第92話 文化祭は続く…!
奏は昨日のうちに準備していた食材をキッチンに出して、料理を作り始めた。何を作るのか聞いて、明日の夜にでも食べれるように食材を追加して、追加した食材の下準備から始める。なぜか、今日はエプロンを交換して。
「不思議ですね。なんだか、いつもと違うと言うか。なんて言うんでしょうか?」
「違和感?」
「あ、それです。時々言われるまで思い出せないときってありますよね?」
「あ~、分かる。答えが出なくてモヤモヤするよね。」
いつも通り、他愛もないことを話しながら料理を作っていると、洗濯物をたたみ終わった姉さんがやってきて、エプロンを交換していることを指摘すると、奏の頬が赤くなっていた。
やはり、他人から言われるのは恥ずかしいみたいだ。
「言わないでください…。」
「まあまあ。そんなときは照れてる弟くんを見て、リフレッシュだよ?」
「えっ!」
手の甲を頬に当てると、少し熱く感じた。
もしかしたら、奏も僕を見て、恥ずかしがっていると思っているのかもしれない。
キッチンの水道を上にして水を出して手をもう一度洗うことになったが、姉さんが「そういえば」と後ろで言った。
「キッチンの水道は阪神淡路大震災以降、上に上げるタイプになってるんだって。」
「え?何でですか?」
「地震で物が落ちてくると、その衝撃で蛇口が下がって水が出っぱなしになるからだよ。」
「へぇ。っていうか、何でそんなこと知ってるの?姉さん上げるタイプしか見る機会なかったでしょ。」
姉さんは「あはは。」と笑うだけで教えてくれなかった。ま知っていて当然とでも言いたげにも見えるが、言わないならそこで終わりだ。
「っていうか、姉さんは何でキッチンまで?」
「え?弟くんが殴られてたのが心配になってきて、様子を見てきただけだけど?その様子なら大丈夫そうだけど。」
「やっぱり手伝う気はないんだね。」
姉さんはまた「あはは。」と笑い、「まあ、キッチンに三人もいたら邪魔でしょ?」と理由を言う。
「まあ、それはそうだけど。」
「じゃあ、二人に料理はお任せします。」
「はいはい。」
姉さんはキッチンを出ていって、そのついでにお風呂のスイッチを入れてリビングに戻っていった。
「忍さん、男子生徒を殴り飛ばしてましたけど、男子生徒の方は大丈夫だったんでしょうか?」
「多分、大丈夫なんじゃないかな?姉さんも手加減してたみたいだし。」
「あれで手加減してたんですか!?男の人を3メートルくらいは飛んでましたけど!?」
「まあ、姉さんだし…」
「え、えぇ?」
正直、姉さんが手加減をしているとはいえ、男子生徒がぶつかった壁は少しへこんでいたし、かなり痛いと思う。
僕は殴られたことがないので分からないが。
多分、姉さんが本気でやったら、本当に死人が出るレベルなので、抑えてくれているだけいいかもしれない。
ちなみに、殴られた男子生徒は二日目には来なかったらしい。なんでだろうね?
鍋に蓋をして後は煮詰まるのを待つだけとなり、鍋に火をかけながら完成まで再び奏と話すことにした。
「奏は好きな料理とかあるの?」
「私は歩くんの料理ならなんでも好きですよ?」
「それは嬉しいけど、誰が作っても好きな料理とかはあるの?」
「そうですね…、シチューは好きですね。」
シチューと聞くと、零さんと姉さんが作っていたあの美味しいシチューが思い浮かんできた。というか、それ以外出てこなかった。
「ねえ、奏の思ってるシチューって、零さんのじゃない?」
「そうですね。お父さんの作ったのしか食べたことないかもしれません…。」
「…そっか。うん。あれ、美味しかったよね。」
奏がほとんど身内の料理しか食べていないことが分かり、この質問が無駄だったことが判明した。
「…できたみたいだし、盛り付けよっか。」
「?、はい。」
奏は少し不思議そうにしてから鍋から器に料理を移していた。
奏が料理を移し終わると、姉さんが「美味しそうなにおい!」とキッチンに戻ってきた。
「今日はポトフなんだね。」
「うん。明日は片付けもあるし、遅くなると思うから、残ったのを明日の夜に食べれるようにと思ってね。」
「だから今日は多く準備してたんですね。」
奏は手のひらにこぶしをポンと弾ませて「なるほど」と納得していた。
「あれ?話さなかったっけ?」
「話してないですよ。私、今まで知らずに作ってました。」
「…それはごめん。」
奏はエプロンを外しながら「そんなに謝っていいんですか?」と少し嬉しそうな表情を見せていた。
「え、今日だけで何回だった…?」
「うーん。いろいろあって数えれてないんですよね。三回くらいでしょうか?」
正直、奏のお願いは度を越すことはないので、あまり注意することではないのだが、お風呂関係だけは注意している。
ボディタッチが多い分、理性の箍が外れる可能性が高く、望まぬことを無意識のうちにするかもしれない。
「今日は何すればいいの?」
「そうですね…、なら、明日はずっと私といてください。」
いつもしていることをお願いされて、「え?それだけ?」と言うと、奏に「歩くん、もしかして期待してたんですか?」と笑われた。
「…うるさい。」
「ふふっ。仕方ないですね。今日は甘やかしてください。」
奏はポトフの入った器を両手に持ちながら、笑顔でそう言うとリビングに移動した。
「いやぁ、弟くんも愛されてるねぇ。」
「うん。嬉しい限りだよ。」
「…あのさ、おじいちゃんの家にどのくらいいるつもりなの?」
姉さんは少し躊躇いつつ聞いてくるので、すぐに両親の話だと分かった。
「できれば、できればだけど、日曜日の夜から木曜日の夜くらいまでだと、…うん。そのくらいまでなら、大丈夫…だと思う。」
「…ありがとう。考えておくよ。」
「ごめんね?弟くんの気持ちも分かるし…」
「大丈夫。多分、そろそろ割りきる時だと思うんだ。」
キッチンから出ると、廊下で待っていたらしい奏に会う。その奏の目元には涙が浮かんでいた。
「あ…その…ごめんなさい!私が、行くなんて言わなかったら、すぐに帰れるはずだったのに…」
「大丈夫だって。奏が気にすることじゃないよ。僕もそろそろ割りきる時だって思っていたからさ。ね?」
「…歩くんは、嫌じゃないんですか…?」
「奏がいてくれたら、嫌じゃないよ。」
奏が浮かべた涙を指で拭うと、奏は「ほんとですか…?」と言うので、器を持ちかえてから奏の手を引いてリビングに向かう。
器を机に置いてから、ソファーに座り、奏を膝の上で向かい合うように座らせてから抱き締める。奏は僕に身を任せて、すんなりと腕の中に収まった。
僕が奏を離し「これでも、分からない?」と言うと、奏は「…もう、大丈夫ですか…?」と心配そうに聞く。
「もっと辛くなったときに、お願いしたいな。」
「…はい。そのときは、必ずしますから。」
次の話の投稿遅れるかもしれません。
遅れたらごめんなさい。




