている。目元にかかる前髪は乱れ、その奥には赤みがかった瞳が隠れていた。


「私の名前は、ヘヴン・ミラー。能力は『発火』。つまり、炎を操れるの!」


彼女は指先をすり合わせ、小さな火花をパチパチと飛ばしてみせた。


「こういうの、誰でも憧れるでしょ?ドラゴンとかさ、ファンタジーのヒロインみたいなやつ!」


そう言って胸を張るが、肩越しにちらりとアルフレッドを見ると、少し目を細めた。


「ま、実際にやるのは命がけなんだけどね。けど、退屈な毎日を燃やし尽くすのも悪くないでしょ?」


ニヤリと笑いながら片目をつむる。派手な仕草と語り口が目立つ彼女だが、その瞳の奥にはどこか寂しさが漂っている様に見えた。


「え、えっと……ぼ、僕の番?」


次にモジモジとした青年が、戸惑いながら緊張した面持ちで前に出た。背筋を伸ばそうとしたが、逆に不自然な姿勢になり、思わず頭をかく。


「マイケル・コックス……です。ぼ、僕の能力は……『超人的身体能力』」


声は小さく、まるで蚊の鳴くような音だった。ヘヴンが「もっと大きな声で!」と笑いながら声をかけると、彼は赤面しながら小さくうなずく。


「あ、あの……そう、つまり……走ったり跳んだり、その、速いんだ……」


言い終えると、自分のスニーカーを見つめたまま黙り込む。


「……まぁ、これからよろしくね!」


最後は勇気を振り絞るように言い切り、急いで後ろに下がる。その仕草に不器用な純朴さがにじみ出ていた。


「つ、次……私、ですね……」


最後に儚げな少女が、おずおずと前に出てきた。両手を胸の前でぎゅっと組み、視線を床に落としたまま、控えめな声で話し始める。鮮やかな金色の髪は肩にも届かず、顔周りでふわりと跳ねている。その輝きは、この閉ざされた世界に一筋の光を落としたかのようだった。


「フリーヤ・リベラ……です。えっと、私の能力は……『治癒』です」


言葉が詰まり、しばらく沈黙が続く。アルフレッドが優しい声で「焦らなくていいよ」と言うと、彼女はほんの少しだけ顔を上げた。


「……怪我をした人を、治せるんです。でも……完璧じゃなくて……ごめんなさい」


最後の方は声が小さくなり、足元に視線を落とす。


「謝る必要なんてないさ。君の力があれば、皆がどれほど助かることか」


アルフレッドの言葉に、フリーヤは驚いたように目を見開いた。


「そ、そう……ですか?そ、そう言ってもらえると……嬉しいです」


恥ずかしそうに微笑む彼女。その姿には、どこか守りたくなるような魅力があった。

アルフレッドは、彼らとの交流を通じて、この場所で行われている非人道的な行為の一端を知ることになる。


運動場での一時的な解放感の中、アルフレッドは収容者たちと接触を続けた。だが、彼らの背後に潜む闇は想像以上に深かった。


特にフリーヤの衰弱について、アルフレッドはひそかに疑念を抱く。資料には、能力を持つ者たちが次々と消えていく記録が残されていた。表向きには「急死」とされているが、解剖用の「実験素材」として利用されている可能性がある。


アルフレッドは、冷静さを保ちながらも、胸の奥に怒りを秘めていた。


「……君たちを救う手段を見つける。それが、私の使命だ」そう誓いながらも、彼は慎重に行動し、任務を遂行する準備を整えていく。

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