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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第72話 ベッドの正しい使い方

 奏の体を洗っていると、奏に名前を呼ばれ、顔を上げると、鏡越しに目が合う。


「どうかした?」

「えっと、いつもお風呂に一緒に入ろうとしないのに、もう三日は一緒に入ってるな…と。」

「…。」


奏は髪を洗い終わり、ピンクのネットを取って、ボディソープを泡立て始めた。

さすがに前は自分でやるよね。と気を抜いて奏の背中を洗い、手を止めると、「まだ終わりじゃないですよね?」とからかってくる。

とりあえず前以外をやろうと思い、腕や足も洗ってみたのだが、一向に奏の持つピンクのネットは使われそうにない。


「えっと、奏さん?やっぱり、前は自分でやっていただけると…」

「駄目ですよ?」

「え?」


奏は椅子の上で回れ右をして僕と向き合う。その後洗ったり洗われたりして、泡をしっかりと落としてから、浴槽に浸かる。ただし、奏が上に座るのだが。


 奏の頭が目の前にあり、いつも寝るときに嗅ぐにおいがする。今日は僕からもするのだろう。


「奏、それでちゃんと浸かれてるの?」

「大丈夫ですよ。歩くんは優しいですから。」

「そっか。なら良かった。」

「…むぅ。」


奏が少し機嫌が悪そうなので、代わりに頭を撫でると、少し機嫌が良くなったが、完全に良くなったわけではない。

奏は僕の上でもぞもぞと動いて僕と向き合い、手を僕の胸辺りに当て、僕の腕を奏の胸に付くように掴んで離さない。


「なんでドキドキしないんですか…!」

「えぇ?」

「私、こんなにドキドキしてて…、もう、どうしたらいいのか、分からなくて…!」


奏の胸からは早い鼓動が伝わってきて、ドキドキしているのがはっきりと分かる。だが、僕も奏と同じように、鼓動が激しくなっていて、まともに抑えられない。多分、奏は自身がドキドキしすぎて、僕の鼓動が分からないのかもしれない。


「奏。」

「なん、っ…!」


奏にキスをして、奏が落ち着くまで、奏を抱き締めてあげると、奏は次第におとなしくなっていった。

完全におとなしくなってから奏を解放すると、奏は僕に体を預けて、恥ずかしそうに「歩くんも、ドキドキしてました。」と耳元で囁いた。



 お風呂から上がり、奏と寝る前にいつも通りストレッチをしようと思い、柔軟運動をしていると、奏はやはりいつもと同じように楽しそうに僕が運動しているところを眺めていた。

奏にはたまに手伝ってもらっていることがあり、今日もそれを頼むことになる。


「奏、足押さえてくれないか?」

「はい。任せてください。」


ベッドの上に仰向けに倒れ、腕をクロスさせて上体を起こす準備をする。肘より少し上まで出た腕と奏の足でしっかり足元を押さえられる。


「じゃあ、(じゅう)数えますね?」

「うん。よろしく。」


汗をかかない程度にやるので、いつも十回程度しかしない。奏が「じゅ~う」と言ったところで力を抜いて、ベッドに体を預ける。

そして奏は勉強机に置いてあった水入りコップを渡してくる。


「お疲れ様です。はい。お水です。」

「いつもありがとう。一人だと難しいから助かるよ。」

「いえいえ、私にできることなら、なんでも頼ってください。力になりますから。」


奏がすごく頼もしいので、いつも頼ってばかりになってしまう。その代わり、僕も頼られたときは全力で助けたいと思っている。


「私も少しやってみたいです。」

「え?腹筋を?」

「はい。いいですか?」

「いいけど、無理しちゃ駄目だよ?」

「分かってますって。」


そうして、奏の足を押さえることになったのだが、一向に奏の上体が上がってこない。


「あの…奏さん?」

「んん~!」


必死に上体を起こそうと頑張っているのだが、奏の上体は上がらず、結局この日は一回上がってきたところで終わりになった。


「毎日積み重ねるのが大事だから、明日からも一回ずつやろうか。」

「が、がんばります…。」


奏にも、できないことはあるので、僕にも奏を助けられることがあったようだ。



 疲れきった奏と一緒にベッドに転がり、奏を抱いて寝る前のちょっとしたおしゃべりが始まる。


「このベッドって、かなり気持ちいいですよね。」


今日の話題はこのベッドのことらしい。話を広げるために情報を教えてあげる。


「ああ、これはおじいちゃんが『高校生はよく疲れるから』って言って買ってくれたんだよ。」

「いいおじいさんなんですね。私が使っていたのはちょっと固くて、このベッドで初めて寝たとき、気持ちよさが忘れられなかったんですよ?」

「もしかして、あの時寝てたのって…」

「お、お恥ずかしい限りで…」


初めて奏がこの部屋で寝ていたのは、このベッドが原因だったらしい。でも、このベッドのおかげで今も奏と良い関係を持てていると考えると、あの時おじいちゃんが反対を押しきって買ったことには感謝しなければいけなさそうだ。


「でも、今は毎日このベッドで寝れて幸せです。」

「それなら、一人で寝る方が良いんじゃないの?」

「それは駄目ですよ。歩くんがいてこそですから。」


奏は僕が離れないようにしっかりと抱き留めて、「絶対に離しませんから。」と呟く。


「奏は怖がりだね。」

「うるさいです。」

「でも、それも可愛い。」

「っ!…もう!」


奏は僕の胸に顔を埋めて「…ばか。」と声を漏らす。そういう行動一つから可愛いんだよなと思いつつ、奏の頭を撫でると、「…でも、大好きです。」と言うので、「僕も大好きだよ。」と言うと、奏はパッと僕を見上げる。


「ず、ずるいです…。でも、…嬉しい、です…。」


奏の体温がだんだん上がっていき、眠くなってきているのが分かる。


「そっか。僕も嬉しいよ。」

「ん…。」


奏はほとんど意識がなさそうで僕の腕の中でうとうとしている。寝る前にこれだけは伝えておく。


「おやすみ、奏。良い夢を。」

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