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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第四章 文化祭
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第96話 文化祭二日目 其の四

 劇を見終わり、僕と奏と姉さんはそれぞれこう思った。


(何も聞こえなかった…)

(何も聞こえませんでした…)

(何も聞こえるわけないでしょ…)


劇が終わった後も、前の方に固まっている女子生徒たちは思い思い絶叫していたので、結局体育館から出てすぐに僕ら三人からはこの感想が出てきた。


「劇より声大きかったですよね…。」

「うん。あれはもう一種の才能だよね。」

「それにしても、部長ってあんなにモテてたんだ…」


体育館に集まっていた女子生徒たちはパッと見、全校生徒の四分の一ほどだったので、まあ、そういうことだ。

バレンタインの日になったら大変そうだ。というか、去年まではどうしていたのだろうかと今更ながら気になってきた。


「あ、いたいた。春川くん。」

「え!?部長!?」


ここで会うとは思っておらず、いつもより大きな声が出てしまい、慌ててすでに制服に着替えた部長に口元に手を当てられた。


「ほらほら、静かにして。皆に気づかれるから。っと、そちらの方は?」

「私は春川忍です。歩の姉です。」

「そうでしたか。僕は三年の加藤(かとう)風太(ふうた)です。陸上部の部長と、生徒会長をしています。」

「頑張ってるねぇ。加藤君も、ちゃんと休まないと駄目だよ?」


姉さんは「あれじゃ休む間もないけど。」と付け加えると、部長は「ごもっともです。」と軽く笑っていた。

それを見ていた奏は繋いでいる僕の手を引っ張って、耳元で「忍さんと知り合いじゃないですよね?」と疑問を口にする。

多分、姉さんは距離を取っているので、近づかれなければ大丈夫そうだ。


「会話内容と僕の記憶では初めてのはずなんだけどね。」

「そ、そうですよね。」


奏は少し困惑していたが、部長に話しかけられてすぐにいつもの学校での奏に戻る。


「はい、なんでしょうか?」

「良かったね。春川くんと結ばれて。」

「あ…!」

「じゃ、僕はこの辺で。」

「あ、あの…あ…。」


奏は部長を呼び止めようとしていたが、上手く言葉に出来ないようなので、代わりに僕が呼び止める。


「…部長。」

「ん?どうしたの?」

「ありがとうございました。奏のサポートをしていただいて、ありがとうございました。」

「…うん。それで?」


部長はこれから僕が何を言うのか分かっているらしく、無駄な口は出してこない。


「これからは、僕が奏のサポートをします。だから、退部させて下さい。」

「…え?」


真っ先に反応したのは奏だった。

奏の手がするりと抜け、僕の右手は空気を握った。


「いいよ。その代わり…」

「だ、駄目です!」


奏は加藤先輩の了承を遮り、僕と先輩の線上に立つ。


「歩くんは、歩くんが、私のためを思って言ってくれているのは分かります。だけど、私は、歩くんが、頑張ってるところを見るのも好きなんです!」

「大丈夫。部活をやめても、ちゃんと走るから。」

「それは…!」


奏が何か言おうとしているのは分かるが、ここで引くわけにはいかない。


「し、忍さんは、何か思わないんですか!」

「私?う~ん。それは本人が決めることだと思うんだけど。」

「…!」

「あっ!奏!」


奏は走って教室のある新校舎へと走って行ってしまう。


「行きなよ。君が退部するのは、彼女を説得出来たら、僕がなんとかしてあげよう。」

「それは…」

「ただし!、期限は今日までだよ。」

「え!?」


加藤先輩は少し微笑んで、「頑張ってね。僕は図書館で待ってるよ。」と言って、旧校舎へと向かって行ってしまった。


「大変だね。弟くん。」

「それよりも、奏を追おう。誰かに捕まったりしてたら嫌だ。」

「あはは。弟くんらしいや。じゃ、行こうか。」


そうして、僕と姉さんは新校舎に逃げた奏を追うことになった。



 逃げ出してしまいました。歩くんが部活をやめるのをもっと後にしようとして、逃げてしまいました。

(何やってるんだろう私…)


「あれ?秋山さん?」

「あ、ホントだ。歩は?」

「あっ…」


星野さんと白瀬さんに出会ってしまい、二人は私を見て、すぐに駆け寄ってきます。


「ど、どうしたの秋山さん!歩に何かされた!?」

「と、とりあえず、見られないところに!」


二人は私を支えつつ、一時間ほど前に歩くんに焼きそばを食べさせたところまで移動しました。

そこで何があったのかを二人に話すと、二人はそのことを知っていたらしく、星野さんは昨日の夜に歩くんから聞いていたそうで、そのことについて教えてくれました。


「…だから、春川は秋山さんとの時間を大切にしたいんだと思うよ。」

「…それは、分かってるんです。でも、それは歩くんの楽しいことを無くしてしまうと思うんです。歩くんは私と会う前は部活で楽しそうに走ってました。でも、最近は私に合わせてばかりで、ちゃんと走れてなさそうです…」


二人は私の話を静かに聞いて、顔を見合わせて一度頷きました。


「ねぇ、秋山さん。春川は秋山さんと一緒にいる方が楽しいと思ってるんじゃないの?」

「で、でも…歩くんは、楽しそうに走らなくなって…!」

「歩のことだし、いつもプランとか考えて、いつかは秋山さんと一緒に楽しく走りたいんじゃないの?」

「あっ…!」


確かに歩くんは毎日通るルートや歩く時間と走る時間、走るときのペースなど、いろんなことを伝えてくれます。

どうして忘れていたんでしょうか。

今すぐにでも、歩くんに会いたい。会ってこれからのことを話したい。


「私、歩くんを探してきます。」

「あー。そのことなんだけど。」

「?」

「もう、来てるよ?」

「え?」


踊り場から階段を見ると、そこには歩くんと忍さんが立っていて、だんだん階段を上がってきます。

二人が踊り場まで上がると、忍さんは星野さんと白瀬さんを連れて階段を降りて行ってしまいます。


「とりあえず、座ろっか。」

「…はい。」


歩くんに促されるまま、食べさせたときと同じように、歩くんの右隣に座ります。


「ごめん。何にも話さなくて。ちゃんと、話しておけばよかったよね。ほんとにごめん。」

「そんなに謝らないでください。私も、星野さんと白瀬さんに教えてもらいました。歩くんがちゃんと考えてくれてたこと。」

「どのくらい、教えてもらったの?」


歩くんに二人から聞いたことを教えると、歩くんは「そっか。」と短く返し、私の手を引いて立ち上がります。


「じゃあ、行こうか。」

「い、行くって、どこにですか?」

「それは行ってからのお楽しみってことで。」

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