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余談 バレンタイン短編・二人の卒業

更新が滞っており、申し訳ありません。

今現在、合間合間を見付けて執筆に勤しんでおりますです、ハイ。


今回は気分転換も兼ねて、バレンタイン短編その1です。

忙しさのあまり細かい事は考えずに、思うままに描いた、反省している。だが後悔はしていない、公開はする。


それでは


【極糖警報】

 俺の名前は、古枝洋紀。二十四歳の社会人である俺は、普段は真っすぐ家に帰って、適当に晩飯を食べてAWOにログインする……そんな毎日を過ごしている。

 しかし今日……この二月十四日という、恋人達の為にある様なイベントの日。俺はある人物に会う為に、寒空の中を歩いていた。


『明日、仕事終わった後にちょっと会えない?』


 そんなRAINのメッセージが届いたのは、昨夜の事だった。相手は日頃から、VRでなら顔を合わせている女子大生……そう、同じ【遥かなる旅路】の幹部である、エルリアだ。

 バレンタインの日に? 会いたい? そんなの、もしかしなくてもアレしかないだろう。きっとエルは、俺にバレンタインチョコを渡す為に声を掛けてくれたのではないか。

 最近……第四回イベント以降、頻繁に接触して来る彼女の事を、俺はどうしていいのか解らずにいた。


 以前は、俺とアイツ……ルシアのやり取りを見て、笑っている大人しい妹分といった印象だった。俺の事を”タイチ兄”と呼び、頼ってくれる妹分。そんな風に思っていたのだ。

 しかし……あの騒動によって、ルシアが俺達を裏切っていた事を知った。その時、俺に発破を掛けてくれてから……エルはいつも、俺の傍に居て笑っていた。


 メッセージを送り合ったり、電話でやり取りをしたり……俺が実家に帰省中に、自撮り写真を送って来たりもしたっけか。そのお陰で、俺の両親はすっかり勘違いしちまったけど。

 AWOでのエルと、現実の彼女……出野都路子は見た目があまり変わらない。その事を知ったのは、その自撮り写真のお陰だったな。

 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ可愛いと思う。そう思ってしまって……俺は、ついに気付いてしまった。


 多分……いや、間違いなく。俺は、アイツの事が好きだ。


 あっちがどう思っているのか、解らない。だからその事に気付いてからも、俺は今まで通りに過ごしていた。そうしないと、不安で仕方が無かったから。

 そんな俺に気付いているのか、気付いていないのか。エルはいつも、俺と一緒に居てくれた。しかし、それでも俺の中にこびり付いた不安は拭えなかった。


 そんな事を考えていたからだろうか……俺は、昨夜悪夢を見た。


************************************************************


『そうやっていつも自分から動かないから、タイチ兄は駄目なんだよ』


『相手の気持ちが解らないと動けないの、タイチ?』


『タイチ兄がしっかりと気持ちを伝えていたら、ルシアさんはスパイじゃなく私達を選んだかもしれないよね』


『あの時タイチが私をもっと引き留めていてくれたら、何も壊れないで済んだかもしれないのに』


『『嘘吐き』』


 夢から目覚める直前、ルシアはスパイ達の方へと歩き去った。そして、エルは……俺の知らない誰かに向けて、頬を染めて微笑みながら歩き去っていった……俺を放置して。


************************************************************


 夢の中のエルとルシアに言われた言葉が、起きてからずっと頭から離れない。去っていったその背中が、脳裏に焼き付いて息苦しさすら感じる。

 こんな感情のまま、エルに会って……どんな顔をして良いのか、解らない。だというのに、俺はこうしてエルとの待ち合わせ場所に向かっている。

 俺はなんて……臆病者の、チキン野郎なんだろう。


 歩いている内に、空から雪が舞い落ちて来た。道理で冷え込む訳だと思いながら、待ち合わせの場所がもうすぐ見えて来る……と、その時。

 待ち合わせ場所の、公園。ベンチに座って、白い吐息を吐いている彼女の姿を見た。


 座っているベンチに置いているのは、パステルカラーの紙袋。今日が何月何日かを考えたら、それが一体何なのかを考え込むのはナンセンス過ぎる。

 そして何より……エルはその整った顔立ちで、楽しみだと言わんばかりに笑っていた。俺との待ち合わせで、笑っているのだ。


『相手の気持ちが解らないと動けないの、タイチ?』


 夢の中のルシアの言葉が、もう一度胸に刺さる。

 エルが俺の事を、どう思っているのか。それが解らなくて、現状維持を続けて来た。そもそもそれが、全て間違いだったのだろうか。

 思えばそれは、ルシアが傍に居た時も同じだった。ルシアが俺の事を、憎からず思ってくれている……それを感じていたのに、それが本当に異性に対する好意なのかが解らなくて。踏み込めなくて。不安で仕方が無くて。

