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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第三章 文化祭まで
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第60話 お願い実行その四

 浴槽に浸かり、対面でくつろぐ奏を見ていると、ふと、気になったことがあった。


「あの、奏って、昨日髪は長いか短いか聞いたじゃん?なんでいきなり聞いてきたの?」

「え、それは、ですね…。」


言葉をつまらせていたので、もしかしたら言いたくない理由があるかもしれないと思い、「あ、言いたくないなら、言わなくていいよ?」と補足する。


「そ、そんなんじゃないんです。えっと、忍さんって髪長いじゃないですか。」

「うん。腰辺りまであるのかな?結構長いよね。」

「はい。それで、前お出かけしたときに、忍さんに聞いたら、『弟くんは、髪は長いほうが好きだからね!』って言っていたので。」

「ああ、姉さんのしわざだったか。」

「そんなことないです。参考になるものは取り入れたいですし。」


なんとも奏らしい理由で、すごく納得した。いつもより確実に長くお風呂に入っているので、さすがにそろそろ出ようかと思っていると、奏に声をかけられる。


「あの、私からも、いいですか?」

「ん?どうしたの?」

「えっと、歩さんは、ここが大きいほうがいいですか?」


そう言って防御壁の上から手で押さえる。こういうとき、どう答えるのが正解なのか分からない。正直、あまり興味を持ったことがないので、なんでもいい気がする。

考えてもなかなか結論が出ず何か言おうとしたのだが、うまく口が動かず、視界もぼんやりとしてくる。奏が焦っていたように見えたが、そこで完全に意識が途絶えた。


 次に気がついたのは、ソファーの上で隣には奏が寄り添っていた。奏は僕が少し動いたのに反応して、僕を見る。


「大丈夫ですか?」

「あ~。うん。あれ、どうなったの?」


お風呂から出ようとして、その後少し奏と話したところまでは覚えているが、そこからの記憶がない。


「歩さん、お風呂の中でいきなり気絶したみたいで、忍さんが様子を見にきてくれなかったら危なかったです。多分湯あたりしたんだと思います。」

「そっか。ごめんね。心配させて。」

「いえそんな、私が引き留めたのも悪いですし…。」

「あ、弟くん起きた?ほら、お水。ちょっとずつ飲むようにね?」

「ありがとう姉さん。」


姉さんからコップを受け取り、少し水を飲む。


「弟くん、今日は安静にしておくこと。分かった?」

「さすがに分かってるよ。っていうか姉さんよくタイミングよく来たね。」

「いやぁ、弟くんが全然出てこないからもしかしたらと思って行ったら、ちょうど倒れましたって感じだったよ。」

「本当に忍さんには頭が上がらないです。」

「も~。奏ちゃんはそんなに落ち込まないで。これはもう慣れだからさ。」

「慣れ、ですか?」

「うん。昔はよく弟くん湯あたりしちゃってね。ちょっと気を抜くとすぐ倒れちゃってたからね。結構心配だったんだよ。」

「そうなんですか。これからは気を付けます。」


二人の会話を水を飲みながら聞いていると、なんだか親子の会話にしか聞こえなかったので、少しほっこりした。


 そういえば、もともと奏を甘やかすのではなかったのかと思い、奏の肩をつつく。


「なんですか?」

「えっと、甘やかすのでは?」

「…あ。忘れてました。」


忘れてたのか。てっきり、それ以上のものを求められるのかと思っていた。


「奏ちゃん、甘やかしてもらえるの~?いいな~。」

「姉さんは限度なく襲ってくるからやだ。」

「え、ひどい。私のやりたいようにしてるだけなのに。」

「それが僕の限度を超えてるから駄目なの。」

「う~ん。なら、奏ちゃんに甘やかしてもらうもん!」

「奏、やりすぎると後々面倒だから、ほどほどにな。」

「はい。分かりました。」


その後、奏に膝枕をしてあげたのだが、陸上部で走ってばかりだったからか、固かったらしい。奏にとっては、腕枕のほうがいいらしい。


「あんまり、よくなかったです。」

「なんかごめん。」


奏は何かを思い出したようで、少し嬉しそうに姉さんに話しかける。


「忍さん。私、さっきのを含めてあと二つお願いできるんですよ。何お願いしたらいいですかね?」


まさか、姉さんに判断させるとは思わず、何をお願いされるか心配になる。しかし、姉さんも聞かれても困るらしく、「え~、私に聞かれてもねぇ~。」と言っている。


「忍さんがしてほしいことでもいいんです。」

「ん~。そうだね~。あっ!そうだ。呼び方変えるとかどう?」

「と、言いますと?」

「ほら、奏ちゃんは奏って呼ばれてるでしょ?」

「そうですね。」

「だから、『かなちゃん』みたいに呼んでもらうとかどう?」


奏はこちらを見て、どうしようか考えているようだ。試しに呼んでみよう。


「あ、えっと、かな、ちゃん?」

「…やっぱり止めましょう。なんか子供っぽいです。あだ名より名前で呼ばれたほうが嬉しいです。」


そう言って奏は僕の肩にもたれ、「あと一つですか…」としみじみと呟く。そこで、奏のスマホに電話が来た。奏はスマホを出して驚いた表情になる。


「どうしたの?」

「あ、えっと、お母さんです。」

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