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第8話 ご奉仕タイム到来です 案の定講義はサボります 前編

 私は今、蓮が搬送されている救急車に乗車しています。担架で運ばれた蓮はベットで睡眠中。そのベットの横に脈を映し出すモニターがピッピッと音を鳴らし、私の心を締め付けてきます。


 蓮の手を両手で固く握る。


 私は誤ちを犯しました。

 予兆もありましたし、顔を早く確認していれば良かったのです。いや、そもそも私が欲のままに蓮を弄んでいたのが一番の罪。それに、私の身勝手な気持ちが無ければ───


「大丈夫ですよぉ相笠さん、いつも通りいきなりムクっと起き上がるに決まってます」

「……うんっ……そうですよね」


 そう、この蓮を搬送する救急車に乗車している生徒は私の他にもう一人。増野さんです。


「増野さんは講義はいいんですか? 途中で抜ければサボりで成績落ちますよ?」

「そんな事はどうでもいいんです。笠原さんはもちろんですが、私は相笠さんも心配なんですよ」

「私が……心配?」

「相笠さんは笠原さんのこの状況に一人自分を責め続けると思たんです。けど安心してください、私もモールス信号の助太刀をした共犯です。それに、お友達の悲しみを分かち合うのは当然のことなのですよぉ」


 お友達……その言葉が私の沈んていた心に、光を差し込むような暖かさがありました。実際にそう言われると嬉しくなるものなのですね……


「僕ももちろんお友達だよ~」


 あ、こいつの存在を忘れてました。

 そう、この蓮を搬送する救急車に乗車している生徒は私と増野さんの他にもう一人。パクチーです。


 私は救急車に乗り込んだ際に言ったセリフを再度、パクチーに投げかけます。


「何で亀石さんが居るんですか」

「だから僕もお友達だからですよ、当然です」

「私亀石さんとまともに喋ったの今日が初めてなんですが……」


 お友達……その言葉が私の暖かい心に、陰を差し込むような冷たさがありました。実際にそう言われると受け入れ難いものなのですね……


「幸せパクチーを分け合ったお友達は皆お友達。パクチーを分け合うように喜びも悲しみも皆で分け合うのです」


 なんかいい事言いましたみたいな顔をされると腹が立ってきます。蓮のこの状況を、安全な場所から面白がってる悪魔なだけかもしれません。それに分け合う構文は増野さんがもう言いましたよ。


「相笠さん、私はずっと気にしていた事があるんです」


 増野さんが意を決した表情で言いのけます。


「笠原さんが好きなのに何故付き合わないんですか?」

「……」


 私は、別に蓮のことは……


「私は知ってるんですよ、笠原さんがいつも送ってるラブレターを破いた後、その紙屑を丁寧に集めてバックにしまってること」

「……」

「あれ、全部繋ぎ合わせて大事に持ってるんじゃないですか?」

「……それに、何の関係があるんですか」


 私はただ蓮の前ですぐにラブレターを破きたいだけです。一応何かいけないことが書かれていないか確認する為に修復しているだけなのです。


「やっぱりですぅ、笠原さんより正確にラブレターの枚数を覚えてるのに違和感があったんですよぉ……普通何も思ってない人にそこまでする人はいませんよ?」

「私は蓮が鬱陶しいだけ」

「……相笠さんは、今の関係性が変わってしまうのが怖いんじゃないですか?」

「……!」


 私は……

 ……

 それでも私は……!


 開こうとした口を増野さんは指で押え。


「その言葉を目覚めた笠原さんに送ってください」

「……うん、ありがとう増野さん」


 救急車の中にいる看護婦がいい話だねぇと和む中、空気を読まないパクチーが一人。


「そのラブレター気になります。是非読んでみたいです」


 そんな空気パクチーに私はバックを指差し。


「私のバックの奥にラブレター入ってるので読んでいいですよ」

「「持ち歩いてるんですか!?」」


 まあ、特にしまう場所もありませんでしたし、ラブレターがイタズラに再利用出来るかもと入れていただけです。別に読み返してニヤニヤする為に常備していた訳ではありませんよ。


「ああダメです亀石さん、乙女のバックを男が無造作に開けてはいけないんですよぉ。私が乙女代表者としてバックを開けます」


 私のバックを増野さんが片手を突っ込みラブレター探しをしています。


「ん? この袋は……」

「それは伯方の塩ですね」

「ん? この袋は……」

「それは余ったねるねるねるねですね」

「ん? この袋は……」

「それは妹の機嫌を直す時に取り出す駄菓子袋ですね」


 何で食い物ばかり入ってるんだとばかりに顔を見合わせるマスコットとパクチー。ラブレターを探り当てられず中を覗き込む増野さんは何かを見つけたようです。


「この黒い箱なんですか? ……0.0」

「ああああああああぁぁぁ!!!」


 増野さんが手にする小さな黒い箱を片手でバシッと奪い取ります。はあ、はあ、あ、危ないところでした。ここここれはあれです、万が一蓮と万が一する時万が一仕方なく使う為です。


「……相笠さん」

「な、なんですか増野さん」

「残念ながら腹筋には」

「もういいですから! ラブレターは私が取り出しますから!」


 蓮の手を片手で握りながら、もう片方の手で器用に大きめのポーチを取り出します。ポーチのチャックに付いた、クラゲのキーホルダーが可愛らしく揺れています。


「この中に蓮からのラブレターが入ってます、どうぞ好きに読んで構いません」

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