第109話 田舎の花火大会
おじいちゃんとおばあちゃんはわざわざ浴衣まで用意してくれていて、慣れない浴衣に苦戦しつつも、何とか着替えられた。未来さんもメイド服からに浴衣に着替えていた。
というか、奏のヘアアレンジが可愛いすぎて悶絶していた。後ろに作ったお団子と、長さが足りず、耳の前にまとめられなかった髪にカールをかけていた。セットをしてくれた未来さんには頭が上がらない。
「どうですか?」
「可愛い。特に髪型が浴衣に会いすぎてて、めっちゃ可愛い。元々顔が良いってのもあるし…」
「そ、その辺で大丈夫です!その…歩くんも、カッコいいですよ?」
奏に褒められて、浴衣を着てよかったと思う。まあ、半分姉さんに無理矢理着せられたようなものだが。
浴衣に着替えた奏と姉さん、未来さんと一緒に花火大会の会場にやってきた。
年に一度というのもあり、会場にはかなり人がいた。
「打ち上げまでにはまだ時間がありますし、屋台を回りましょうか。」
未来さんの提案に僕らが賛成すると、姉さんが射的を見つけて、射的の屋台に行くことになった。
「おっ、今年も来たかい嬢ちゃん!」
「はい。今年もフルヒットしますよ。」
射的の屋台の店主と姉さんは知り合い(?)らしく、少し話をした後に銃を受け取っていた。
姉さんは宣言通り、3射でお菓子の箱を3つ倒して、全て貰っていた。
「さすがだな嬢ちゃん!オマケにこれもやるよ!」
「ありがとうございます。」
店主は追加で棚に並んでいたお菓子の箱を取り、姉さんに渡して、「これ以上はウチが破産するから、これで許してな。」と念を押していた。
射的の屋台から離れたところで姉さんにいつから行ってるのかを聞くと、大体四年前くらいだと言っていた。
あの店主さんが破産しないことを願うばかりだ。
しばらく歩いていると、奏があるものを発見した。
「チョコバナナって、なんであんなに美味しいんでしょう?」
「…。」
「…歩くん?」
チョコという単語に反応して足を止めると、奏と距離ができて、繋いだ手が引っ張られて奏が振り返る。
「弟くん、チョコ嫌いなんだよね。」
「そ、そうなんですか!?じゃあ、バレンタインとか、チョコとかどうしてたんですか…?」
「…姉さんが食べてた。」
中には、チョコが嫌いという同士がいて、その人は自分の嫌いな物は作らないタイプで、わざわざクッキーを作って渡してくれた人もいた。
なぜかそのクッキーは辛かった思い出があるのだが、きっと何かの記憶と混ざっているのだろう。そうであってほしい。
奏がチョコバナナを食べ終わり、ぼちぼちみんなで歩いていると、横を通り過ぎかけた人に声をかけられた。
「…春川くん?」
「え?」
声をかけてきたのは、同学年で、何度か隣の席になった女子、横山弥生さんだった。
中学のときは僕を何度も心配してくれたのが、頭の中に浮かんできた。
「あ、久しぶり。横山さん。よく僕だって分かったね。」
僕がそう言うと、横山さんは少し驚いた顔をしていた。
なぜ、みんな僕を見て一度驚くのだろうか…?
「よかった、春川くんだ。最初は違う人だと思ったんだけどね、髪型変えてなかったから、なんとなくそうかなって。…で、その、そちらの方は…?」
奏は『自分のものだ!』と言わんばかりに僕の腕にがっしりとしがみついていた。
…いや、いつものことか。
「…秋山奏です。歩くんの『彼女』です。」
奏はかなり警戒しているようで、その警戒に横山さんは苦笑いを浮かべていた。
そのあと、横山さんと少し昔(小学生時代)の話をしていると、横山さんは突然、「楽しい時間をこれ以上邪魔するのも悪いし。」と言って、別れの挨拶をしてから僕らが来た方向へ走っていってしまった。
すぐに人混みで横山さんの姿が見えなくなると、奏は安心したのか一度ため息をついた。
「…歩くん、鈍いです。」
「え?何が…?」
僕の反応に奏は肩を落として、ジト目で「…気づいてないならいいです。」と言う。
何が鈍いのか分からなかったので、姉さんに視線を送るも、笑顔で誤魔化された。
未来さんにも視線を送ると、奏が「言っちゃ駄目です。」という指示が飛んで、未来さんの開きかけた口からは「だそうです。」という答えにならない言葉が発せられた。
横山さんと会ってからは、僕が知っている人には会わず、警戒した奏に引っ付かれながら屋台を巡っていた。
屋台から少し離れた、誰もいない公園のベンチに座り、打ち上げ花火の見るポイントを先取りした。
姉さんが「何か飲み物買ってくるけど、何か飲みたいものはある?」と聞いてきて、奏はラムネが飲みたいらしく、僕も同じものをお願いした。
未来さんは姉さんについていこうとしたが、姉さんに僕らを見守るように言われて、僕らと同じものを姉さんに頼んで、ここに残ることになった。
僕と奏が未来さんも座れるように席を詰めて場所を確保すると、未来さんは「私は大丈夫なので。」と言う。
「未来さんも休憩してください。」
「…分かりました。」
少し命令のようになってしまい、自分の言った言葉をあまり良く思わなかったが、未来さんは奏が真ん中になるように静かにベンチに腰をおろした。
奏が未来さんに「そういえば聞きたいことがあるんですけど」と前置きをすると、未来さんは、「なんでもお聞きください。」と食い気味になっていた。
昔から未来さんは頼られるのが好きらしいので、今回も嬉しかったのかもしれない。
「未来さんは、いつからこのお仕事をされているのですか?」




