第53話 新たな関わり
先程までは不貞腐れていた姉さんは、僕らが学校に行くときにはいつもの姉さんに戻っていた。マンションを出たあたりで、奏は「忍さん、もういいんですか?」と聞いてくるので、何かしでかす前に注意すると大体こうなると説明すると、「…なるほど?」と分かったのか分からなかったかよく分からない返しが来た。
下駄箱に靴を入れていると、奏に「中間テストの順位が出てるらしいですよ。見に行きませんか?」と言われ、昨日夏樹からも聞いたなと思いつつ、奏と一緒に順位表が張り出されている通路に向かう。
「お、奏また一位じゃんか。すごいな。」
「えへへ、そんなことないですよ。歩さんだって今回二位じゃないですか。一点差ですし。」
「え?」
奏に言われて、改めて順位表を見る。
一年生 前期中間テスト
順位 名前 総計(/700)
一位 秋山奏 671
二位 春川歩 670 …
「あ、ほんとだ。一点差だね。三位以降とは20点以上離れてるね。」
「…。」
「?。奏、どうかしたか?」
「…。」
奏に話しかけても反応がない。奏の肩を軽く叩くと、「ひゃっ。」と奏から声が漏れた。
「あ、ごめん。触られるの嫌だったか?」
「え、いえ。その、考え事をしていたので、びっくりしたというか…。」
「どんなこと考えてたんだ?」
「歩さんは白瀬さんと星野さんは点数が低かったほうが高かったほうの言うことを一つ聞く、というルールを作っていること知ってますか?」
なんとなく、奏が言いたいことは分かった。つまり、僕らも夏樹たちと同じようにルールを作らないかということだ。
「ああ、なるほど。なら、何してほしい?」
「え?いいんですか?」
「うん。だって、奏に勝ったら奏にさせたいことさせれるんでしょ?モチベーションになる。」
正直、奏なら常識の範囲内のことを望んでくれるというちょっとした信頼をしているからいいのだが、星野や真冬以外の人とは絶対にやらないと思う。思いが伝わったのか、奏は少し恥ずかしそうにして、してほしいことを言う。
「じゃ、じゃあ、帰ったら、いっぱい甘やかして、ください。」
「うん。…うん?」
「…ですから、今日は甘えても、いいですか?」
奏は少し上目遣いになり、両手で僕の左手を握る。この状態を他の人に見られたくないのもあるが、僕にしか見せない奏を独り占めしたいと思うほうが強く、「…帰ってから、な?」と周りに人がいないことを確認して言うと、奏は笑顔で「分かってますよ。」と言って僕の腕を引いて教室に向かう。
教室に入ると、ホワイトボードの右上あたりに『今週金曜日は調理実習!エプロン必須!家庭科担当尾畑より』と書いてあった。尾畑というのは、一年生のすべてのクラスの家庭科を担当している尾畑恵理子先生だ。というか、いきなり2日後に調理実習と言われるとペアなどはどうするのか気になった。
「奏は尾畑先生から何か聞いてたか?」
「いえ。私も初めて知りました。」
奏も知らなかったようで、後から尾畑先生に聞きに行こうと思った。
奏と話ながら席につき、今日の午前の授業の準備をしていると、少し離れた席からこちらに向かってくる人がいた。
「お二人はペアって感じ?」
そう聞いてきた彼女はクラスメイトの服部美玲さんだ。所属している部活は確か剣道部だったはずだ。調理実習は三人もしくは四人で1グループで実施するので、相手を探しているのだろう。僕が肯定するよりも早く、奏が反応した。
「はい。そのつもりですけど。」
奏は少し警戒した様子で反応したので、正直驚いた。その奏の警戒が分かったのか、服部さんは少し苦笑を浮かべていた。
「大丈夫だって。私は春川君を取るとか思ってないから。」
「本当ですか?」
「ホントだって。私は見守り隊隊長だからね。」
「ん?見守り隊って何?」
奏も聞いたことがないらしく、「何ですかそれ。」と聞きたそうにしていた。
「え?二人とも知らないの?」
「僕は知らないな。奏は?」
「私もです。」
「えっとね、君ら二人ってさ、まあ、言っちゃ悪いんだけど、入学してすぐのときは関わり無さそうだなって思ってたの。秋山さんはザ・優等生って感じで、春川君はパッと見は暗い感じだなぁって感じだったからさ。」
「まあ、最初は歩さん全然私のこと見てませんでしたもんね。」
そう言われると見てなかったと思う。というか夏樹と真冬以外に話したことがあるのか今更疑問に思う。
「…それは、そうかも…。」
「まあまあ、でね?関わり無さそうな二人が付き合ってることを知ったわけですよ。それで、絶対何か不満を言う奴がいると思ったのよ。特に男子。」
「まあ、実際結構問い詰められたね。奏が助けてくれたけど。」
「わ、私は、歩さんのこと悪く言うのが許せなかっただけなので…。」
「それでも助けになってたんだよ。だから、ありがとう。」
「おおう。いきなり二人の世界を作られるとこっちがびっくりする。」
もうそれは仕方ないのでは?と心の中で思ったが口にすると、からかわれる気がしたので口にはしなかった。
「それでね、続きなんだけど、二人がずっとそんな奴らに絡まれてると優等生の二人が生き生きできないでしょ?だから、私たちで止められる奴らは止められるようにしようって私とあーちゃんで見守り隊を作ったの。」
あーちゃんというのは服部さんの友達であり、クラスメイトの安藤京子である。
というか、止めるというのはどうやっているのだろうか。気になって聞こうとしたタイミングで、服部さんは「止め方は企業秘密なので。」と言うので聞くに聞けなかった。




