番外編 サンタクロースについて話しました
この後サンタ代行業務が待っている、大和・J・カナタです。
今年はイラスト無しですが、ちょっとした短編をお届けしたいと思います。
「この季節になると、駅前なんかはどこもかしこもクリスマスムードだよな」
そう言って携帯端末を弄るのは、鳴洲人志だ。そんな彼が言葉を向けたのは、仲の良いクラスメイトであり親友である寺野仁と星波英雄、そして倉守明人。そう、いつも仲の良い四人組である。自分達の教室で昼食を食べる中で、世間話の合間に漏れ出た台詞がそれだった。
「そうだね、今がどこも商品を多く売るチャンスだろうし」
卵焼きをよく咀嚼してから呑み込んだ仁が、そんな言葉を口にする。勿論その卵焼きは、婚約者である星波姫乃が作った愛妻弁当のおかずだ。
「冬のボーナスシーズンになるから、財布の紐も緩みやすくなりそうだもんな」
仁同様に、自身の見解を口にした英雄。その台詞を言い切った彼は、婚約者である初音恋が作ったミートボールを口に放り込む。
「仁も英雄も、目線が一般的な高校生と掛け離れてない?」
仁と英雄の発言に、明人が苦笑してツッコミを入れる。残念ながら、彼の本日の昼食はいつも通りの惣菜パンだった。
明人の考える一般的な高校生であれば、恋人とのデートに思いを馳せるか……もしくは、恋人をゲットしたいという欲求が強まる傾向にあるかだろう。
現に半数以上のクラスメイトは、男女問わずにソワソワしている様子である。
「まぁ決まった相手がいるお前達は、デートの予定立てて楽しみなんだろうけどな」
人志はそう言って、小さく苦笑した。しかしそこで妬みや嫉みに走らないのは、彼の大きな成長した点だろう。純粋に三人の人柄を認めているからこそであり、そしてその幸せを祝福しているのだ。
「仁と英雄は、やっぱデートするんだよな?」
人志がそう問い掛けると、二人は笑顔で頷いた。
「そうだね、デートして一緒にうちでご飯食べる感じだよ。父さんと母さんが、姫に会いたがってて仕方が無いから」
「俺も、似た様な感じかな? 最近公開された映画の原作の作者が、恋がよく読んでいる作家さんらしくてね。それを見に行く予定」
予想通り、健全なデートをするのだなと感心する人志。そして、もう一人の親友に彼は視線を向ける。
「明人もデートすんだろ? 今年はどうする予定なんだ?」
「彼女が住んでいる辺りでデートして、軽く食事って感じの予定。まだ高校生だし、遅くまで連れ歩くわけにはいかないからね」
そう言ってもう一度惣菜パンを口にする明人は、大した事ではないといった雰囲気を醸し出している。しかしその内心は、期待感でいっぱいだ。
そこで彼等以外……同じく教室で昼食をとる、クラスメイトの女子から声が掛けられた。
「あれ? 倉守の彼女って、この辺に住んでる子じゃないんだ?」
それは、英雄のファンの一人……ガチ恋勢と異なり、彼の幸福を心から祈る同担歓迎派の道端だった。そんな彼女の台詞に、同席していた女子生徒の一人……隈切小斗流が「ちょっとよしなって、盗み聞きしてたみたいじゃないの」と難色を示す。
「大丈夫だよ、委員長。こんな至近距離でしていた会話だし、盗み聞きだなんて思わないから。そうだね、僕の恋人は隣県なんだ。ここからだと、電車で三十分くらいだけどね」
「あぁ、そこまで遠距離って訳じゃないんだ。それにしても、クリスマスデートかぁ……いやぁ、いいもんですなぁ」
道端が笑顔で冗談めかして嘯くと、小斗流や同席している猪狩も笑みを浮かべてみせた。
そんな中で、猪狩が何でもない事の様に口を開いた。
「そうそう、クリスマスといえばさ? 皆、いつぐらいまでサンタクロースを信じていた? 私は小五の時、プレゼントを置こうとしていた親を目撃して解っちゃったんだけどさぁ」
猪狩が切り出した話題に、仁達も「あー……」と苦笑する。流石に高校生ともなれば、未だにサンタクロースの実在を信じている者は居ないだろう。
その話題に最も早く乗っかったのは、仁だった。
「僕は、確か三年生くらいの頃だったかな? クラスの子が教室で、サンタは親だよって言ってて……で、親に聞いたらそうだよって言われた感じかな」
仁がそう言うと、他のクラスメイト達は「あー、あるある」といった顔をしてみせた。
「あぁ、成程。うちと似ているけど、誤魔化そうとはしなかったんだね。私は誤魔化されて納得しかけてたんだけど、たまたま親が居ない時にプレゼントを見付けて問い詰めちゃったんだよね。親からは、弟にはまだ黙っていてあげて欲しいって言われてさぁ」
「委員長みたいに兄弟姉妹がいると、その辺り親は大変そうだよな。俺は小五の時、親が仕事に行ってる時だな。クリスマス寸前に、宅配便を受け取ったんだけどさ……そこに書かれてた商品名が、俺が欲しかったモノでな? 何かそれ見て、ガックリ来ちまってさ」
「あぁ、それは中々……鳴洲君の気持ち、ちょっと解るなぁ」
それぞれのエピソードを聞いて、盛り上がるクラスメイト達。その会話に参加し始める者も居て、気付けばクラスメイトの半数以上がサンタクロースの話題になっていた。
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「……みたいな事があったんですよね」
