第97話 文化祭二日目 其の五
奏と図書館へと向かっている間、昨日の『ずっと一緒にいる』という約束を破ってしまったことを謝った。
「私から離れましたし、今回は見なかったことにしてあげます。でも、今日はたくさん謝っていたので、たくさん言うこと聞いてくれそうですね?」
「悪かったと思うことはちゃんと謝るから。」
奏は「ふふっ。」と笑い、体を寄せる。学校だと言っても離れようとしないので、奏の好きなようにさせる。
「…じゃあ、今日はお家に帰ったら、歩くんをいっぱい甘やかしたいです。」
「はいはい。気が済むまでどうぞ。」
奏と雑談をしていたら、いつの間にか図書館へと戻ってきてしまった。
図書館の一人用のスペースで加藤先輩は本を読んでいたが、僕らを見るとすぐに本を閉じ、手を振る。
「すみません。お待たせしました。」
「うん。大丈夫だよ。でも、ここは騒いだらいけないから、書庫に行こうか。鍵は借りてきたし。」
準備までしてくれていた先輩には頭が上がらないが、もたもたしてはいられないので、すぐに先輩についていく。
書庫に入ると、たくさんの本が並べられていて、なかには平積みにされているものもあった。
少し涼しいくらいの空間を少し進むと、先輩は振り返った。
「…話はまとまったようだけど、まずはこれを。」
「…この紙は何ですか?」
奏は渡されたものを見て、そのことについて先輩に聞くと、先輩は「入部届だよ。」と言う。
「入部届ですか?」
「うん。春川くんからの条件を聞く代わりに、二人には僕からの条件を受けてもらう。」
「奏をどこに入部させるんですか?」
僕の質問に先輩は首を振って、「春川くんもだよ。」と、僕にも入部届を渡す。
奏を見ると、奏もよく分かっていないらしく、首をかしげる。
「えっと、先輩、僕らは何の部活に入るんですか?」
僕の質問を待っていたらしい先輩は「いい質問だ。春川くん。」と、なぜか鞄から出したお面を着けて言う。
「…君たちには古典部に入ってもらう!」
「こ、古典部、ですか?…どんな部活何ですか?」
僕は古典部という部活の存在すら知らなかったので、先輩に聞く。
その質問に、先輩は「またしても、いい質問だ。」と言う。
「古典部は今や部員ゼロ名の廃部間近の部活だ。何故、部活動紹介でも紹介する人がいなくて、今年の一年生は知らない人が多いんだよね。」
「な、何でそんな状態に…?」
奏が僕も気になっていたことを聞いてくれ、それに先輩は一度ため息をついて、理由を話し始めた。
「それが、今年の7月の初めに留学体験があってね、古典部部長、まあ、もともと一人しかいなかったけど、その人がそれに参加しちゃって、9月の初めまで帰って来ないんだよ。」
「三年生は8月以降は大会が無いと、基本引退になるんですよね?」
奏の質問に先輩は「そうなんだよ。…はぁ。」とため息をついた。
「なら、古典部は廃部に?」
「ああ。そのことなんだけど、僕がその人と仲が良かったから、その人に『古典部は続けてほしいけど、僕は話すの苦手だから、代わりに誰かを部活に入れてほしい』って言われてね…。」
なんとなく先輩の苦労が分かり、奏と一緒に「「ああ…。」」と同情の念を抱いたことを示してしまい、先輩に苦笑を向けられた。
奏は気になることがあり、先輩に「質問してもいいですか?」と言うと、先輩はすぐに頷いた。
「この学校の部活は最低でも五人の部員と、顧問の先生一人がいないといけないと聞いたことがあるんですけど、あと三人と顧問の先生はどうすれば…?」
「…それは、君たちに任せるってことで…。あ、あと、期限は夏休みが終わった一週間後の部活動会議までなんだけど…」
「「えっ…」」
一応、部活動が設置できる条件を知っていたのだが、部員と先生までも探さなければならないとなるとかなり厳しい。それに期限付きとくるので、厳しさはさらに増している。
一応頼れそうな人はいる。ただ、全員が許可してくれるとは限らない。
「人は多分探せますけど、先生方が納得してくれるかは…」
「ああ、先生なら大丈夫。学園長の門脇先生が担当していただけるので。」
「え、よく許可出していただけましたね!?」
さすがに学園長が顧問の先生になるとは思わず、大きな声が出てしまい、先輩は口に人差し指を当て、静かにするよう求めてくる。
本来僕らは書庫にはいないはずなので、騒がしくしてバレてしまったら先輩に迷惑をかけてしまうことになるので、大人しく静かな声で「すごいですね…」と言う。
「まあ、日頃の行い的なものでしょ?あ、ちなみに、学園長には学校の過去について調べる部活動だって言っちゃったから、そういうことにしておいて。…君たちには悪いと思ってる。ほんとに、巻き込んでごめん。」
先輩はそう言って頭を下げた。先輩が先輩の友達のためにしようとしていることを断ることなんて出来ない僕は、その条件を飲むことにした。
「い、いいのかい!?こんな仕事を押し付けてしまって。」
「大丈夫です。顧問の先生まで予約してもらっていて、断ることなんてできませんよ。かなり厳しい条件ですけど、なんとかしてみせます。」
チラッと横目で奏を見ると、「任せてください!」と言いたげに頷いた。
「二人とも、ありがとう。じゃあ、僕のお願いは以上だよ。さて、春川くんの退部届なんだけど、あとはここに名前を書けば、僕が先生の機嫌がいいときに渡しておくから。」
「助かります。」
先輩は「いやいや。」と否定して、「僕のお願いよりかは簡単なことだから。」と否定した理由を話すので、お願いの重さも先輩なりに考えてくれていたのだろう。
その後、退部届に名前を記入して、僕は学校が始まった一週間後ほどの時に退部届が受理された。




