第107話 昔ながらの一人用ゲーム
ゲーム開始から約三十分。奏はまだ1ステージ目すらクリアできていなかった。
というか、1ステージ目のボス戦までもたどり着いていない。
このゲームでは、敵や敵の攻撃に一度でも当たると、即死亡というなかなか鬼畜なゲームなのだが、フォースと呼ばれる球体がある。
フォースは自機から切り離したり、機体の前か後ろに引っ付けることができる。
そして、そのフォースは敵と敵の攻撃を吸収できる(ただし、敵の攻撃が強すぎると吸収できない)ので、どれだけそれをうまく使いこなせるかというところだ。
「歩くん…お手本を見せてほしいです…。」
さすがに難しすぎたらしく、奏は涙目で僕を見る。
「はいはい。ほら、コントローラー貸して。」
素直にコントローラーを渡した奏は画面に集中して、猫たちと一緒に僕の操作を見ていた。
難なく奏が一番進んだところをクリアすると、奏は僕の腕に引っ付く。
「私が抜けられなかったところをいとも簡単に…、さすがです…!」
「僕も何回か全ステージクリアはしてるし、ある程度は覚えてるっていうか…まあ、慣れじゃないかな?」
そうこうしているうちに、1ステージ目をクリアしてしまった。
そのまま2ステージ目に入ったので、奏にやるかどうか聞いてみたのだが、見る方が楽しいらしい。
それ以降、奏は見ているだけだったので、僕が全て攻略していた。
そうして、何度かやられながらも最後のボスまでたどり着いた。奏と交代してから約三十分程だろう。
「ようやくラスボスだぁ…」
「なんでこういうゲームのボスって、気持ち悪い敵ばっかりなんでしょうか…?」
言われてみれば、昔ながらのゲームのボスはもともと気持ち悪い敵か、形態変化して気持ち悪くなるような敵ばかりだ。
気持ち悪い方が、敵と判断しやすいからだろうか?
「あ、フォースが…」
フォースが敵の核に入ったのを見て、奏は驚いていた。
昔、僕はこの後に何回もやられていたので、見飽きたといえば見飽きたのかもしれない。
「ここから難しいんだよね…」
「歩くんなら大丈夫ですよ。」
「そうかな?」
「そうですよ。」
なぜかやる気が出てきた。頑張ろう。
ラストのここは時間まで耐えれば勝ちなので、機体を左右に移動させてよければいいだけなのだが、敵が多い。
敵を倒す手段として、波動砲という、いわばビーム砲に、ミサイルがある。
どちらも機体よりも前にしか攻撃できないので、上下と後ろからの攻撃は避けるしかない。
当たり前だが、ラスボス戦の後半では、敵は上下からしか来ない。
そして、頼りになるフォースは無い。ミサイルと波動砲だけで、上下から来る敵を避けなければならないのだ。
「相変わらず、運に近いな…!」
「…!」
パーセントを確認するも、まだ38.9%で、三分の一程しか終わっていない。このパーセントが100%になるとクリアだ。
画面に集中していると、奏が隣から「あと半分です!」と状況を教えてくれる。
「あと、半分…!」
必死に回避に専念して、どうにか敵に当たることはない。この敵の攻撃が体当たり以外だったら、すでにやり直しなのだろう。
「あと10%です!」
長い間画面を見続けていたので、久しぶりのプレイに目が痛くなってくる。
「もうすぐ終わりま…」
「あっ!?」
敵に衝突しかけて下入力を入れて、衝突したと思ったところで、パーセントが100%になり、ムービーへと変わる。
「…く、クリアしたよ!奏!」
「すごいです!」
「うわっ!」
奏にいきなり抱きつかれて後ろに倒れると、周りにいた猫たちは、すぐに移動して下敷きにはならなかったらしく、やれやれと言ったように少し離れたところから見守っていた。
コントローラーを床に置いて、奏の背中に手をまわしたところで、襖が大きく開いた。
未来さんは僕らを見るなり、早口で話し始めた。
「…申し訳ありません。準備ができ次第、お声がけ…」
「だ、大丈夫です!大丈夫ですから!」
咄嗟に奏が僕の上から離れて、未来さんに弁明している間に、エンディングが流れているゲームを終了して、本体の電源を切った。
「歩様、奏様。本当に申し訳ありません。」
「未来さんは僕らを呼びにきただけだし…」
「ですが、ノックもせずに入ってしまった私に非があります。」
未来さんに今度から気を付ければいいと許したのだが、まだ少し落ち込んでいるように見えた。
「ほ、本当に大丈夫だから、そんなに落ち込まないで、未来さん。」
「歩様を心配させる訳にはいきませんね。分かりました。今後は気を付けます。では、ご案内致します。」
未来さんについていっている間、今度は奏の機嫌が悪そうだったのだが、きっと気のせいだろう。
半年前に見た大きなテーブルに姉さんとおじいちゃんとおばあちゃんが待っていて、僕と奏が席につくと、知らないメイドさんが二人、奥から現れた。
「はじめまして、歩様、奏様。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。私、遠山一夏と申します。こちらは私の妹の遠山春奈です。」
「遠山春奈です。よろしくお願いします。」
「「よろしくお願いします。」」
一夏さんと春奈さんに挨拶をすると、三人のメイドさんが席につき、晩ごはんが始まった。