「ふふっ、仲が良いクラスなんですね」
ギルド【七色の橋】のギルドホーム、[虹の麓]。全員がログインして大広間に集まったギルドメンバーは、雑談に花を咲かせていた。
何気ない今日の出来事を話していく中で、ジン達は本日の昼休みの話題を仲間達に振ったのだ。
そんな中、呆然とする一人の少女。
「えっ、サンタさんって……居ないの……?」
「えっ!?」
「セ、センヤ、ちゃん……?」
まさか、嘘だろ? そんな反応をしてしまうメンバーは、思わずヒビキに視線を向けた。幼馴染であり恋人である彼ならば、事の真偽を把握しているはずと信じて。案の定、ヒビキは苦笑いして首を振っていた。
「なんちゃって。流石にこの年で、信じてる子はそうそう居ないって」
ワンチャン、信じていてもおかしくなさそうなキャラクター性の彼女だ。そのジョークが真に迫っていた事もあり、ジン達は思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
「私とヒビキは、五年生くらいで二人で気付いたんだよね」
「クリスマスの日はどっちかの家にお泊りするのが恒例だったから、二人でサンタさんを待っていようね……ってなって、親達が来るまで寝たふりをしていて……」
「「「あー……」」」
その後の結果は、言わずもがな。親だった事を知った二人は、しばらくしょんぼりしていたらしい。
「私は小学校に上がって、すぐにサンタクロースが親であると確信しましたね」
「へぇ、レンはすぐに気付いたんだね」
ヒイロがそう言うと、彼女は「勿論です」と頷いた。
「初音家のセキュリティを、外部の人間が突破できるはずがありません。となればサンタクロースは、内部の人間ですから」
「アッハイ」
お嬢様的サンタクロースの正体見たりは、家のセキュリティレベルという予想の斜め上が原因であったらしい。
「私は普通に、周りの友達が言っていて「あぁ、そうなんだなぁ」ってなったかしら?」
「私もミモリさんと同じですね」
ミモリとネオンはジンと同じで、学校の友人の会話からそう納得したタイプらしい。やはりそれは小学校時代の、中学年あたりだったそうだ。
「俺はサンタの正体を突き止めようと、罠を仕掛けたッスねぇ……」
「何やってんだ、おめーは……親にしろサンタにしろ、罠仕掛けんのはダメだろ……」
「うっせぇッスよ! 罠っつっても子供だましのやつで、全部回避されたし」
子供が仕掛ける子供だましの罠は、子供だましと称して良いのだろうか? そんなどうでも良い事を考えつつ、ジンはヒメノに視線を向けた。
「姫はどうだった?」
「私は……その、中一の時にサンタクロースが両親だって知ったんですよね。両親から話があるって言われて」
中学に入ってからというのは、予想外だった。ジンはそれ以上聞いても良いものか? と思案するが、ヒメノはヒイロに視線を向けて苦笑した。
「お父さんは「大分昔、サンタクロースは既に逝去しているんだ。しかし子供の健やかな成長を祈り見守る為に、サンタクロースは遺言を残していたんだよ」って言ってました。ね、お兄ちゃん」
「あぁ、そうだね。「その志を継いだ大人達は世界中で署名運動をして、サンタクロースの遺志を受け継いだ非営利団体が発足したんだ」ってね」
「……ん?」
何か、話の方向性がおかしくなって来たぞ? そんな事を考えながら、ジンはヒメノとヒイロの様子を見守る。ヒイロは解らないが、ヒメノは本気でその話を信じているらしい。
「お父さん達は「子供を持つ親はほとんどそこに所属していて、サンタクロースの使命を引き継いでいるんだよ」って言ってました。だから、ほとんどの子供のサンタさんはお父さんやお母さんなんだって」
「「「「……んんん?」」」」
「うちの近所にある子供がいるお宅は、皆その非営利団体に所属しているそうです。だから中学校からはサンタクロースが親だと知っている友達ばかりになるので、私にも説明する事にしたって言っていました」
子供の夢を守るにしても、実に壮大な説明をしたものだ。ジンはそう思いヒイロに視線を向けると、彼は良い笑顔で微笑み返した。
――流石に俺は、もう気付いているけどね。ヒメは多分、親の説明を信じたままだ。
――マジで……!? 純粋が過ぎる……!!
星波夫妻、未だに娘の夢を守り続けているらしい。その事実に驚いているジンだったが、気付けば仲間達の視線が向けられていた。ヒメノとヒイロ以外のメンバーは、視線だけで告げていた。「このピュアっ子、どうするの?」と。
そんな事を(視線だけで)言われても……なんて思いつつ、ジンはどうこの場を収束させるか頭を悩ませた。 そして、考えに考えて出た言葉は……。
「じゃあ……僕と姫も将来、そのサンタ団体に所属しないとね?」
ヒメノが言われた言葉の意味を理解し、赤面するのはそれから数秒後の事だった。
改めてどうも、非営利団体サンタクロース所属、大和・J・カナタです。
今回のハイライトは、初音家のセキュリティレベルと星波夫妻の本気でしょうか。
この後サンタ代行業務がある方は、お互いに頑張りましょう!
皆様、どうぞ良いクリスマスを!!




