第13話 アディショナルタイム到来です 今後も講義はサボります【番外中編】
室外に出たのでもう安心です。しかし、あのポミュ感が手から無くなってもの足りないですね、ここは元カレに癒して貰いますか。また蓮のお腹に手を突っ込むと、蓮が心配そうに私の顔を覗き見て来ます。
「愛ちゃん大丈夫か? さっきから慌ただしいけど……やっぱり元カレ、腹筋と別れて、腹筋チャージが足りないのか?」
「えええ!? ご、ごめん蓮ッ私は蓮だけで満足してますから! 蓮といるだけで幸せですから!」
蓮に変な心配をかけてしまいました……このままでは水族館デートが台無しです。私は元カレとさよならしたんです、だからもう元カレを触っては……
蓮は私の言葉に少し照れながら言います。
「まあ俺の腹筋と別れるも何も、腹筋も俺の一部なんだから、愛ちゃんは実質腹筋とも付き合ってるもんでしょ」
「え、ええええ!? 腹筋と蓮どっちも付き合うのってアリなんですか!?」
「そりゃまそうなる」
わわわッ腹筋、腹筋と蓮をどちらも独り占め出来るだなんて……これ以上ない幸せです。こんな幸せな人間が居ても良いのでしょうか。
「あの、いつでも腹筋を堪能出来るよう、へそ出しコーデしませんか?」
「流石にそれは腹筋に要相談ということで……」
ちぇ。腹筋は即承諾すると思いますけどね~。
そんな蓮にひっつき虫な私は、室外の道を列になってペチペチ歩く激カワ生命体を発見します。
「わぁ! ペンギンですよ!」
「めっちゃレアじゃんあれ! もっと近くで見ようぜ!」
興奮した二人は、鳥のようにバタつかせながらペンギンに向かいます。その姿はペンギンからしたら頭のおかしい外敵が現れたのも当然。列の最後尾に居た二人の飼育員さんに集まってしまいました。
「ああごめんなさい、驚かすつもりは無かったんです」
最上列に居る一人の飼育員さんがペンギンにエサを与えながら。
「いえいえ大丈夫ですよ! 今ペンギンショーが終わって、水槽まで散歩中なんです。ここの線までであれば近づいて構いませんよ」
よく見たらペンギン達が歩く道に白い線が引いてあります。二本の線を道路のようにして歩いていたんですね。
「やべ、ペンギンショー観るの忘れてた」
蓮が思いの外ショックな表情をしています。両手が塞がっているので、蓮のショック顔をスマホカメラで撮れないのがまた残念。
「蓮がペンギンの代わりにペンギンショーしてください」
「そんな無茶な……え、しかもペンギン側?」
「ご褒美もありますよ?」
「バックから取り出したそのパクチーがご褒美?」
「口移しでどうですか」
「そこまでして人間ペンギンショー観たいの!?」
ちぇ。パクチーではダメですか、今度はバックに冷凍庫ごと魚を持って来なければいけないようですね。
手に取ったパクチーを頬張りながらそう思う私に、蓮はパクチー食ってやがると言わんばかりな視線を送って来ます。なんかパクチー貰ってく内にこの不味みが欲しくなっちゃったんです、あの美少年は私にパクチーを教えてしまった罪深き人間なんですよ。
「あれ、こんなところに野生のバカップルがいますよ」
あ、パクチーをすれば美少年こと亀石さんです。横に美少年と釣り合わない大柄な男性がいますね。
「水族館でだなんて偶然だな。横にいる男の人はお兄ちゃんだったり?」
「お兄ちゃんですねえ」
「お、おう、始めまして」
亀石兄は大きな手を後頭部に当てて小さくお辞儀します。お兄ちゃんにしては似つかない風貌ですね、猫と虎が歩いてるみたいです。
「弟さん、パクチーが無くなりそうなので補充分ください」
「あ~いよ、パクチー同士が増えて僕も嬉しいものです。そろそろ大学でパクチー愛好会を作っても良い頃ですね」
「「……」」
パクチーを頬張り合う二人を、珍生物を見るかのようにする無言な男組。そんな男組を思っての美少年がパクチーを手提げ袋から出し。
「二人もどうぞ」
「「いえいえ」」
「……」
断られた亀石さんは、行き場を失った手のパクチーを持ちながら歩くペンギンに目をやります。
「ダメだよ? いくらなんでもペンギンにご挨拶パクチーはダメだよ?」
「「そうですよ」」
汗垂らして止める兄と便乗する私達。激カワ生命体に、この世の不味を教えてはならないのです。
三人が両手を広げてペンギンガーディアンをしたお陰か、パクチーを手提げ袋に戻してため息をつく美少年。やはりこのパクチー悪魔、自分が美少年だからと何しても許されると思っているに違いありません。
「蓮、私達は尊い命を守ることが出来ましたよ、これで世界平和が訪れます。なのでペンギンショーしてください」
「話飛躍しすぎ。ペンギンでも空飛べる勢い」
ペンギンお守りパワーでもダメでしたか、仕方ないですねもう。
「そういえば相笠さん、幼馴染で彼氏な笠原さんにも敬語なんですね。相笠さんが敬語じゃない時見た事ないので、タメで笠原さんと喋ってくださいよ」
「それはまた急ですね」
蓮にタメ口……そういえばしたことないですね。正直私が蓮にタメ口で会話する想像が出来ないレベルで違和感があるのですが、ここは勇気の一歩を踏み出す時ですよ!
「あの、れ、蓮ッ……」
「愛ちゃん……無理しなくていいんだぜ? 別に俺は敬語の愛ちゃんのままでも気にしてないよ?」
「相笠さん……でしたっけ、湊の言った事を間に受けなくて大丈夫。こいつは人を巻き込んではほくそ笑むクズですから」
「いや、タメってみますよお二人さん」
兄の心の無い言葉に、特に気にもとめない美少年クズ。言われ慣れているのでしょうね。
私は深呼吸をしもう一度。
「蓮……私、私ね、ぺぺ、ペンギンショーする蓮がみみ、み……」
「もしかしてタメ処女とかですか?」
「「「タメ処女!?」」」
爆弾魔がここにもう一人いました!
あと私の勇気のタメ口を遮らないでくださいよ!
「湊……発言には気をつけろ。今日の帰りに買うパクチー抜きにするぞ」
「そもそもタメ処女ってなんですか?」
「タメ口を他人にした事が無い人です」
蓮も知ってますかという目線を蓮に送る。そんな私を見て首を横に振りながら。
「俺も聞いた事ないけど」
そんな困り果てる三人に当然の如く亀石弟は言い放つ。
「まあ僕が今作った概念なので」
「もう自由人じゃないですか」
この道に佇むパクチーはほっといて蓮にタメ口しましょう。
「良し蓮、今度こそタメ口しますよ。私の処女を貰ってください!」
「その言い方やめて!」
「私の初めてを貰ってください!」
「いやそうじゃなくて!」
私は二回目の深呼吸を終え、蓮を見つめながら手を繋いでいる右手を固く握ります。
「蓮ッ……!」
「愛ちゃん!」
「……やっぱり後でセットであげます」
「ま、まあ無理しないで良かっ……セットって何!?」
「もうバカップルはおいて散歩ペンギンを追いかけますよ」
場を荒らした本人がそんなことを言って、兄と共に行ってしまいました。兄が後ろを向いて謝るポーズをしながら、申し訳なさそうにしている姿が可哀想ですね。
「なんか嵐のように去っていったな」
「これが嵐を呼ぶ疾風伝ですか」
そんなことを言いながら、私達はまだ行っていなかったクラゲコーナーに向かって行きます。




