第115話 親友からの頼み
奏と雑談をしていると、ポケットの中のスマホが振動する。
「ごめん、ちょっと電話してもいい?」
「はい。」
奏との会話を中断してスマホを取り出すと、画面には星野夏樹と表示されていた。
夏樹から電話をかけてくるのは珍しく、それほど急ぐ内容かと心配になり、すぐに電話に出た。
「もしもし、夏樹?」
『あ、歩だ!今大丈夫?』
夏樹からだと思ったのだが、真冬からの電話だった。真冬はたまに突然電話をしてくるので、今回もどうせ課題関係だと思いつつ、話の内容を教えてもらう。奏にも聞こえるようにスピーカーをオンにして。
『今さ、なつの家で勉強会してるんだけど、答えが分からなくてさ。解説書にも書いてなかったから、教えてほしいなぁ…って。』
「はあ。それはいいけど、今はちょっと忙しいというか…。」
電話越しに『ははーん。』と何か納得したような声が聞こえてくる。
なぜか真冬がにやにやしているのが想像できたので、電話を切ろうかと思ったが、再び電話から声が聞こえる。
『そういえば、秋山さんから、歩のおじいさんの家に行くことは聞いたよ。秋山さんすっごく楽しそうに…』
「ちょ、ちょっと白瀬さん!それは言わない約束だって!」
『あれ!?秋山さんも聞いてたの!?ごめん、秋山さん!』
急に電話が切られ、頬を赤らめた奏と目が合う。
奏は僕を見て、口をぱくぱくと動かしていた。
「そんなに楽しみだった?」
「…はい。」
こういう照れた奏も可愛いので、なんだか奏を独り占めにしたくなってきた。
そろそろ家を出てから1時間ほどになるので、おじいちゃんたちを心配させないためにも、今日はこの辺で帰ることにした。
真冬と夏樹には、今度僕の部屋で勉強会をしないか誘いを入れておき、姉さんに帰ることを一応メッセージで送っておいて、僕らは公園を後にした。
帰り道では、奏とマンションにいつ帰るかを相談していた。元より土曜日から火曜日の4日間だけこっちに来ようと思っていたのだが、奏が楽しそうにしてくれていたので、もう少し延ばすのも良いかと思っていた。
「火曜日だったら、明日ですね。」
「もう少し延ばしてもいいけど、そろそろ試験の対策もしないといけないし。」
夏休みが終われば課題テストがあるので、今回こそは奏に勝つために、勉強しようと思っている。
しかし、奏とずっと一緒に行動しているので、基本、奏と同じ時間しか勉強できていない。
「今回、私が勝ったらどうするんでしょうか?お願いはいつでもできますし、最近はしてほしいことも歩くんが全部やっちゃいますし。」
「なんで奏が勝つ前提なの…」
「ふふっ。歩くんには負けませんよ。」
奏は自信満々に宣言するので、なんだか対抗心が湧いてきた。
今回のテスト、奏だけには勝とう。そう思い、おじいちゃんの家には火曜日までいることにした。
畑にはおじいちゃんがいて、そこで使わなかったうちわは返した。ついでに明日に帰ることを伝えると、おじいちゃんは「そうか。」と言う。
「歩は半年前より明るくなったわい。」
「え?ああ、うん。奏のおかげだよ。」
そう言うと、おじいちゃんは「そりゃあ、結構!」と言って、ゆっくりと立ち上がる。
「ほれ、これから暑くなるで、二人は先に戻っとれ。わしはぼちぼち行くでな。」
体感、朝よりも暑くなっているのを感じたが、そこまで暑い訳ではなかったので、あまり気にしていなかった。
奏と家に戻ると、姉さんがすでに家で未来さんたちのお手伝いをしていた。
いち早く僕らの帰りに気がついた未来さんは作業を進めながら話しかけてくる。
「歩様、奏様。おかえりなさいませ。楽しかったですか?」
「うん。楽しかった。」
「私もです。」
僕らがそれぞれ答えると、未来さんは笑顔で作業を続ける。
「それはよかったです。今日はお疲れでしょうし、休憩していてください。」
奏とゆっくりしたかったので、ありがたくそうさせてもらうことにした。
部屋に入ると、クロがベッドの上で丸くなっていて、シロとミーちゃんが体を伸ばしていた。
「ただいま。みんな。」
「「にゃーん。」」
クロは相変わらず寝ていたが、シロとミーちゃんは鳴いて返事をしてくれる。
ミーちゃんはもう奏に馴れたらしく、奏が触っても逃げていかない。ただ、シロは警戒心が強いので、まだ奏に馴れていないらしく、一向に奏に近づこうとしない。
「シロは昔も近寄って来なかったし、警戒心がクロやミーちゃんよりも強いんだよ。」
閉めた襖が少し開いて、トラ柄の猫、トラがやってくる。
「トラちゃん。」
「にゃ?」
奏が差し出した手の匂いを嗅いで、不思議そうな鳴き声を発したトラはすぐに僕の方に寄ってくる。
「私より歩くんの匂いの方がいいんでしょうか?」
「ちょ、ちょっと奏…!」
奏は僕の胸辺りに顔を近づけて、くんくんと匂いを嗅ぐので、さすがに恥ずかしくて奏を遠ざけようとしたが、逆に奏は近づこうと力を強めるので、そのまま押し倒された。
「歩くんって、いい匂いですよね。」
耳元で呟かれる一言ずつがはっきり聞こえて、どんどん鼓動が加速していく。
「昨日も引っ付いたのに、全然慣れませんね。」
「仕方ないでしょ…、好きな人に引っ付かれたら、みんなそうなるよ。奏だって…」
「そ、それはそうですけど!歩くんは、初めてのときと変わらないというか…少しは慣れてもいいんじゃないかと…?」
慣れたくて慣れられるものでもない気がするが、こうやって奏が引っ付いてくるのは、僕のトレーニングの一環なのかもしれない。
もう少しだけ奏と引っ付いたら、未来さんたちを手伝いに行こうと思って、奏にされるがままになる。
楽しみにしていた方には申し訳ないのですが、他の小説を書きたい気持ちが強くなってきたので、少しお休みさせていただきます。
多分、一週間もすれば帰ってきます。多分。




