第105話 お出迎えのメイド
道中は下道を使ったので、あまり混んでいなかった。たまに見かける電光掲示板に『高速道路は10キロ渋滞!』と書いてあったので、下道を選んだのは正解だったかもしれない。
零さんの運転は車が苦手な僕でも酔うことがなく、途中で道の駅という、地元の特産物を売っているところに寄って、休憩することにした。
「後一時間ほどで着く予定だけど、混んでたら嫌だし、トイレだけでも行ってきなよ。僕らも行くから…って、雫は起きなさい。」
零さんが雫さんを起こしている間に奏と姉さんは車を降りていた。
僕も車を降りて、姉さんに奏を任せることを伝えると、姉さんは「分かってるって。」と胸を張っていた。
先にトイレを済ませた僕は、奏と姉さんを待っていると、程なくして二人が姿を見せた。
「お待たせ。零さんと雫さんは?」
「こっちには来てなさそうだから、多分お土産コーナーだと思う。」
「オッケー。じゃあ、そっちに行ってみようか。」
予想通り、お土産コーナーで二人が仲睦まじく、お土産を選んでいた。
零さんの手にはすでに二箱お土産があるのだが。
「お待たせしました。良いものありましたか?」
「うん。この二つは確定で、後もう一つ何かないかなって。」
「二つで十分だと思いますけど…」
二人は僕が言うのならそうなのだろうと、持っていた二つと、新しく雫さんが手にした、合計三つをレジに通していた。
車に戻ると、零さんが再度確認をする。
「みんな、忘れ物とか、やり残したことはない?」
零さん以外は皆首を縦に振ったので、零さんは「出発するね。」と言ってから、車を進ませた。
車に乗ってから約一時間、奏が寄り掛かり始めてから約30分ほどで、見慣れた景色が窓越しに見え始めた。
「そろそろ着くよ。って、奏も寝てる。歩くん、奏を起こしてあげて。」
「分かりました。奏、そろそろ着くよ。」
奏の頬に指を当てて、奏の頬を楽しみつつ、奏を起こす。いつもの僕らの起こし方だ。
零さんは「それで本当に起きるの…?」と不思議そうにしていたが、いつもならすぐに起きるので、今回も…
「…んむ。…んっ?」
奏に指を咥えられていた。奏も違和感があったらしく、僕の指を咥えたまま、目をこすっていると、自身が何をしているか理解したようで、慌てて謝り、そして取り出したハンカチで僕の指を拭いていた。
いつの間にか起きていた雫さんが車から降りたところで、車が停車していることに気がついた。
急いで車から降りると、姉さんがわざわざ僕らが降りるのを待っていてくれた。
「…広いですね。」
「まあ、田舎だしね。土地はあるから。」
姉さんが歩きながらこの地域がどういうところなのかを説明していると、いつの間にか正門前に着いていた。
少しすると門が開き、中からよくお世話になった人が出てきた。
「お久しぶりです。未来さん。」
僕が挨拶をしたこの女性は、井上未来さんで、おじいちゃんの家で雑務を任されている。
そして、普段の雑務はロングのメイド服であたっている。
未来さんは僕を見て、少し驚いた顔をしたように見えたが、すぐに表情が戻り、零さんたちを見た。
「本日はようこそお越しくださいました。ご事情は伺っております。ささ、中へお入りください。」
丁寧な案内をされて、玄関までを少し歩いて母屋に入った。
「こちらが母屋になります。晴道様と和子様はこちらにおられますので、是非とも挨拶を。」
靴を脱いで、皆が廊下に上がったのを確認してから、未来さんはまっすぐ突き当たりの大広間に進んでいき、襖越しに何かを言って、襖を開けて中へ入った。
中ではおじいちゃんとおばあちゃんがそれぞれ一人用のソファーに座っていた。
二人とも僕を見るなり、驚いた顔をしていたが、すぐにその表情は嬉しそうなものに変わった。
「ただいま。おじいちゃん、おばあちゃん。」
「おかえり。歩、忍。それに雫も。」
なぜか雫さんの名前も出てきたので、思わず「え?」と声が出てしまった。
雫さんは気にしていないようで、「ただいま。お父さん、お母さん。」と言うので、さらに驚いてしまう。
「え、じゃあ、歩くんのおじいさんとおばあさんは…」
「奏様の祖父母にあたります。」
奏が混乱しているのを見抜いて、すぐに事実を言う未来さんに僕も姉さんも驚いた。そんな孫たちを見れておじいちゃんとおばあちゃんはとても嬉しそうだった。
零さんは仕事が入りそうなので、雫さんを連れておじいちゃんに挨拶をすると、すぐさま帰っていったので、奏を巻き込んで、孫三人と祖父母による話し合いの場ができた。
おじいちゃんから聞いた話によると、僕の父の方の兄妹で、雫さんがいたことを聞き、奏は僕と姉さんからすると、いとこにあたるらしい。
「い、いとこは、結婚って…」
「安心してください奏様。従兄弟でも結婚は可能でございます。」
「奏ちゃんはそこまで考えてるんだね。」
「ち、ちが…わない、ですけど、言わないでください!」
奏が姉さんからのからかいに引っ掛かるので、おじいちゃんは大きな笑い声をあげていた。
一笑い終えると、おじいちゃんは姉さんとおばあちゃんに退室することを求めて、二人はそれに従って、おばあちゃんは姉さんと未来さんに連れられながら部屋を移動していった。
奏と僕とおじいちゃんの三人になり、一番最初に口を開いたのは、おじいちゃんだった。
「歩は、変わったのぅ…。」
先程までの声色より、もっと優しさを含んだ声で天井から吊られている四角い照明を見るおじいちゃんは、どことなく悲しそうにも見えた。
「奏のおかげだよ。奏がいたから、僕は変わったんだと思うし…」
「おお、違う違う。今のは独り言じゃ。」
おじいちゃんに何が聞きたかったのかを聞くと、「言いたいことは三つじゃ。」と指を三つ立てた。
「一つ目は、孝太郎と陽子のことじゃ。あれから、奴らには会ったのか?」
「…あの人たちには、まだ…」
「歩くん…」
心配そうにアイコンタクトをして、大丈夫だということを伝えると、奏はおじいちゃんの視線を遮るものがなかったので、手を彷徨わせていた。
奏の膝上に手を伸ばすと、奏はもう一度僕を見るなり、その手を握った。




