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物事はいつも彼女から  作者: 七灯
第二章 二人は一人
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第51話 忘れたい過去

 奏より一足早くお風呂から出たので、先に髪を乾かして、奏を待つことにした。


 リビングに入ると、パソコンを開いていた姉さんがいたので、「何してるんだ?」と声をかけると、僕が戻ってきていたのを知らなかったのか、少し驚いた後、「サークルだよ。大学の。」と返ってくる。姉さん曰く、サークルは成績上位者は先に決めて良いそうで、夏休みが始まる前までに希望を出せるそうなのだが、何にしようか悩んでいるそうだ。


 姉さんが座っている対面に座ると、姉さんはパソコンを閉じて、なぜかニヤニヤしている。


「まあ、そんなことは良いとして、どうだった?」

「別に何もなかったよ。」

「ホントに何にもなかったの?ほら、我慢出来なくてさわっちゃったとか、キスしたとかさ。」


姉さんは時々本当に見ていたかのように予想を言うときがある。今回だって、風呂の中で奏に『手首を痛めてから謝っていた分』という理由でキスされていた。


「………いや、何も、なかったよ?」


さっきまでの行動が頭の中で描写され、言いたいことがつまり詰まりになってしまい、無意識に手で口元を隠していたので、姉さんに笑われる。


「あはは、弟くんは分かりやすいね。」

「…うるさい。」

「まあ、もし何かあっても、私も出来るだけ手伝おうと思うよ。」

「え、それってどういう…」


ちょうど聞こうとしたタイミングで奏がリビングに入ってきたので、聞くのを止めてしまった。


「お待たせしました。って、どうしたんですか?歩さん。そんな不思議そうな顔して。」

「あ、いや、何でもない。」


姉さんが発した言葉が頭の中で渦巻いて、なかなか離れなかったのか、顔にまで出ていたようだ。姉さんが言う『もし何かあったら』ということは、きっと僕が思っていることと一緒だと思い、結局聞かなかった。


 正直、未来は分からないことだらけで、もし、その行為をしてしまったのなら、奏がどれだけ大丈夫だと言おうと、僕は罪悪感で立ち直れないと思う。初めて家族以外で僕を支えて、寄り添って、愛してくれている奏には、奏だけには、そうなってほしくない、いや、そうしてはいけないと思う。だからこそ、あの時に奏と約束したことは、守らなければならないと思う。


「奏ちゃん、弟くんと何かあった?弟くん何も教えてくれなくてさ。」


奏はお風呂場でしたことを思い出したのか、だんだん頬を赤くして、口元を隠して答える。


「…な、何も、なかっ、た。…です。」

「あはは、やっぱり奏ちゃんも弟くんと同じ反応するんだねぇ。二人ともホント隠すの下手だねぇ。バレバレだよ?」

「そんなに分かりやすかったですか?」

「うん。かなり。っていうかどんな感じだった?今やっても良いんだよ?」


奏の方を見ると、自然と奏と目が合う。すぐに互いに目を逸らすので、再び姉さんに笑われる。


「やっぱり二人を見てると憧れるなぁ。」

「憧れるって何にですか?」


姉さんの呟きに僕の隣にクッションを移動させて座った奏が聞く。僕は姉さんの過去を知っているので、「あ、それは…」と口を挟んだのだが、姉さんは首を振り、止めなくて良いという合図を送ってきた。その合図を見て、奏は聞いたことが良くないことだったと感じたのか、「む、無理に聞こうというわけではないので…」と付け足したが、姉さんは「大丈夫。」とだけ返した。


「いつか奏ちゃんにも、話そうと思ってたからさ。弟くんは気にしなくていいよ。これは、私が決めたことだから。」


ここから先は、僕も知っていることなので、二人のために何か飲み物を用意しようとキッチンへ向かった。


 温かいものが良いかと思い、ホットミルクを二人分持ってリビングに戻る。


「あ、弟くん、お帰り。遅かったね。」

「ホットミルク作ってたからさ、時間かかっちゃった。はい。二人ともどうぞ。」

「歩さんのは、どうしたんですか?」

「まだキッチンに置いてあるだけだからちゃんとあるよ。」


奏は少ししょんぼりした顔になっていた。

(もしかして、奏さん、あなた、間接キスイベントでも発生させようとしてたとか…って、僕は何考えてるんだ!)


 奏に悟られないようにキッチンへ戻り、残り一つのマグカップを持ってキッチンを出た。


「…これ、美味しいですね。」

「寒いときにこれが出てきたら天国かなって思っちゃうね。」

「確かに。今年の冬にでもまたやってみるか。」

「え、私年末にまた来るから、その時に作ってよ。」

「それはその時になってから言ってくれ。今から年末まで覚えてる自信がない。」


三人で談笑していると、ふと、姉さんの過去の件はどうなったのか気になった。なぜなら、僕が聞いたときはこんな早く終わらなかったので、疑問に思ったからだ。


「そういえば、姉さんのアレって説明したの?僕が聞いたときは結構話してたと思うけど。」

「あ~、うん。私の気持ちの辺りはほとんど省いて説明したから、結構早く終わったね。」

「歩さんはもっと長く聞いていたんですか。私、そういうことされたことがなかったので、なんだか、そこまで想像つかないというか。」


かいつまんで説明すると、姉さんの過去というのは、大学一年の4月の学校始めに、姉さんは電車通学をしていて、痴漢にあった。その時から男性恐怖症になり、心を開ける男相手が僕以外いなくなっている、ということだ。だから、姉さんが憧れていたこととは、僕と奏のような彼氏彼女の関係なのだ。


「まあね、男の人がみんなそうって訳じゃないのは分かってるんだ。でも、近づかれるとね…。」


だから姉さんは電車通学に通学方法を変更して、今も自転車で通学している。その方が触られるより遥かに良い。


「でも、今はもう見てるだけで良いかな。君たちがどんなふうに君たちだけの歩み方をするのかさ。だから、私の分も、君たちが歩んでよ。」

「…ああ。分かった。なら、姉さんは、僕たちのことを、僕たちの歩み方を見ててほしい。」

「うん。ずっと見てるよ。まあ、大学があるときは勘弁だけど。」


また三人で笑う。こういう時間が一番好きだと僕は思う。9月の始めには姉さんが帰ってしまうので、この時間がなくなると思うと残念に思う。考えているところを隣の奏から「歩さん。」と声をかけられ、奏の方を向くと、奏は僕の腕ごと抱き締めてキスをしてきた。浴槽の中でしたときよりかは短かったがそれでもいつもするときより長くしていたと感じる。


「…んっ。忍さん、こんな感じ、でした…。」

「奏ちゃん、グッジョブ。」


姉さんはすごく良い笑顔で手でグッドサインを奏に向けていた。奏は奏で恥ずかしそうにしているし、いきなりされるこちらの身にもなってほしい、と思う。

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