第77話 戦利品
なんだかたくさん荷物を持った姉さんと零さんに、少しだけ荷物を持った雫さんと合流し、全員がやりたいことはやったそうなので、駐車場に向かう。
「いっぱい買えたわ~。帰ってからが楽しみだわ~。」
「ふふっ。確かに私も楽しみになってきました。」
「あ、あはは…」
車の中で雫さんと姉さんが話で盛り上がっていて、零さんが少し引き気味で笑っていた。
何の話か分からない僕と奏は、その表面だけしか分からない話を聞くしかなかった。
マンションに着き、全員でエレベーターに乗っているときに、姉さんが持っていた袋の中身が少し見えた。どうやら服が入っているようだが、袋の大きさ的にかなり買ったようだ。
「姉さん、結構買ったね。」
「ん?あ、うん。全部が私のってわけじゃないけどね。」
少し嫌な予感がしたので、とりあえずカマをかけてみることにした。
「何買ったの?」
「え?え~っと、それは…」
「歩くん、それはお楽しみだよ?」
姉さんが答える前に雫さんが割り込んで、内容が分からなかったのだが、やはり、何か隠している。
「まあまあ、歩くんのもあるし、そんなに気にすることじゃないよ?」
零さんがそうまで言うなら…と言ったのはいいものの、奏が着替える前に見つけた猫の着ぐるみを思い出して、奏以外誰も信用できなくなってきた。
部屋に戻ると、姉さんと雫さんはクローゼットをいじっていたので、どんな服を買ったのか見に行くと、普段着ではなさそうな服がたくさんかけられていたり、底に積まれていた。
どんな服なのか気になり、クローゼットを開き、かかっている服に手を伸ばしたところ、伸ばした腕を掴まれる。
「弟くん?何しようとしてるのかな…?」
「え、えっと、姉さん、何を!?」
姉さんが寝室の方に指を差すと、ちょうど扉が開き、白猫の着ぐるみパジャマを着た奏が現れる。
「え…?」
「え、あ、歩くん!?」
「奏っ!って、あれ!?」
奏に駆け寄ろうとしたところ、掴まれているため動けず、いつの間にか姉さんが持っている黒猫の着ぐるみが視界の下あたりに入る。
「弟くんも、着るんだよ…?」
「あ、あ…!」
その後、姉さんによって黒猫を着せられ、奏の隣に座らせられる。上は脱がされたが、下は履いたままで身動きが取りづらく、さらに暑い。…そして、なぜか撮影会が始まった。
「ほら、弟くん、もっと笑って!はい、チーズ。」
「二人とも可愛い~。」
「あ、あはは…」
「「…。」」
ほとんどポーズをすることはなかったが、撮られているだけですごく恥ずかしくなってきて、視線を落とすと、「服の耳が立ってて可愛い~。」と雫さんに言われ、もうどうしようもなかった。
約1時間ほど撮影会が行われ、精神的に疲れてしまっていた。
「二人とも、今日はそのままよ?」
「弟くんも似合ってるから、安心していいよ?」
そう言い残して、姉さんも雫さんも零さんの料理を手伝いに行ってしまった。
「に、にゃあ?」
「…。」
「え?歩くん?」
奏がポーズをしながら鳴き声まで真似するので、思考がフリーズしてしまったらしく、奏に肩を揺らさせて、再び奏…というより、可愛い白猫を捉える。
「えっと、に、にゃあ?」
「にゃ、歩くん、違います。手はこうです。ほら、にゃ~。」
「にゃ、にゃ~。」
「上手です。次はこういうので…」
なぜか急に馬鹿(今は黒猫かもしれない)になった気がしてきて、黒猫を脱ごうとすると、奏が袖口をつまむ。
「歩くん、ちょっと。」
「どうしたの?」
奏が近くに寄ってと合図するので、何か聞かれたくないことなのだろう。奏は耳元で小さい声で話し始める。
「寝室に他の服があるんです。」
「どういうこと?」
「だから、脱いだらそれを着させられるんです。」
「普通の服ではないと?」
奏は少し距離を取ってから頷く。面倒なことになったと内心思うが、下手に何かすると、今度は他の面倒事に巻き込まれそうな気がする。こういうときは大人しくしておくのが一番だろう。
奏は女の子座りで膝に手を置いて、こちらを見る。そして、僕を視界に入れながらだんだん前傾姿勢になってじりじりと距離を縮める。
「そこでです。歩くん。」
「…何?」
嫌な予感しかしないので少し警戒して離れてみるも、奏は全く気にせず近づき、壁にまで追い詰められる。
「お願い使ってもいいですか?」
「え?」
「それも二回ですよ?あ、毎日一個ずつを入れたら三回ですね。」
「そんなに言ってた?」
「はい。両方とも歩くんがぼーっとしていたときにです。」
あの時は本当に無意識だったので、記憶がなくて嘘かどうかも分からない。奏は記憶力があり、見逃さない限りはカウントしているはずなので、きっと言っているのだろう。
「じゃあ、何お願いするの?」
「それはですね…」
そうして三つのお願いをされたのだが、そのうちの一つは今できることではないので、その時になるまでとっておく。
「えっと、一つ目は『猫っぽく演じる』だっけ?」
「駄目ですよ歩くん。猫っぽい語尾つけてくださいにゃ。」
「わ、分かった、にゃ。」
僕にとっては公開処刑のようなものだが、なぜか奏も一緒にやってくれている。恥ずかしくないのだろうか?
「歩くん、二つ目のお願い忘れてないですかにゃん?」
「『続きをする』でしょ…じゃない、にゃん?」
「ちゃんと覚えていてくれていました。にゃ。」
若干語尾をつけるのが怪しい気がしてきたが、奏はさらに体を引っ付けてくるので、部屋の角とサンドイッチされ、それどころではなかった。
「でも、歩くん。私、『モールで言ったこと』って言いました。だから、『続きをする』なんて言ってませんよ?にゃ。」
「え、でも、お願いなんて、それくらいしか…」
「あれ~?おかしいですね?私、『人目を気にしてください』って言ったはずなんですけど、そっちを持ってこなかったってことは、歩くんも望んでたんじゃないんですか?」
「ち、ちがっ!僕は…!」
奏は僕の太ももの上に座り、僕は完全に身動きが取れなくなってしまった。
「しょうがないですね。お願いも守らないし、続きを望んでる黒猫くんにはお仕置きが必要のようですね?」
「ひゃ!?」
奏は猫耳がついたフードごと僕のフードに突っ込んで、首元に吸い付く。
奏は一度首元から離れ、「可愛い。」と吐息交じりに呟くので、さらに頭の中が真っ白になっていく。そんな中、奏は耳元から離れることなく「私心配でした…」と話し始めるので、ちゃんと聞くつもりだったのだが、全く頭に入ってこない。
「いつもああいう……でも、今日は……なかったです。」
(なんて言ってるのか、全然分からない…!)
奏は一度僕のフードから顔を出し、僕を抱き締める。当然、奏は僕の太ももあたりに座っているので、抱き締められると、奏の胸辺りに顔がくる。その感覚で完全に頭の中がクリアになる。
(これ、姉さんに見られたらまずいのでは…!?)
奏を移動させようと腕を動かすが、結局奏にしっかりと抱き締め直されるだけだった。
その後、姉さんに写真を撮られて、奏が振り返ろうとして、腹筋をつってしまい、僕も動けなくなってしまったのは、五人全員が知ることになるのだが。
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