第35話 彼女と駆け引き
できるだけ早くお風呂から上がり、リビングに戻ると、奏は僕を見つけると立ち上がり、僕のもとにやってきて、手を引いて僕を連れていく。
僕はさっき寝落ちしていたソファーに座らせられて、奏は向かい合うように僕の太ももの上に座る。奏は頭は僕の肩に、腕と脚は胴体にに絡めるので、いろいろと当たっている。その状態で奏は耳元でぼそぼそと言葉を発する。
「歩さんは、こういうの、ドキドキ、しませんか?」
「いや、するよ。」
「そうですか?いつも、余裕そうだから、私じゃ、ドキドキしないのかと、思いました。」
「確認してみる?ほら。」
僕は奏の肩を少し離してやると、奏は僕の胸辺りに耳を当てる。
「ほんとですね。ドキドキ、してます。」
「ね?だから、奏は、心配しなくていいよ。僕は絶対、奏を離さないから。」
ピッ。
「…ぴ?」
「言質、取りましたからね?」
「え?どういう…」
奏はポケットから、ボイスレコーダーを取り出し、ひらひらと僕に見せる。きっと、姉さんがやらせてるのだろうと薄々思う。ただ、姉さん含め誰かが持つと厄介なので、音声データは消させてもらう。
「まあ、どうこう使おうと言うわけじゃないですよ?ただ、私がまた、心配になったとき、これを聞いて、安心しようかと。」
「そのときは、また僕が言うってことで、それ消すとか駄目?」
「え、そ、それは…」
奏が戸惑った隙を見て、右手で奏を抱え込み、空いた左手で奏の持っていたボイスレコーダーを取り上げる。そうして、奏の耳元で囁く。
「どうお仕置きしようかな。ね?奏。」
「わ、わ…」
奏は耳が非常に弱いらしく、まともに言葉を発せなくなっている。
奏と密着しているので、奏の鼓動が伝わってくる。僕よりもドキドキしているのが分かって、すごく安心した。寝室の扉が開き、姉さんが現れる。
「あ~、奏ちゃん、やっぱり攻めには弱かったねぇ~。」
「姉さん、どういうつもりだ?」
「いやいや、弟くんがどれだけ奏ちゃんのこと信頼してるか確かめたくなってさ。」
「だからって、これはやりすぎでは?」
そう言って奏から取り上げたボイスレコーダーを見せる。
「まあ、弟くん、私がいたら基本そういうとこ見せないじゃん。」
「そりゃそうでしょ。奏くらいにしかしないよ。…って、奏?」
奏の鼓動がさらに早くなったのを感じ、これ以上奏がここにいると、奏が倒れるのではないかと心配になってきた。
「か、奏?一回離れよう。な?」
「ひゃ、ひゃい。」
「奏ちゃんって攻めにはとことん弱いね。弟くんも気をつけなよ。」
「元はと言えば、姉さんがやらせたのが悪いんだろ。」
「でも、二人とも知らない一面を見れたんじゃない?」
「「…。」」
確かにそうだ。奏がこんな弱々になるなんて思っていなかったし、奏からしても、普段余裕そうに見えていた僕は、本当は余裕なんてないことが分かっただろう。
奏が太ももから降りるのを待っていたが、一向に降りる気配がない。
「奏?」
「あの、上手く抜けられなくて…」
「「え?」」
「あの、歩さん、私を持ったまま立てますか?そうすれば、後は私が足降ろすだけなので…。」
奏に言われた通り立とうとしたが、太ももに乗られているため、力が入らない。
(この状況だと、僕も立てないけど!?)
そう思っていると、姉さんが僕の片腕を持ち、反対側の腰辺りに手を置き、そのまま引っ張るように僕を立たせる。奏は僕にしがみついていたので、奏が落ちてけがをするということはなかった。
(姉さん今どうやったんだ!?)
とにかく、そのおかげで立つことができたので、奏もようやく床に足をつけた。奏はまだふらふらしていたのでソファーに座らせておいた。




