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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第67話 調理実習1

 今日は朝からいろんなことがありすぎだと思う。奏から襲われる夢を見たり、奏に襲われたりして、速くなった鼓動はなかなか落ち着かない。


 奏は料理を作っている最中でもお構い無しに引っ付いてくる。まだ良かったのは、奏にとってベビードールは恥ずかしいらしく、制服に着替え、さらに上からエプロンを身に付けているので、胸元の心配はない。


「歩くん♪」

「君付けは恥ずかしいんだけど…。」

「いいじゃないですか。私にもやってください。」


奏は担当している分の料理を作り終え、僕が担当している料理を見ながらそう言う。


「え、ええ?」

「ほら、早く早く。」

「えっと、奏、ちゃん?」

「…!」

「…奏?」


奏の方を見ると、奏は口を開けたまま動かない。何度か呼びかけても反応がなく、料理を先に終え、ちゃんと火を止めたのを確認して、もう一度奏に話しかける。


「奏?大丈夫?」

「…。」


返事がない。ただの屍のようだ。って違う違う。

とりあえず、奏を放心状態から戻すために、開いている唇を埋めてあげると、「んにゅ!?」と声を漏らしたので、もう大丈夫だろう。

奏は口元を腕で隠して、顔を赤くしていた。


「大丈夫?」

「は、はい…でも…」

「でも?」

「昨日から、歩くんが積極的で…あの、緊張してばかりで…」


もしかしたら、奏は押しに弱いのかもしれない。

なので、確証を得るために、もうちょっと押してみる。

手の空いた奏を抱き締めると、僕の背中にゆっくりと奏の手が添えられる。


「奏って、押しに弱い?」

「う、うるさいです…。」


こう言うときは、大体肯定と捉えていいので、間違いなく奏は押しに弱いことが分かった。


「奏にも弱点があってよかったよ。」

「…でも、この状態なら、私の方が有利です。」

「え?…あ…」


とっさに奏から離れようとしたが、奏に抱き締められて逃げられなかった。


「歩くんも、押しに弱いの知ってるんですよ?」

「ま、待って奏…」

「…条件次第です。」


ここでいい条件を提示しなければ、どうなるんだろうかと一瞬頭をよぎったが、一つしか未来が見えなかったため、そうならないようにいい条件を考える。


「今日は何でもお願いを聞くっていうのはどうだ…?」

「…足りませんね。」


奏は小悪魔的な顔を見せて、首元に顔を寄せる。


「ちょ、奏…!ってあれ?」


感覚があったのは一瞬で、それも首元ではなく、ほっぺただった。


「足りないというのは嘘です。ちゃんと守ってくださいね?」


まるで悪魔契約みたいなものを体験した気分になる。今日は一体何をさせられるのだろうか。

奏に解放された後、エプロンを脱ぐと、今日は調理実習があることを思い出した。エプロンをハンガーに掛けた奏にその事を伝えると、「忘れてました…!」と言うので、思い出せて良かったと心底思う。


「そういえば、エプロンの予備ってあったっけ?」

「?はい。ありますけど、何でですか?」

「いやぁ、夏樹がなんか忘れそうっていうか…」

「ああ、確かに、忘れてそうですね。」


やはり日頃の行いというか、まあ、そういうところだ。

…というわけで、学校で夏樹と会ったのだが、


「いやいや、俺が忘れるわけねーじゃん。」


と言って、エプロンを鞄の中から取り出し、見せつけてくる。だが、真冬が思い出したかのように「あっ…」と声を出した。


「もしかして、ふゆ…お前…」

「…エプロン忘れたぁ~!」


頭を抱える真冬を見た奏はすぐさま予備のエプロンを鞄から出して、真冬の前に置く。


「え?秋山さん、いいの?」

「はい。予備まで持ってきているので大丈夫です。」

「ああ、神様はこんなにも近くに…」

「ちょ、ちょっと、それは言い過ぎかと…」


奏は苦笑いをして、「神様呼びはちょっと…」と言っていた。


 調理実習は三限目四限目の二時間に渡って実施される。そして今は三限目の初め、先生からの説明を受け、調理が始まった。


 作るのは、鮭のムニエルで、必要な材料の他に、アレンジ用の材料が用意されていた。

そういえば、クラスでは四人一組だと聞いていたが、実際では二人一組だった。かといって、奏と一緒にやるということには変わらないのだが。


「歩くん、頑張りましょう!」

「うん。頑張ろう!」


奏は鮭のムニエルを、僕はムニエルに合う副菜と味噌汁を作ることにした。

評価としては、ムニエルの方が配点が高いらしく、ご飯以外の副菜や汁物があると得点が高くなるらしい。先生は一口食べて判定するそうで、作る量は二人分でいいらしい。


 ある程度作りたいものは決まっているので、それに必要なものを確保しに行く。


「あんた、取りすぎじゃない?」

「いや、俺らには必要なんだよ。」


食材が用意されているところでなにやら言い合いが起きていた。言い合いをしているのは、上山さんと、山口(やまぐち)(おさむ)くんだ。

食材は必要な分だけトレイから取って持っていく仕組みになっており、誰かが多く取れば、誰かは少なくなってしまう。


「あんたがそんなに取ったら、足りなくなる人が出てくるかもしれないでしょ。」

「早く来ないやつが取れないだけだろ。別にいいじゃん。」


周りにいる人たちは冷たい視線を送るだけで、誰も止めようとしない。こういうときにこの場を鎮められる人がいればいいのだが。


「上山さん、山口さん、どうしましたか?」


家でもよく聞く声が隣から聞こえ、思わず声の主である奏を見ると、奏もこちらを見て、ちょっと笑ってから、真剣な表情を二人に向ける。


「それで、どうしましたか?」

「あ、えっと、山口君がたくさん食材を取ろうとして…」

「いや、俺らには必要なんだよ。」


上山さんの全員に渡るように食材を配分するのはもっともなのだが、成績を考えれば、山口君の必要な量を取りたいというのも、完成させないと評価されないので、必要なのだろう。

奏は二人の意見を聞いて、「そうですね…」と少し考えている。


「なら、とりあえず全員に渡るように配分して、残ったのを必要な人が取ればいいんじゃないか?」


奏は僕の案に「そうですね。」と言って、「二人はそれでいいですか?」と聞くと、上山さんは、「まあ、それなら…」と納得したが、山口君は、「でも、それじゃあ足りない可能性があるだろ。」と不満をこぼしたので、足りなかったら僕らの分を分けることで納得した。


「ありがとうございます。歩くん。」

「いやいや、こちらこそだよ。奏が仲裁に入らなかったら、サポートできなかったからさ。」

「じゃあ、お互い様ですね。」


奏と少しだけ笑いあって、僕らが必要な分の量を持って、調理実習用のテーブルに戻る。

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