第104話 出発
出発の日、午前6時。未だ機嫌の悪い奏は僕と顔を合わせてくれない。
「奏さん、そろそろ離してほしいというか…」
「駄目です。これは罰なんですから。」
「引っ付きたいだけでは…?」
「…。」
顔が見れないので、背中や首元に当たる吐息で奏が何をしているか判断しなければいけない。
なので、余計に感覚が研ぎ澄まされて、吐息が当たるだけでも少し体が反応してしまう。
寝室の扉が音を立てて開き、姉さんが姿を見せると、奏は転がって布団に丸かり、ようやく僕も転がって、奏を捉える。
「ほら二人とも、朝だよ。起きな…、いや、やっぱりいいや。」
姉さんは状況を察して扉を閉めて、多分キッチンに行ったのだろう。
奏を後ろから抱き締めると、手の位置が悪かったらしく、奏から「んっ。」と声が漏れた。
僕自身も駄目なことは分かっていたが、実を掴むようにしている手を離す前に奏の手に押さえられる。
「揉んでも、いいんですよ?」
「え?」
奏が放った言葉が飲み込めず、フリーズしていると、僕の手を押さえている手が動き、奏の実の感覚を確めさせられる。
ある程度体験し終わった後、奏は僕の手にキスをして、ようやく僕の方に方向転換する。
僕の胸あたりに顔を埋めた奏は「特別…ですから。」とこれまでに聞いたことのないくらいの小さな声を発した。
そんな奏を撫でてみると、だんだん奏の顔がはっきり捉えることができ、奏は嬉しそうにはにかんだ。
その後、奏が「ムニエルどうするんですか!」と立ち上がり、急ぎ足でキッチンに向かっていったので、くしゃくしゃになった布団とシーツを直してから、僕もキッチンに向かう。
キッチンでは、奏がエプロンに着替えて、冷蔵庫から鮭の切り身を取り出していた。
「五人分って多いね。フライパン二つでやる?」
「そうですね。一気に終わった方がいいですよね。」
姉さんの提案により、二つ目のコンロにもフライパンが乗せられ、姉さんは火をつけようとしていたので、慌てて止めた。
「え?ムニエルって焼くんじゃないの?」
「いや、焼くけど、下準備があるから。」
「下準備?」
奏が鮭に塩をふっているのを見て、少し心配そうな顔をしていた姉さんは15分もすると、目を輝かせていた。
バターの香りがほどよくする二つのフライパンは、5分もしないうちに火を止められ、鮭のムニエルが完成した。
「スッゴい美味しそう。私も今度やってみるよ。」
「忍さんなら、いつか私より美味しくできそうです。」
姉さんは調子に乗って、「弟くんの胃もつかめちゃうね。」と奏を挑発するように言うと、またもや奏はそれに対して、「絶対駄目です!」と僕が姉さんにとられないように腕をホールドする。
「冗談だって、ほら、朝ごはんにしよ?」
「…分かりました。」
奏が完全に姉さんを警戒したところで、炊飯器からご飯をそれぞれつけて、リビングに持っていく。
零さんはすでに起きていたようで、挨拶をすると、「うん。おはよう、歩くん。」と言いながら起き上がると、雫さんがまだ寝ていることに気づいて、雫さんを起こしていた。
そんな二人を見てから、他のお皿を運びにキッチンへと戻った。
雫さんが料理の匂いで目を覚ましたところで、朝ごはんになった。
奏が担当していたフライパンでは二人分の鮭、僕のは三人分で、僕と奏は前回奏が作った鮭を食べたので、僕のを食べ、姉さん、零さん、雫さんの三人は、食べ比べをするらしく、残りを分けていた。
「美味しかったぁ~。ご馳走さまでした。」
「はい。お粗末様です。」
奏が嬉しそうにしているのを見つつ、お皿を洗いに行こうとすると、零さんが「作ってもらったし、皿洗いくらいはするよ。」と名乗りを上げたので、洗ったお皿はすぐに拭いてほしいという要望を伝えて、皿洗いは零さんに任せることにした。
「本当に二人とも料理上手よねぇ。れーくんも他の料理にチャレンジしてみればいいのに。」
「あ、あはは。そう、ですね…(言えない!奏の言葉が刺さってたなんて言えない!)。」
「でも、お父さん、洋食は美味しいんですよね。」
この子は本当に酷いことを言う。洋食『は』なんて本人の前で言ったらと思うと…。
ましてや、当の本人は全く気にしていなさそうなのがまた不安を加速させる。
何か話題を変えるべきだと思い、持ち物の最終確認をするということで、奏を連れていくことができた。
最終確認ということで、お互いの持ち物を確認することになったのだが、やけに奏の持ち物が膨らんでおり、開けて見ることにした。
「あの、奏さん?どうして白と黒の着ぐるみが入っているんですかね?」
「…。」
「顔を背けても駄目だよ。」
そう言うと、奏はこちらを見て、「お願い使います!」と宣言した。
そして、旅行中に一回は着るという条件がついてしまった。見なかったことにしたほうが良かったかもしれない。
最終確認も終わり、持ち物を全て持ってリビングに戻ると、零さんたちも行く準備が終わったらしく、ようやく出発だ。
五人全員が廊下に出て、鍵をかける。
「「いってきます。」」




