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第14話 アディショナルタイム到来です 今後も講義はサボります【番外後編】

 パクチーではない方の爆弾魔が出現した室内は、大きな水槽で群れを成す魚達や底を這うサメ、室外とも繋がっているペンギンやホッキョクグマ等の動物もいる中。


「蓮来ましたよ、ここがクラゲコーナです!」


 円盤の水槽にふわふわ漂うこれまた激カワ生命体、クラゲもまた目玉なのです!


「クラゲって案外種類いるんだな」

「もちろんですよ。ほら蓮、このカラージェリーフィッシュはモコっとした足が可愛いんですよ」


 ここの水族館は時期にもよりますが、個性豊かな八種類のクラゲが展示されています。ミズクラゲが一般的ですが、ふわふわモコモコなクラゲも愛らしいです。


「クラゲ詳しいんだね愛ちゃん」

「クラゲに愛された女ですからね。海に行く度に刺されるんですよ!」

「それポジティブ過ぎない?」


 クラゲを好きになったきっかけは他にもあった気がしますが、何せ小さな頃だったので思い出せませんね。


 蓮を私はふわふわなクラゲに心もふわふわさせながら、この幸せな時間を分かち合います。一通りふわった私達は、クラゲの水槽を眺めながら長椅子で休憩している時。


「お、あんなところにガチャがあるじゃん。記念に一回ガチャろうかな」


 私達の行動を見通すかのように、長椅子が並ぶこの場所の横側に、三台並んだキーホルダーガチャがありました。蓮と私は何だろなと楽しげに近づきます。


「キーホルダーとミニチュアか~キーホルダーのサメが捨てがたいな」

「蓮っキーホルダーにチンアナゴとナマコがいますよ!」

「すげえな、ナマコサンリオデビューする前にガチャデビューしてるわ。しかもナマコだけ押すと内臓が出る機能付きだって」

「それはちょっと可哀想ですね、無限内臓編です」


 蓮はサメを一点狙いなのか、サメサメ~と祈りながらキーホルダーガチャを回していきます。

 私はそこにナマコナマコ~と妨害してここぞとばかりにイタズラを仕掛けます。ナマコの次いでに唱えたチンアナゴ~の後に、何処からかユニコーンが聞こえたのは多分気のせいです。


 ガコガコッと音を立てて出てきた、青とスケルトンの二色のカプセルを蓮が拾い上げて、カプセルを開ける前に覗き込みます。


「あ~これシルエット的にサメじゃないな」


 と言いつつもそこまで残念そうじゃない蓮。


「私のナマコ念仏が届きましたか」

「ハハッじゃあナマコ出たら愛ちゃんにあげるよ」

「いいんですか? えへ~蓮好きです~……はっ」

「どうした愛ちゃん」

「いやその、好きって思わず言っちゃっいました」


 とても恥ずかしいです、私としたことが水族館デートで浮かれてしまいました。それともナマコパワーなのでしょうか。


「寧ろ俺はコンマ一秒ずつ言ってても嬉しいよ」

「人間を超えし新生物ですねそれ」


 好き好きコールが早すぎて聞き取れなさそうですね。朝の目覚ましくらいにしか使い道がありませんよ。


「それにさ、俺も毎日愛ちゃんの事を好き好き言ってたのも、今の愛ちゃんみたいに自然体で出ていたもんだよ。」


 ……なんだか照れくさいですね、好き好き蓮と同じになってしまうとは。ただまあ、悪い気分じゃないです。


「イラスト相合傘もラブレターも自然?」

「あれは自然……なのかな?」


 流石に蓮でもあのネジが外れたような行動には疑問があるようですね、蓮の頭を修理に出す心配は無さそうで安心です。


「さっさとカプセル開けたらどうですか、私にナマコをくださいよ~」

「ごめんて」


 パカッと開けたカプセルの中身。そこには私が見慣れたキーホルダーがありました。


「クラゲだ」

「……」

「愛ちゃんクラゲ好きだったしあげるよ」

「これ私同じの持ってます」


 ガチャのパッケージのナマコやチンアナゴに気を取られて気づけませんでした。

 ガチャのラインナップに、私がラブレターを入れてるポーチに付けていた、クラゲのキーホルダーと全く同じものがあったのです。


「そんな偶然あるんだな、このガチャここの水族館限定らしいのに」

「小さい頃一回家族と来たことがあるんです、多分その時ですね」

「随分と長い期間あるんだなこのガチャ……じゃあ俺が付けたら愛ちゃんとおそろだな!」


 蓮とおそろいのクラゲキーホルダー、恋人みたいで恥ずか……あ、私達はもう恋人でしたね。にしても年季が入った私のクラゲと比べて、新品クラゲはここまで色鮮やかだったとは。


