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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第61話 四者懇談

「あ、えっと、お母さんです。」


どうやら、電話をかけてきたのは、奏の母親、つまり、テスト前に会ったしずくさんだ。疑問を持った姉さんは「え?そんなに驚くことなの?」と率直に聞く。


「あ、当たり前じゃないですか!だって、…私、まだこっちで暮らしてること、お母さんに伝えてないんです…。」

「…え?」


部屋の中が静かになり、僕と姉さんは奏を見る。奏は電話が鳴るスマホを持ったまま僕を見る。


「だ、だって、気安く言えることじゃないじゃないですか…」

「今って、奏の部屋って…」

「…なにもないですね。」

「奏ちゃん、とりあえず、電話出たら?」


奏は姉さんに促され、電話を繋ぐ。もちろん、スピーカーモードで。


『もしもし?奏?今どこにいるの?』

「あ、えっと、へ、部屋にいます。」

『さっきから呼び鈴鳴らしてるけど聞こえない?』

「…。」


そして、奏は電話を切った。黙ったまま動かないので、「奏?」と呼びかけると、「ど、どうしましょう!?」と焦り始める。


「とりあえず、お母さんに事情を話した方が、いや、でも…」

「奏ちゃん、一回落ち着こ?ほら、深呼吸。」

「すー、はー。…よし!行ってきます。」


そう言って、奏はスッと立ち上がり、小走りで玄関に向かった。心配なので、僕らも奏の後を追い、玄関に向かった。


 奏は玄関の扉を開けて、扉についた小さい覗き穴から雫さんがいるであろう奏の部屋の前を観察している。


「久しぶりだね。奏。」

「え!?」


突如背後から声をかけられた奏はすっとんきょうな声をあげて、振り向いた瞬間、初めて見る男性が奏を抱擁する。しかし、部屋の中からの視線を感じたのか、その男性は、すぐに奏を離して、こちらを見る。

その男性が背を伸ばすと、僕より頭一つ背が高く、綺麗に清んだ紫色の瞳は僕を捉えている。



「えっと、はじめましてだね。僕は秋山あきやまれい、奏の父親です。よろしく。」

「あ、よろしくお願いします。えっと、僕は、春川歩です。奏のクラスメイトです。」


そう言うと、零さんは微笑み、これ以上何も言う気はなさそうだ。そのとき、奏の声を聞いて近寄ってきた雫さんが合流する。

雫さんは僕を見るなり「ああ!」と言って話しかけてくる。


「あ、お久しぶりです。奏のクラスメイトの…えっと、失礼ですが、誰でしょうか?」


一度も雫さんには名前を言ったことがないので、雫さんが僕の名前を知らないのは当然だろう。


「僕は春川歩です。あと、大丈夫ですよ。僕も前回お会いしたときに名乗りませんでしたから。」


そう言うと、雫さんは、「それなら良かった。」と安心していた。そんな安心している雫さんに零さんが話しかける。


「雫、以前春川君と会ったことがあるのかい?」

「そうなの。スマホの電池が切れてしまっていて、代わりに奏を呼んでくれたの。」

「そうなのか。歩くん。その節はどうもありがとう。」

「いえ、感謝されることでは…」

「いやいや、この人は天然なところがあるからね。いつどこで何をするか見ていないと何かが起こるからね。」


そこまで言われている雫さん本人は、何を言われているのか分かっていない(というか、聞いていない)ようで、奏と何か話していた。


 奏は雫さんと話し終わり、僕の隣に位置取って、「とりあえず、二人とも中で話しませんか?」と促す。

雫さんは何も気にしていないようだったが、零さんはやはり疑問があるようで、少し戸惑いながら僕の部屋に入った。


 リビングで待っていた姉さんは、雫さんと零さんを見て、困惑していた。


「おかえ…、えっと、そちらの方々は?」

「忍さん。私の両親です。」

「秋山雫です。」

「零です。よろしく。」

「えっと、ど、どうも。おと…歩の姉の春川忍です。」

「忍ちゃんね。良かったら、今週末買い物に行かない?」

「こらこら。初対面の人に買い物を誘うんじゃありません。」


そう言って、零さんは雫さんに手刀を落とす。


「うぅ…痛いわ。れーくん…。」

「あはは。私は構いませんよ。」


姉さんが同意をすると、痛がっていた雫さんはパッと表情を変えて、姉さんの手を握って上下に振っていた。


「ごめんね。忍ちゃん。雫はこういう人だから…」

「いえいえ、私もそろそろお出かけしたかったので。」

「そうかい?それなら良かった。まあ、無理して付き合う必要はないからね。」


零さんが話に区切りをつけると、姉さんと雫さんは二人でお出かけの予定を立てると言って寝室に入っていった。それを見送ってから、残された三人はそれぞれ椅子に座る。

少し間をおいて、零さんは僕の隣にいる奏に目線を移した。奏は何を話されるか分かっているようで、机の下で握っている僕の手を強く握る。僕が零さんに視線を戻すと、零さんは奏に向かって話し始める。


「奏。ここは歩くんと、忍ちゃんの部屋ではないのかい?」

「…そうです。」


零さんの表情が少し険しくなったように見えたが、すぐにさっきと同じ表情に戻り、奏に質問を続ける。


「なぜここから出てきたんだい?まさか一緒に暮らしているという訳ではないだろう?」

「…いつも、一緒、です。」


さっきよりもさらに険しい表情を浮かべた零さんは、一度僕を見るとすぐに奏に視線を戻して、「…何か理由があるのかい?」と聞いた。


 奏が理由を説明していくにつれて、零さんの表情はだんだん優しいものへと変わり、険しい表情はここにはいない雫さんに向けられるようになった。

零さんは、「…契約を雫に任せた僕が悪いか…。」と小さく呟いていた。

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