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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第75話 5人でのおでかけ 破

「奏も歩くんも、単品でよかったの?」


料理を決めて注文した後に零さんが心配になったらしく、僕と奏に聞いてくる。


「大丈夫ですよ。僕は基本これくらいしか食べないので。」

「うん。弟くんはあんまり食べないから、そこは心配しなくても大丈夫ですよ。」

「うーん。でもね、歩くん、しっかり食べなきゃ駄目よ?男の子なんだから、もっと食べなきゃ大きくなれないわよ?」

「まあ、大きくなるというか、がっしりするという方がいいかと…、まあ、僕も歩くんはもっと食べた方がいいとは思うけどね?」


零さんは雫さんの発言を少し訂正つつ、僕を見て、やはりもっと食べた方がいいと思ったのか、少し苦笑いをする。

 細いことを自慢したいわけではないし、もう少し体重も増やした方がいいとは自分でも分かっているのだが、食べすぎると体調が悪くなるのが分かりきっていて、たくさん食べる気にならないのだ。


「頑張ります…」


その言葉に雫さんが「ああ、それと…」と付け加えて、奏を見つめる。僕も奏の方を見ると、奏と目が合う。奏が「なんで私?」と不思議そうにしていると、雫さんが続きを口にする。


「奏も一緒に、ね?」

「わ、私もですか!?」


奏は巻き込まれることを想定していなかったようで、握っている手がビクッと跳ねていた。


「そうよ。奏もいっぱい食べないと、成長しないわよ?」

「…!」


奏は胸元に視線を落とし、空いた右手で胸を押さえる。そして、思った通りこちらを見る。


「それは、困ります…」

「でしょ?それなら、ちゃんと食べた方がいいわよ。」

「…頑張ります。」



 零さんたちと話していると、先程接客に来た女性店員と、もう一人女性店員が料理を運んできた。


「ほらほら、あの人!」

「ほんとだ!めっちゃかっこいい!」


ぼそぼそと会話しているつもりだろうが、普通に聞こえてしまうので、零さんはまた苦笑いをすることとなった。

当然ながら、雫さんは水色の瞳で彼女らをとらえることになっていたのだが。


「それでは、ごゆっくりどうぞ。」

「うん。ありがとう。」


零さんが店員さんたちにそう返すので、店員さんたちは戻っていく間も少し興奮気味だった。

雫さんが警戒を解くのはもう少し後になるのだった。



 全員が頼んだ料理を食べ終わり、雫さんが席を外すことを伝えると、姉さんも奏もそれについていってしまった。


「ねえ、歩くん。」

「どうかしましたか?」

「いや、僕が払うから、財布は出さなくていいよ?」


実は、料理を選ぶのに時間がかかったのは、少し値段を見て躊躇したからだ。単品でも600円は軽く越えるし、コースだと一番安くても1500円はする。

 いつも外に出て食べないからかもしれないが、高いように感じて、全部を払わせるのは良くないと思い、財布を出していたのだが、零さんに止められてしまった。


「でも、決して安くは…」

「歩くん。」


零さんのトーンの下がった声で、発言を遮られてしまう。


「今回は僕たちが連れていきたかったんだし、今日のところは僕が払うよ。今度君たちが僕らを連れ回すときまで、そのお金はとっておいて。」

「…分かりました。ありがとうございます。」


零さんは僕が頭を下げたのを見て、慌てて、「いいよいいよ。」と元のトーンで声をかける。


「僕は君にとって『お父さん』なんだから、気にしなくていいよ。『お父さん』は子供が嬉しそうにしているのが、一番嬉しいんだよ。」

「あ…!」


僕が認められなかったお父さんは決してこんな人ではなかったのだと、今一度感じてしまい、少し心臓辺りが痛くなってくる。


「僕は奏から君のことを少し聞いたことがあったんだけど、いざ君を見たとき、君は僕の予想以上に苦しんでいるように見えたんだ。だから、その苦しみから少しでも楽にしてあげたいんだ。」

「…。」

「親が頼れないなら、僕たちに頼ってくれていい。むしろ、頼らせてくれ。その苦しみは、抱えるには重すぎるから。」

「…っ。」


気がつけば僕は泣いていた。声をあげることはなく、ただ、心の奥がじんわりと温かくなる感じがした。きっと、二年ほど感じられなかった温もりを感じたのだろう。

零さんは席を移動し、僕の左隣に座る。そしてハンカチを取り出し僕に手渡した。僕はそれを受け取り涙を拭うと、零さんは僕の頭に手を乗せた。


「頑張ったね。よく、頑張ったよ…」

「…うん。」

「これからは、僕たちも一緒だからね。」

「うん…!」


大きくて、重みのある手。父親に撫でられた記憶などないが、父親のような安心できる大きさと重さだった。

 奏たちが帰ってくる少し前に涙は止まり、零さんはいろいろと持っていたもので泣いた跡を消してくれたので、奏に泣いたことを疑われることもなかった。



 零さんがお金を払い、お店を出た後に再び別行動になった。姉さんはやりたいことは一応終わっていたそうで、零さんたちと一緒に回ることにしたらしい。

 そして、僕たちが訪れていたのは、奏が前日から行きたがっていた食器売り場だ。

たくさん食器が並んでいて、いろいろな用途で使い分けられるものまであった。


「歩くん、この色もいいですね。」


そう言って奏が手に取ったのは(ふち)が青色と緑色の線で装飾されたお皿だった。


「そうだね。それの色違いもあるし、見てて飽きないね。」

「もう、見てるだけじゃ駄目ですよ。今日は買いに来たんですから。」


食器を持って帰るなら、車で来ている今日がベストなのは分かっているので、真面目にお皿を選ぶ。

 一つ分かったのは、奏も僕も、派手な柄は選ばず、基本は白色に少し色線がある食器か、何も柄のないシンプルな食器しか選んでいないことだ。


「なんか、白ばっかりだね。」

「そ、そうですね…。でも、これにさっきの青一色のお皿があっても、統一感がなくて使わない気がします。」

「確かに。そう言われたら、使わないかもなぁ…」

「それじゃあ、これくらいにしておきますか。」

「そうだね。」


そして奏とレジに向かっていると、手提げかばんを開けた奏は「あれ?」と声を漏らす。


「どうしたの?」

「あの…お財布が…」

「え?」


さっきまでいた通路を回って、財布を探してみるのだが、全く見つかる気配がない。


「誰かが拾って届けてくれた、とか?」

「それならいいんですけど…」


なんだか不安になってきて、とりあえず、カゴに入っている食器だけレジを通すことにした。

ついでに店員さんにも、奏が財布を落としたことを伝えると、「分かりました。確認してみます。」と言われ、確認してもらったが、今のところ届いていないらしい。


「もしかして、盗られたりして…!」

「いや、かばんの開け口は前にあったから、それはないんじゃないかな?」


奏が最悪の事態を想定していたので、本当はそこまで確認していなかったが、嘘をついた。

 だが、ここからどうするか。奏の財布を探すのは確実なのだが、誰かに盗られていたら、ここを探しても出てこない。


「そういえば、目立つものとか着けてない?」

「目立つもの、ですか…、あっ!私、キーホルダー着けてます。」

「キーホルダーか…、外されたら終わりだな…!」

「やっぱり、盗られたんでしょうか…」


奏の財布を探すのに必死で、盗られたことを前提で話していたため、結局奏を心配させることになってしまった。


「えっと、それは…」


何か他にありそうなことを言おうと思ったが、そのとき、電話が鳴る。

スマホには大きく春川忍と表示されていた。かけてきた相手は姉さんだった。

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