 蓮のバックに取り付けたクラゲを揺らし、私達は水槽のクラゲをゆったり見ながらあれこれ喋っている時。背中にポスッと誰かとぶつかってしまいました。


「あ、ごめんなさい……」


 小さな女の子が泣きそうな顔をしながら謝ってきました。


「どうしたの? もしかして迷子かな?」


 スムーズにしゃがんで女の子の視点を合わせる蓮。蓮のこの迷いなくする優しい行動、私はとても好きなのです。私も見習ってスパッとしゃがみます。


「うん、お姉とはぐれちゃったの……うぅ」

「大丈夫大丈夫、すぐお姉ちゃんに会えるから。愛ちゃん、とりあえず迷子センターに行こう」

「そうですね」


 この迷子で泣く女の子、私は何処か既視感を覚えます。この光景、この状況。


「そうだ、じゃ~ん、このクラゲちゃんをプレゼント! はいどうぞ」


 涙を拭った小さな手に、バックから外したクラゲのキーホルダーが。受け取った女の子は嬉しそうにはにかんで笑いお礼を言います。


「ありがとうお兄さん!」


 蓮と女の子の姿が、忘れてしまっていた大事な古い記憶と重なり蘇る。


 私は家族とここの水族館に訪れたのは、ここの地域に引っ越してきたばかりの頃。私も同じようにして迷子になっていました。

 そんな迷子の私を元気付けてくれた、当時小さかった私と同じ背丈の男の子。偶然居合わせたその子も、こうして同じように、私にクラゲのキーホルダーをくれたのです。


 そうだ、そのお礼をしたいと言ってから私達は……


「あ、お姉発見!」

「早ッどこどこ?」

「お姉ー!」


 と言って駆け出しお姉に抱きつく女の子。そのお姉は、女の子と私達に二重に驚き。


「わわっ野生のバカップルですぅ!」

「「増野さん!?」」


 何故増野さんがここにいるんですか。偶然にしても偶然すぎないですか。亀石さんとこぞって、私達の水族館デートを妨害しようとしているのではと疑ってしまいます。


「お姉の知り合い?」

「近づいてはダメですよ、バカが移ってしまいます」

「でもクラゲ貰ったよ」


 お姉にクラゲを見せびらかしながら、私達の方を指さして言います。


「クラゲはどうもありがとうですよ」


 妹を私達からバカが移らないように、身体に寄せながら吐き捨てます。増野さんも私と同じくらいのアホウだと思いますけど。


「増野さんは姉と言うより妹だと思ってました」

「俺も同じく」

「れっきとした姉ですよぉ!」


 そんな通常運転なプンスカお姉は、妹の手を繋ぎながら私にサッと近づき。


「地下一階の端は誰も来ないお楽しみスポットなので、さっさと行って彼氏に襲われるがいいですよ」

「なあ!? れ、蓮に聞こえてますって!」

「じゃあまた大学で会いましょう~!」


 爪痕を残して去る台風二号こと増野さんは、妹さんを連れて行ってしまいました。全く困ったもんですね。


「……行きます?」

「行くの!?」

「持ってますから」

「何を!?」

「パクチー」

「どう使うんだ!?」

「物理的に」

「物理!?」


 蓮をおちょくった私は、ふふっと笑いながら物理パクチーをバックにしまいます。その時、バックに入っていたポーチに付いたクラゲが手に触れフリフリ揺れます。

 ……私はこれも、蓮に正直に謝らなければなりません。


「蓮、私のことを幻滅しないでください」

「ええ、いきなり何を、別にパクチーしても幻滅しないよ?」

「そうではないのです……これ」


 私はポーチのチャックを開けて、中に入っていた、テープで補強されたラブレターを取り出します。


「……! これって全部……!」

「……ゆ、許してもらわなくていいんです。私、ただ蓮の反応を見たいが為につい破いてしまっていたので、全て内緒で修復して持ってたんです。いつか言おうとして入れていましたが、タイミングを失ってまい……って蓮!? ごめんなさい、な、泣かないでください!」

「いや、嬉しくてつい」


 ポロポロする蓮は先程の女の子同様に手で涙を拭っています。

 そういえば、私がモールスした時もポロポロしてましたね……腹筋付き合う宣言をした私も、ヤブレターを隠し持っていた私も許してくれる蓮。増野さんの塩湖のように広い心よりも広い、カスピ海ですね。


「これ全部一人でくっつけてたの?」

「さっ左様でございます」

「おわ~凄いなこれ、損害なく全文読めるぞ」


 かつて書き留めたであろうラブレターの文章を確認する蓮。文章力がまだ備わっていなかった好き好き怪文を読んだ蓮は、自分の文に引いています。


「私のことについては引かないんですね」

「そりゃそうだろ。でも、これからはラブレターを破られずに渡せるな」

「ラブレターはこれからも破りますよ?」

「え?」

「寧ろ、隠さず堂々と蓮の前で破いて、即修復出来るんですから、しないなんて選択肢は無いんですよ?」


 イタズラ笑顔な私は、蓮の手を引っ張りながら、ライトアップしているクラゲの大きな水槽に進みます。


「蓮、覚えていますか? 私達、ここで初めて出会ったんですよ」

「え……あッここの水族館ってあの時の!?」


 かつて、迷子の私の手を引いて元気ハツラツに歩く男の子。お礼を言いに家まで行ったはずなのに、照れくさくて言えずにいた私。そのまま友達として過ごしてきた幼馴染二人は、こうして初めて出会った場所に辿り着いたのです。


「ここで初めて出会った時に贈るはずだった言葉。その《《初めて》》を今、蓮に贈ります」


 私は蓮の顔を見上げる。水槽ライトアップの鮮やかな光が反射する、蓮の綺麗な瞳と視線を交わします。


 ……今この思い出の場所で、あの時言えなかったことを。


「蓮、私を見つけてくれて、ありがとう! これからもよろしくね!」

「……! こちらこそ、俺に出会わせてくれて、ありがとう」


 蓮が私の手を引っ張ってくれたように、蓮が私に好きと言ってくれたように、私はこれから少しずつでも、蓮がしてきた行いを仕返ししていくのです。


 たとえそれが、講義中だとしても、ね。





 番外編 完

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