第66話 はじめてのおねがい
姉さんが誕生日だったことを教えなかったため、奏に「教えてくれても良かったじゃないですか!」と叱られたのだが、軽く流したらなぜかお願いが二倍から三倍に変わってしまった。
…だがしかし、
「えっと、奏さん?あの、腕を話していただけると、大変助かるといいますか…。」
「だ、だめです!…一緒にいてって、お願いしました…。」
現在、奏にがっしり右腕をホールドされている。そして左肩には眠った姉さんの頭が乗っている。
ことの発端は一緒にお風呂を出てから。姉さんがお店で借りてきたDVDを見ようと言って、一緒に見始めたのだが、まあ、ホラー系だったため、こうなっている。
奏はホラーが苦手らしい。ゾンビに噛まれた人が呻き声をあげるだけで、怖がって引っ付いてくる。それでも、なぜかテレビの方をずっと見ている。怖いなら頑張って見なくてもいいと思うのだが。
また、姉さんは最初を見ているときにつまらなさそうな顔をしていて、結局、奏が引っ付いてくるまでには寝てしまっていた。
「あ、歩『くん』…!」
奏に君付けされたことにびっくりして思わず肩が跳ねてしまった。そのせいで寝ていた姉さんが目を覚まし、「あれ?私、寝てた…?」などと言っている。
「ちょ、姉さん、ちょっとでいいから、助けて…」
「まだ…この映画…?もうちょっと、寝る…。」
姉さんは今度はソファーの背もたれに体を預けて眠ってしまった。
「ちょ、姉さん…」
「ひっ!歩くん!」
奏はそんなことにはお構い無しにさらに引っ付いてくる。実の感覚がしっかり腕に伝わり、鼓動がどんどん加速していく。
「か、奏!見えちゃう!見えちゃうから…」
「だ、だめです!離れないでください!」
一番良くないのは奏の服がベビードールという胸元が見えそうな服ということだ。お風呂に入るときには着替えでベビードールは用意されていなかったはずなのだが、お風呂上がりの奏はベビードールを纏っていた。
お風呂から上がってそこまで時間も経っていないため、奏の肌には赤みと温かさがあり、それが理性を限界へと近づける。
助けを求めて目配せしたが、雫さんと零さんは一緒にお風呂に入っているので、誰にも届かなかった。
映画は途中のゾンビが出てこないシーンになり、怖さはあまりなくなったが、奏はやはりしっかりと僕の右腕を捕まえている。
映画はまだ中盤なのに、僕の理性は終了寸前だった。
(あ、これ、そろそろ駄目な感じが…)
「奏、そろそろ離れてほし…」
『ア、アア…!』
「ひっ!あ、歩くん!」
「かなっ…で…」
視界のほとんどが白くなり、温かさのある膨らみと、いつものいい匂いがして、だんだん暗くなっていく。
次に視界に映ったのは奏にベットに押し倒されている状況だった。
腕に力を入れようとしても、全く体は動かず、奏が僕の上を這いずり上がってくる。服はさっきまで着ていたベビードールなのだが、肩にかけた紐が片方はずれてはだけており、まだ赤みがかっていて、目はとろんとしている。
「ずっと我慢してました。でも、もう我慢出来なくて…」
(や、やめ…って、あれ?話せない!?)
「だから、歩くんの初めて、私にください…。」
「っ!…は、…。」
周りを見渡すと、カーテンがしまっており、夢だったとようやく気がつく。
(夢か…、最低だ…。奏に教われる夢を見るなんて…)
「…はぁ。」
隣で寝ている奏を見て、罪悪感を覚える。奏が襲ってくるわけがないと思う反面、夢は妄想ともいうらしいので、自分が望んでいることなのかもしれない。
(って、え?なんでベットに!?昨日は確かソファーで映画見て、あれ?その後ってどうなったんだ!?)
「ん、んん、あぇ?おはようございます、歩さん…」
奏は体を起こし、目をこすっている。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと嫌な夢を見て…」
「嫌な夢ですか。どんな夢だったんですか?」
「え?あ、えっと、それは…」
「嫌な夢は話したほうが良いそうですよ?」
これを本人に言うのは非常に気が引けるのだが、言ってしまった以上、言うしかないのだろう。
「あの、えっと、奏に襲われる夢だったんだけど…」
「どう襲われたんですか?」
「え?あ、えっと、その服ではだけた状態のまま這いずり上がって…」
「えいっ!」
「うわっ!」
奏は話している途中に押し倒してきて、自信満々に「その夢は現実になりますよ。」といい放った。
奏は僕の首元に近づいてくる。
「や、やめてくれっ…」
「私だって、歩さんを襲うときはありますよ?」
「…っ!いい加減に…」
奏は僕の口に人差し指を当てて続きを言わせないようにする。
「私、昨日のお願い、一つ残ってるんですよ?」
「僕だって、残ってるはずだ…!」
「なら、『今すぐやめろ』ってお願いすればいいんですよ。」
「じゃあ、今すぐやめてくれ…。」
「では、私からのお願いは、今のお願いをなかったことにしてください。」
「…え?ん!?」
お願いをお願いで打ち消されるとは思わず、一瞬呆気にとられたところで唇を奪われる。
「…んっ。これで昨日の分はどちらもなくなりましたね。ここからどう抜け出しますか?」
「なら僕はこうするよ。」
「ひゃあ!?」
奏を抱えたまま、奏と上下を入れ換える。奏の顔の横に手をつくと、奏は「はわわ…」と焦っていた。
そこまでは良かった。だが、あのことを考慮していなかったので、固まってしまう。そう、奏のベビードールの紐が腕までずれて、はだけてしまっていた。
「あ、あ、えっと、あの…」
「隙ありです。」
「うわっ!」
そうして今度は僕が下になる。奏はわざとらしく外れた紐をいじりながら、「歩さんのえっち。」と言ってくる。
そうして再び奏とベットでサンドイッチにされる。
「歩さん、私の肌もまともに見れないなら、一緒に泳ぎに行けませんよ?」
「大丈夫だ。もともと泳げないから行くつもりはない。」
「私が行きたいって言ってもですか?」
「あ…。」
言葉に詰まると、奏に「ふふっ。」と笑われる。
「そういうところが甘いんですよね。」
「悪かったな。甘くて。」
奏が少しずつ這いずり上がるにつれて、もう片方の紐も次第にずれ始める。
それにより、さらに肌面積が増していき、僕の鼓動を速くなる。
「…ドキドキしすぎですよ?聞こうと思わなくても聞けちゃいます。」
「…誰のせいだと…。」
「私以外でドキドキしないくせに…。」
「…!?」
「大好きですよ。歩『くん』。」
「…!?」




