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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第69話 調理実習の後始末

 7月20日金曜日、本来なら学校の午後の授業が始まる頃、僕と奏は保健室で、河瀬(かわせ)恵美(えみ)先生という、保健室の先生と話していた。


「ん~。あんまりやけどの跡は残ってないわね。応急手当が良かったのかしら。」

「それは良かったです。」


奏は跡がほとんど残っていないことに安堵していた。奏には感謝しきれないと思う。


「そういえば、僕たちって午後からの授業には参加できないんですか?」

「そうね…。本来公欠の人は授業には参加できないから…、まったく、尾畑さんまた勝手なことして…。」

「またってことは以前もあったんですか?」

「そうよ。あの人、よく生徒を公欠にして、安静にさせようとするのよ。私はここの担当だから、よく公欠になった生徒の対応に追われるのよね。」


河瀬先生の苦労がなんとなく分かってしまうあたり、かなり尾畑先生は無茶を言うらしい。


「なら、僕たちが帰ればいいんじゃないですか?」

「それはダメよ。」

「「え?」」


いきなり強い否定が返ってきて、僕も奏も少し驚いた声をあげてしまった。何か理由があるのか聞いてみたが、「君たちが気にすることではないから、安心して。」と返され、聞くことはできなかった。


「まあ、君はやけどの跡はなくても、打撲の跡があるし、多分、今の状態ではそんなに力が入らないと思うけど。」


確かに、フライパンの衝撃を腕だけで止めて、その時はやけどの痛みで打撲まで考えていなかった。言われてからようやく気にして、痛みが回ってきたようだ。


「まあ、とりあえず君はベッドで横になりな。それで、あなたは…横で一緒に寝ておく?」

「え?寝るんですか?」

「うん。まあ、時間が来たら起こしてあげるから、二人仲良くね。」


そう言って、河瀬先生は保健室を出ていってしまった。


「とりあえず、寝る?」

「そ、そうですね…。」


奏と一緒にベッドに横になり、カーテンを閉める。奏は良い体勢を探していたが、見つからなかったようで、僕の胸あたりに顔をうずめる。

いつも奏が右隣にいるので、右腕を怪我した僕の腕枕がなかったため、結果、一番引っ付けるこの体勢を選んだのだろう。


「奏に何もなくてよかったよ。」

「私はそれでいいかもしれませんが、歩くんが怪我したら、私は嫌です。」

「でも、僕が怪我してなかったら、奏の頭に当たってたかもしれないし、奏だって女の子なんだから、そういう怪我はないほうがいいよ。」

「そ、それは、そうですけど…」


また反論しようとする奏の頭に手を置いて、ゆっくりと奏の頭を撫でると、奏は出そうになった反論を飲み込んで静かに撫でられていた。


「奏は悪くないよ。むしろ手当してくれてありがとう。奏が手当してくれなかったら、もっとひどかったかもしれないし。」

「…はい。」


奏はすっかりおとなしくなり、撫でられるばかりになった。


 少し奏を撫でていると、いきなりカーテンが開き、河瀬先生が現れた。僕も奏も動く気がなく、先生を見る。


「言い忘れてたけど…って何してるの。」

「え、あっ、こ、これは…」「あっ、いえ、何でも…」

「まあ、君たちならしないと思うけど、度を越さないようにね?」

「「は、はい。」」

「それじゃ、失礼しました。」


ザーッとカーテンを閉め、河瀬先生は瞬く間に消えていった。


「…暇ですね。」

「そうだね。クイズでも出し合う?」

「いいですね。じゃあ、勝った方は明日一つ何でもお願いできるっていうのはどうですか?」

「勝てる自信満々だね。そう簡単には負けないよ?」

「ふふっ。期待してますよ?」


そうして静かな保健室で大きな勝負が始まった。問題に答えられなかった数が多かったほうが負けという単純なルールだ。


「なら、まずは私からいきます。排他的経済水域は何から何までですか?」

「簡単だね。『低潮線から200海里』だよ。」

「おお。すごいです。領海からとか、海岸線からとかで間違えると思ってました。」

「そんなに僕は甘くないよ。じゃあ、次は僕だね。トルコ建国の父と呼ばれたムスタファ・ケマルという人がトルコ共和国を建国した後に与えられた姓は?」

「簡単すぎますよ。『アタテュルク』ですね。ムスタファ・ケマルの方が忘れてました。」

「そっちを出せばよかったか~。」


そうしてどちらも間違えることなく、5限目のチャイムが鳴る。


「あ、5限目終わっちゃいましたね。」

「結局、どっちも間違えなかったね。」

「…じゃあ、最後に私から問題いいですか?」

「うん。いいよ。」

「時計が示す時間は、何時何分でしょうか?」


保健室のベッドの上からではカーテンで時間が見えず、何時何分か性格には分からない。だが、今チャイムが鳴ったので、答えは一つしかない。


「え?それは、5限目が終わる14時0分でしょ?」

「…。」


奏は黙って正解か言わない。


「え?奏?」

「残念でしたね歩くん。今14時1分になりました。」

「え?ずるくない?」

「ずるくないです。私は時計が示す時間って言いましたから。今の時計が指す時間は14時1分です。」


なかなか面白い手を使ってくるではないか。さすがにそこまで卑怯な手を使われるとは思わず、少し笑ってしまった。


「な、なんですか…?」

「奏、僕の最後の問題を答えてみない?」

「の、望むところです…!」

「1+1は?」

「…2です。」

「ファイナルアンサー?」

「…やっぱり田んぼの田です!」

「残念!正解は古典の古だよ!」

「やっぱりずるいです!」


奏は僕の上に覆い被さるように乗り、体を密着させてくる。そして、またもやカーテンが開く。


「「あ。」」

「お二人の忘れも…!あ、ごめんね。お取り込み中だったみたいで…」

「ちょ、ちょっと白瀬さん!?」


奏は真冬の勘違いを解きに真冬を捕まえにベッドから降りて、真冬を捕まえていた。

それを見ていると、いつの間にか隣にいた夏樹が左肩をつついてきた。


「これ、春川と秋山さんの持ち物全部入れておいたから、ちゃんと持って帰ってね。」


不自然な言い方に違和感を覚え、一つカマをかけてみる。


「夏樹の課題は入ってないよな?」

「うぐっ!?なんで分かるんだよ!?」


やはりか。夏樹がこういう態度をとるときは大体なにか仕組んでいることが多い。


「ポーカーフェイスは通用しないよ。」


まあ、中学時代の頃のせいとは奏と姉さん以外には言わないが。それを聞いて、夏樹はしぶしぶ僕の鞄からノートを取り出し、その後すぐにそれを持って真冬と教室に戻っていった。

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