第38話 彼女と視線
朝食の準備が終わり、リビングに入ると、姉さんが起きていた。
「お二人とも、朝からラブラブだねぇ。」
「な、そ、そんなことは、な、な…」
「奏、姉さんのことは基本スルーでいいから。」
「ひどい!それが姉への態度なの!?」
「うん。」
「やっぱりもっとひどい!こんなことならここから出ていってやる!」
「姉さん夏休みなんだろ?ならすぐ帰ってくるじゃん。家にいても暇なんだから。」
「まあ、そうだけどさ…」
姉さんはこの土曜日から九月の始めまで取っている授業がなく、実質夏休みであり、又、姉さん自身も家にいても暇だから、という理由でこちらに来ている。
三人で朝ごはんを食べて、時間にはまだ早いが、学校に行く準備をするため、奏は一度部屋に戻ると言い、僕の部屋から出ていった。
しばらくすると、玄関が開いた音がして、奏がリビングまでやって来た。奏は僕を見るなり、不思議そうな顔をしていた。
「どうかしたか?」
「いや、今日から夏服じゃなかったかって。」
「…。」
「…え?ですから、今日から…」
「いや、二度も言わなくていい。分かってる。」
今日から全員夏服登校なので、夏服を着なければならないのだが、今僕が着ているのは冬服なので、このまま行くと生徒指導行きだろう。
「なら、早く夏服に着替えてきてください。もう少ししたら、学校行きますよ。」
「いつもより30分も早いけど。」
「夏場は暑いので、早めに学校に着いておきたいんです。学校なら、エアコンでも扇風機でもつくでしょうし。ほら、早く早く。」
奏に急かされるので、寝室に入りすぐに夏服に着替えることになった。
夏服は冬服に比べて着やすくて良いな。と思っていると、ふと、奏の冬服のときをそこまで気にして見ていなかったと気づき、10月までのお楽しみとなった。
リビングにつながる扉を開けると、奏は姉さんと何か話していたが、すぐに話を切り上げ、僕の元によってきて、僕を見ながら僕の周りを一周した。
「歩さんって、やっぱり爽やかに見えますね。」
「え?そう?でも、僕より爽やかな人クラスにいるでしょ。」
「ああ、北村さんですか。私、あの人苦手なんですよね。」
奏が言う北村さんとは、クラスメイトの北村優一であり、顔は良いのだが、性格が少し良くない。奏としても、あまり関わりたくない人物なのだろう。
「とにかく、歩さんは自己肯定感が低すぎます。もうちょっと自信持ってください。ほら、学校行きますよ。」
奏に手を引かれ、そのままリビングを出る。遠くから姉さんが、いってらっしゃ~い。と言うのが聞こえたので、やけくそ気味にいってきますと叫ぶように言った。
奏とエントランスを抜け、外に出たのだが、まだ学校が始まる時間でもないのに、ちらほらと同じ服装の生徒らがいた。そして彼ら彼女らからは熱い視線を向けられる。それもそうだ。何せ、めちゃくちゃ可愛い女子の隣で手を繋いで歩いているのは、ぱっとしない男子なのだから。
周りからの視線に耐えられなくなり、奏の方を向くが、奏はまあご満悦で、周りの視線など気にもしていないようだ。学校までがいつもの二倍、いや、三倍に思えるほど、朝の通学は長く感じた。




