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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第78話 スキンシップ

 次に動けるようになったのは、奏の腹筋の痛みが引いてからだった。


 零さんが作った和食はしっかりと味付けがされていておいしかったが、買ったお皿がないことに気付き、零さんに聞くと、「ああいうのは、一回洗ってから使う方がいいよ。」と言われ、理由を聞いて納得した。

一方で奏に「和食は歩くんの方が上手いですね。」と言われてから、零さんは少しテンションが低いように見えた。


 当たり前のように奏と一緒にお風呂に入り、三つ目のお願いである『しっかり抱き締め寝る』こともちゃんとできた。その他、少しいちゃついたのは、記憶から消したいが、印象が強すぎて忘れられなかった。



 日曜日は朝から元気な奏と一緒に勉強会をして、夏休みの課題になりそうなところを教えあって、かなりの量をこなしていた。さすがに予想外だったのは、奏はまだ腹筋をつっていたことだ。



 奏のスキンシップは、少し強引なところがある。例えば、今日のところだと…


「私だって好きでつってるわけじゃないですもん!」

「分かった。分かったから、そこまで引っ付かなくても、いいんじゃないか…?」

「むぅ…!歩くんは、そんなに私に引っ付かれるのが嫌なんですか!」


奏は頬を膨らませて、不満を表す。不満を持ちながら課題をしてもまともに内容が入ってこないと思い、奏に本心をぶつけて落ち着かせることにした。


「嫌ではないけど…、ドキドキしてるのを聞かれるのは、恥ずかしいというか…」

「じゃあ、もっと引っ付きます!」

「なんで!?」


結局、スキンシップの時間が伸びてしまい、二人で反省することになった。



 最近気がついたのは、奏は引っ付きたいときは右隣にいて、真面目なときは左隣にいるということだ。位置で気持ちを表しているのが、なんだか愛らしく感じた。

その事を奏に言うと、「切り替えは大事ですからね。」と真剣に返された。さすが学年一位。普段の行動からしっかりしていらっしゃる。


 テスト当日と同じように五十分しっかり課題に取り組み、その後十分を休憩時間にして進めると、なかなか進みが速くていい。

人によって違うとは思うが、僕と奏は同じタイプらしく、奏に至ってはわざわざスマホでタイマーを設定するくらいだ。


 お昼までほぼ休憩時間以外の休憩はなく、お昼ごはんを食べてからも、晩ごはんまでほとんどその繰り返しだった。明日までは零さんたちがいるので、零さんは晩ごはんと明日の朝ごはんを頼まれてくれた。



 晩ごはんの一時間ほど前、僕と奏はゆっくりと歩道を歩いていた。

本来であれば、走るはずだったのだが、奏がついていきたいと聞かなかったので、つれてきたのだが、昨日の足の件もあり、走ることはしなかった。奏もそれが分かっているようで、手をつないでいろんなことを話しながら歩いた。


 マンションに入る前に、一本だけ軽く走りたいと奏に言うと、「私もいいですか?」と言うので、そこは否定して、マンションの周りを一周だけして、置いていかれて悲しそうな奏の手を握って部屋まで戻った。



 部屋まで戻ってくると、零さんと姉さんが料理を作り終え、リビングで姉さんが借りているDVDを見ていた。雫さんがいないように見えたが、雫さんは零さんの膝枕の上でテレビを見ていたため、ソファーによって見えなかったようだ。


「奏、これ結構面白かったわよ?」

「ひっ!?」


奏が渡されたDVDのパッケージには血飛沫が描かれていて、先日見た奏の苦手なホラー系だった。


「雫、それじゃなくてこっちでしょ?」

「あら?そうだったかしら?」


雫さんの天然さを見せられつつ、とやかく言うとのも違うと思い、言葉は飲み込んでおいた。



 晩ごはんは洋食で、昨日買った食器に盛り付けられていた。


 食事中、零さんは少しテンションが低かった。多分、昨日奏に言われたことが原因なのではないかと薄々思うのだが、言った張本人は零さんを全く気にせず食べ進めていた。


「れーくん。今日は洋食なのね~。」

「うん。いろいろあって、気分が変わったからね。」


雫さんの何も気にしていない発言に表情一つ変えず、零さんは笑顔で答え、奏に目をやるが、奏は少し首をかしげて、また食べるだけだった。

(奏さん、あなたのせいですけど!?気にしないんですか!?)

そんな心の中のツッコミは、奏に届くことなく、心の中に消えていった。



 晩ごはんが終わり、昨日と同じように零さんが洗い物を担当してくれたので、お風呂に入る。

奏に頭を洗ってもらっていると、奏は「そういえば、今日はお父さん元気がなさそうでした。」と言うので、心の中で(奏のせいだけどね?)とツッコミを入れておく。奏に言うと、後からどうなるか(大体分かるが)分からないので、言うのはやめておいた。


「…なんでだろうね?」

「う~ん。歩くんでも分からないですか…。お父さん、たまにああいう感じになるんですよね。」

(…奏、本当に気づいてないのかなぁ?)



 お風呂から上がると、シャツとパンツに、昨日見た(というか着た)白と黒の猫の着ぐるみが置いてあった。そして、廊下につながるドアの隙間から、チラッと姉さんが顔を出している。


「これを着ろと?」

「…(こくり)。」

「拒否権は?」

「…(ぶんぶん)」


入る前に確認したときには、いつもの着替えが置いてあったのだが。わざわざ入れ替えたのらしい。とりあえずシャツとパンツは身につけたのだが、正直着ぐるみを着たいとは思わない。


 考えていると、奏は僕が誰かと話しているのが聞こえたらしく、お風呂のドアの向こう側からドアをノックする。


「歩くん?どうかしましたか?」

「あ、えっと…」

「…(これ。早く!)。」


姉さんは扉をスライドさせ、隙間を広げる。その隙間から腕を伸ばし、着ぐるみを指差す。

(本当に着るのか!?)


「なんというか、その…」

「歩くん?やっぱり何か…?え?」

「「あっ。」」


奏はお風呂のドアを開けて、僕と姉さんに目を合わせ、そのまま視線をずらし、視線は白と黒の着ぐるみで止まる。


「歩くん!着ましょう!」

「え、僕はちょっと…」

「ほらほら、後は黒猫だけですから…!」

「ちょ、ちょっと待て、僕は着るなんて言ってな、って姉さん!?」


姉さんは面白いものが見れると思ったらしく、スマホを構えている。


「と、撮るなぁ!」

「私も着ますから…」

「嫌だ!昨日みたいにはなりたくない!」


昨日の夜ああいうことがあれば、避けたくもなる。だが、奏は分かっていつつも、わざとこういうことをするので、誰にも止められない。


 結局、姉さんに着替えさせられ、黒猫姿でお風呂場を出ることになった。

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