第88話 文化祭一日目 其の五
僕がホットドッグを食べ始めると、奏は椅子を隣に持ってきて、同じようなホットドッグを食べ始める。
「奏のってちょっと違う?一口いい?」
「え?…はい。どうぞ。」
少し視線を逸らした奏に違和感を持ちつつ、奏が差し出したホットドッグを一口食べると、味が違わないことに気付く。
「あれ?一緒…?」
「…はい。一緒なはずですけど…」
奏の食べる量を減らしてしまったと思い、僕もホットドッグを奏に差し出す。
「奏も、一口分食べる?」
「…食べます。」
奏は一度僕とホットドッグで視線を往復させてからホットドッグを食べる。そして、改めて僕に視線を戻す。
「…あの、これ、間接キスになりませんか?」
「…あ。」
正直、無意識にやっていたので、言われるまで気付かなかったが、よくよく考えれば、当たり前のことだ。まあ、これまでもやってきたので、今さらといえば今さらである。
「でも、奏ちゃんはわざと弟くんと一緒のにしたんだよ?」
「忍さん!それは言わないでください!」
姉さんが真実を言ったらしく、奏は顔を赤くしつつも、僕のホットドッグを食べる。
「なら、分かった上で?」
「…はい。」
「でも、間接キスなんて今さらじゃない?」
「…確かに。そうですね。」
奏は持っているホットドッグと僕が持つホットドッグを交互に食べて、満足そうにしていた。
「ちょっと多くないですか?」
「お腹いっぱい?」
「…はい。」
奏が残した奏が持っていたホットドッグを受け取ろうとすると、奏は一度ホットドッグを遠ざけて、再度僕の口元にもってくる。
「はい。あーん。」
「え?あーん。ん。」
「美味しいですか?」
「さっきより幸せと視線を感じる。」
「…。」
奏は見られていたことを忘れていたらしく、すぐに椅子を反対側に向ける。僕も同じように椅子の向きを変え、隠れながら奏に餌付けしてもらった。
全て食べ終わった後に、奏は僕の頬に口づけるので、思わず奏の方を向くと、今度は唇が触れ合う。
「んっ…、もう、奏?ここは学校だからそういうのは帰ってからでしょ?」
「でも、我慢出来なくて…」
「分かった。今日は帰ってからいっぱい甘やかしてあげるから、今は我慢。ね?」
「うぅ。はい…。」
奏は腕に引っ付くだけで済ませていたので、本当に今日は奏を甘やかさないといけないのかもしれない。
お昼時にはお昼ごはんを食べに行ったのか、お客さんがほとんどいなくなって、倉敷さんの当番時間の12時半の手前までお客さんを含め誰も射的に来ることはなかった。
「秋山さん、春川さん、それに、春川さんのお姉さんも、わざわざありがとうございました。助かりました。」
「大丈夫ですから。私たちも途中いませんでしたし。」
「うん。僕も大丈夫だよ。倉敷さんも、これから楽しんでね。」
「はい。では、皆さんも、楽しんでください。」
次の当番が来るまで、皆で待つことにしてチラッと時計を見ると、時刻は12時半になる寸前だった。
もしかして、次の当番も来ないかと思い、スマホで当番を確認しようとすると、誰かに目を隠される。
「だーれだ?」
「夏樹だね。」
「残念でした。隠してるのは私で~す。」
目元から手が離れ、振り返ると夏樹と真冬がいた。次の当番は二人らしい。
夏樹は僕と奏がいたことを不思議に思ったらしく、まだお客さんが来ていない間に射的用の銃を景品に構えながら聞いてくる。
「そういえば、二人って当番じゃなくないか?」
「それがさ、ーーー」
夏樹たちに北村さんが当番に来なかったため、倉敷さんを手伝っていたことを説明すると、「それはごめん。気付けばよかった。」と謝られてしまった。
「まあ、僕らが勝手にやってたことだし、夏樹が気にすることじゃないよ。」
「でも、わ、私は、助かりました…。人と話すのは、少し、苦手、なので、あの、ありがとうございました。」
「倉敷さんも助かったみたいだし、本当に助かったよ。」
「でも、お昼時だったからかそこまで人は来なかったけどね?」
実際、倉敷さんが来る前の一時間の半分も来ていないと思う。奏が途中から抜けてからは本当に人がいない時間もあった。
「それでも助かったよ。ほんとは秋山さんと一緒に回ってたのかもしれないしさ。」
「…それは、そうだけど…、困ってたら助けたいじゃん?」
「そういうところ、ほんとに春川らしいな。あの時も助かったし…。」
「あの時?」
「ああ、いや、気にしないでいいよ。こっちの話だから。」
夏樹はようやく来たお客さんに対応しに行ってしまい、曖昧なところで話が終わってしまった。
お客さんに説明をしてきた夏樹が戻ってきて、「秋山さんと一緒に回ってこいよ。」と教室を追い出されてしまう。奏と姉さんが廊下で真冬と話していて、真冬は僕が廊下に出されたのを見て、話を止めた。
教室の入り口あたりですれ違うときに「秋山さん、楽しませてね?」と言われたので、奏たちには聞こえないように「分かってるよ。」と言うとおもいっきり背中を叩かれた。
「いっ!?」
「あはは。任せたよ?」
「…うん。任せられた。」
真冬は笑顔を少し見せてから、教室に入っていった。真冬に叩かれたところを触ると、少しヒリヒリした。




