第3話 リビングにて
彼女、秋山奏を部屋に上げてから約15分、いつもの配置から大きくずれてしまっていた机と椅子はずれる前の位置に戻っていた。
「これで大丈夫ですか?」
「秋山さんのおかげで結構早く終わったよ。ありがとう。」
そういうと彼女は少し恥ずかしそうにして、
「元はといえば私が間違えて入ってしまったからなんですから、そう気にしなくてもいいんですよ?」
と言ってくれるので、気が抜けたのか、僕のお腹は「ぐう~」と大きな音を鳴らした。そんな僕に彼女は目をまんまるにして、
「ごはん食べずにやってたんですか!?」
と驚いたように言うので、素直に頷けば、
「春川君はちょっと待っててください。」
と言って素早く僕の部屋から出ていったと思いきや、五分もたたずに、なぜかタッパーを持って戻ってきた。
「昨日の残りですけど、良ければ食べてください。さっき温めたばかりなので、温度も大丈夫だと思いますよ?」
タッパーの中には、卵焼きやベーコンとレタスを使った野菜サラダに、さらには肉じゃがが入っていた。
「こんなに、いいのか?」
「はい。昨日も今日もかなり迷惑をかけてしまいましたので。このくらいは受け取っていただかないと。と思いまして。」
どうやら食パンにジャムを塗るのは昼頃に変わりそうだ。
「それじゃあ、いただきます。」
「はい。遠慮なくどうぞ。」
多分、彼女は僕がこれを食べるまで帰らなさそうだ。きっと感想を聞きたいのだろう。まずは、ベーコンとレタスの野菜サラダに箸をのばす。繊細な味付けがされており、正直なところ、市販の野菜サラダよりはるかに美味しかった。
そんな僕を見て、彼女は口許に手を当て笑っていた。僕は気になったので、「どうかしたのか」と聞いてみたら、
「春川君は美味しそうに食べるんだなぁって。見てて思って。」
と嬉しそうに言うので、僕は彼女に、
「正直、市販のものよりかは美味しいと思うけど。」
と返してみれば、顔を赤くしていたので、褒められるのに慣れていないんだろうなぁと思いつつ、彼女は帰ると気配がなかったので、気にせず残りの卵焼きと肉じゃがも平らげる。
タッパーの中の料理を食べ終え、彼女の方を見ると、もう顔は赤くなかったので、彼女と彼女の料理に感謝する。
「ごちそうさまでした。」
「お、お粗末様でした。」
と緊張した声が聞こえてきたので、まだ少し照れているように感じた。
「そういえば、なんで食べてる間ずっといたの?」
と聞いてみたら、彼女は焦って、
「えっ、えっと、…な、なんでもないです!」
と言って足早に僕の部屋から出ていった。
後でタッパー返しに行かないとなと思いつつ僕も立ち上がり、タッパーを洗うため、キッチンへと向かった。