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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第76話 5人でのおでかけ 急

『もしもし、弟くん?』


電話越しでいろいろな音と姉さんの声が聞こえ、少し音量を小さくする。


「うん。もしもし、何かあった?」

『何かあったって、奏ちゃんいる?』

「奏なら、隣にいるけど。スピーカーにするから、ちょっと待ってて。」


一度誰にも迷惑にならないことを確認して、奏にも聞こえるようにスピーカーモードにする。


「ごめん、いいよ。なんだった?」

『奏ちゃん、財布取り戻したよ!』

「「え?」」

『だから、財布だよ。盗られてるの気づかなかった?』


姉さんは僕たちが聞き取れなかったと思い、もう一度伝えてくる。


「私、さっき気づいたんですけど…」

『いや~、私もなんとなく見覚えがあるキーホルダーだな~って思ってたら、間違いなく奏ちゃんの財布だったから、取り戻したの。とりあえず、ゲームセンターまで来れる?急がなくていいから。』

「わ、分かりました。今から行きます。」


電話を切って、奏の手を握って、空いている手で食器が入った箱を持ち、午前中に訪れたゲームセンターに向かう。

 ゲームセンターに着くと、何人か警察の方がやって来ていて、黒い服に黒いズボンというなんとも怪しい男が苦しそうにしながら取り調べを受けていた。

その男は計五つの財布を盗んでいたらしく、その中に奏の財布も含まれていた。

そして、すぐに財布が本人のものか確認して、奏の財布は返ってきた。


「お、二人ともごめんね、呼び出しちゃって。」

「いえ、私も困っていましたし、お財布も取り戻していただいた身ですし、文句は言えませんよ。」


奏は自分の財布が返ってきて、安堵しているようだったが、苦しそうな男を見て、少し疑問が湧いてくる。


「って言うか姉さん、よくあの人って分かったね?」

「ん?だって、そりゃあ、格好も行動も、ポケットの膨らみも、何もかもが怪しかったし、怪しいなって思っただけだよ。あと、あのキーホルダーもだけど。」

「どんなキーホルダーだったの?」

「こ、これです…。」


奏が見せたキーホルダーにはクリップが三つほどつけられていた。


「こ、これは?」

「…ピッキング用のクリップ、です…」

「…そっか。」


ゼムクリップという、手で曲げられるタイプのクリップで、いくつか外そうとした形跡が見えるが、途中で面倒になってやめたようだ。


「前までは学校にもお財布を持って行っていたんですけど、使わないなと思って、ピッキングに使って以降、持って行っていなかったですし、外してもいなかったんですよね。」

「ま、まあ、それで犯人が捕まったわけだし、結果オーライじゃない?ね、弟くん?」

「よかった…、のかな?」


その後知ったのは、その男は前にも同じようなことをしており、一度同じ罪で捕まったことがあったらしい。

 姉さんはその男をボコボコにしていたが、警察からは注意もなく終わったらしい。

…すごく苦しんでくるようだったが、大丈夫なのだろうか?



 姉さんにお皿を預け、奏と食器を買ったお店に行き、店員さんに財布が見つかったことを伝えると、「よかった。」と安心していた。きっと店員さんも盗られたと思っていたのだろう。

…まさか犯人が僕の姉さんにボコボコにされたとは思わないだろうが。

 お店を出ようとしたところで、食器を選んでいる夫婦がいて、その会話が聞こえてきてしまった。


「やっぱり、お皿も統一感がある方が…」

「いや、機能性がある方が…」


どうやら少し新婚夫婦間に亀裂が入っていそうだったので、見なかったことにしておく。

しかし、奏は先程の会話を聞いていて、「私たちも端から見れば夫婦なんじゃ!?」と顔を赤くしていた。

確かに彼氏彼女でお皿を買いに行くことはほとんどない気がする。


「ほ、他のところ行こうか?」

「そ、そうですね!そうしましょう!」


奏は行き先を伝えずにどんどん手を引いて進んで行くので、とりあえずついていくと、飲食店が多くあるスペースにやって来た。奏はそこで足を止めて振り返る。


「あの、どこに行けば、いいんでしょうか?」

「え?あ、え~っと…?」


奏はどこに行くか決めていなかったらしく、ただ歩いてここまで来てしまったようだ。


「やりたいことがないなら、零さんたちと合流するのもいいかも?」

「そうですね…、私はやりたいことは済んだので、歩くんは何かありますか?」

「僕もないかな。じゃあ、零さんたちと合流しようか。」


姉さんが零さんたちと一緒に回っているはずなので、姉さんに連絡をとると、すぐに場所を送ってくれた。


飲食スペースはモールの真ん中あたりにあるため、どちら歩いても、同じくらいの時間はかかるだろう。姉さんたちは食器売り場の逆側にいるらしい。


「姉さんたち、あっちにいるって。」

「そうですか。無駄足にはならなかったですね。」


奏はここまで来てしまったことが無駄ではなかったため少し安堵していた。



 奏と姉さんたちがいる方に歩いているときに、奏が少し躓いて、転びかけたところを支えることとなった。少し柔らかい感触がしたが、仕方ないことだったため、許して貰えた…というよりかは、見逃されたと言った方が正しい気がする。

 躓いていたことが気になり、奏に「足、大丈夫か?」と聞くと、奏は少し驚きの表情を見せた。


「わ、分かりますか?」

「分かるよ。いつも奏の隣を歩いてるんだからさ。」


そう言うと、奏は足元に視線を落とし、「少し痛いです…。」と言うので、通路の空いているソファーに座らせ、姉さんに連絡する。

場所を聞いてきたので、靴屋の前の通路だと送ると、また『了解』とだけスマホに表示される。



 奏の左隣に座り、少しの間姉さんたちを待っていると、奏が「そういえば…」と言うので、奏に目線を移す。身長が同じくらいなので、ちょうど目が合う。奏の水色の瞳は雫さんの瞳より澄んでいて、たまに見入ってしまう。


「歩くん?」

「え?あ、ごめん。なんだった?」

「もう、歩くん。私、ちょっと怒ってるんですよ?」

「え?なんで?」

「それは自分で考えてください!」


ちゃんと考えるが、一向に理由が分からない。

考えても分からないので、「なんでだろ…?」ともう一度奏に聞くと、奏にため息をつかれた。


「歩くん、もうちょっと人目を気にしてください。ほら、こういうの。」


奏が持ち上げた僕の右手には、しっかりと奏の左手が指を絡めて握られていた。


「ご、ごめん。無意識だった。」


奏に素直に謝ると、奏は前を向いてと合図するので、大人しくそれに従うと、耳元で「ほんとは私から握ったんですけどね?」と囁く。

 奏の方を向き直すと、目の前に奏がいて、そのまま唇を一瞬だけ奪われる。


「…続きは帰ってから、ですよ?」

「…奏が嘘つきだ…。」

「歩くんも、さっき嘘をついていたので、おあいこです。」


さっきというのは、財布を盗まれたときのことだろう。それを引き合いに出されると言い返せないので、大人しく受け入れておくしかなかった。

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