 その結果、彼女は俺達と袂を別った。


 このままだと、もう一度繰り返すのではないか。同じような未来になってしまうのではないか。

 それは相手の気持ちが解らない不安よりも、より恐ろしい事だと思えた。それを一言で表すのならば……そう、恐怖だ。


 俺は意を決して、エルに向けて歩み寄る。そうしていると、エルも俺に気付いたらしい。

「お仕事、お疲れ様! ごめんね、疲れているのに呼び出して」

 こんな寒空の下で、待っていたというのに。エルは俺にそう言って、ベンチから腰を上げた。

「いや~この前RAINで話した時、私の家とタイチ兄の家が二駅しか離れてないって解ったからさ。それなら折角だし、こうして日頃の感謝をだね~」

 頬を赤く染めているのは、寒空の下で待っていたせいか? それとも……なんて、もう考えるのはやめだ。


 俺は思わず、エルに歩み寄ってその身体を抱き締める。冷たい感触がコートの上からでも伝わる様だったが、そんなのエルの方が寒かったに決まっているのでどうでも良い。

「待たせて悪い、寒かったろ……あと、ごめん。エルの顔見たら、こうしたくなった」

「タ、タイ……チ兄? その……えっと、あれ……?」

 普段は、この小悪魔さんめ! ってくらい、俺にグイグイ来るくせに。しかしそうか、意外な弱点だ。エルはするのは大丈夫でも、されるのには弱いんだろうな。

「嫌だったら、抵抗してくれ。ただ何つーか……俺の事を健気に待ってくれてるのを見て、俺の体温持ってっていいからあったまって欲しいと思っちまった」

「……ぐぅ」

 ぐぅの音って、本当に出るもんなんだな。


「これ、セクハラで訴えたら勝てるかな」

「勝訴待ったなしだろ……訴えるか?」

「……んな訳ないじゃん」

 そんな、いつも通りだけどいつもとは何かが違う軽口を叩き合う。でも、それは俺が罪悪感を抱かなくて済む様にという、エルの気遣いなんだと思う。

 その優しさに、甘えっぱなしじゃあ男が廃るだろ。


「俺さ……臆病者のチキン野郎なんだよな」

「? 何をいきなり。どうしたの、仕事で何か嫌な事でもあった?」

「すげー嫌な夢見た」

「……何だ、夢か」

 本気で心配して、損をした。そんなニュアンスの声色だった。でも、俺にとってはそうじゃない。


「ルシアと、お前の夢だった」

 俺がその名前を出して、エルの身体が強張った。ノンデリと思われただろうか……なんて、考えている場合じゃないな。

「あいつみたいに、お前も俺の前から去っていく夢でな……それが嫌で、怖くてな。んで、気付いたんだよ……俺は、相手の気持ちが解らないからって二の足を踏む、チキン野郎なんだって」

「……うん、それで?」

「ただ……エルがさ、夢の中のお前が俺から離れて行ったのが……凄く、苦しかった」

「だから、逃げない様に捕まえたの?」

「……いや」

 呆れた様なエルの言葉に、俺は明確にノーと返した。それだけで、こんなこっ恥ずかしい真似する訳がない。


「もう、チキン野郎は卒業したいんだ……お前が好きだから、抱き締めたかった」

 俺のその言葉に、エルの肩がピクリと跳ねた。それから、エルはしばらくそのまま……何も反応を見せないで、そのまま俺の腕の中に居た。

 もしかして、ダメだっただろうか? そんな不安が、また湧き上がって来る。


************************************************************


 今日は、まぁそれなりに期待を抱いていたけど……でも、そう上手くはいかないと思っていた。

 ただ、チョコを渡して「じゃあまたゲームで」と挨拶をして別れる。それかどこかで一緒にご飯でも食べて、それで同じように挨拶をしてバイバイ。その程度の結果になると思っていたんだ。

 ところが、どうした事だろう。


――出野都路子、完全勝利……!!


 長い……実に、長い戦いだった……!! とうとう、この時を迎える事が出来たんだ……!!

 というか、奥手なタイチ兄にしては大胆だと思ったよ。軽いハグなんてもんじゃないもんね、今の状態。

 それにしても「お前が好きだから、抱き締めたかった」って……かぁわいぃなぁもう、タイチ兄は!! ちゃんと気持ちを伝えつつ、自分の行動についてもしっかり言及。そして何より、奥手脱却ですよ、ねぇ奥さん!! 誰だ、奥さんって。


 しかし、しかしだ……うへ、うへへ……!!

 嬉し過ぎて、顔がにやける!! 頑張って、私の表情筋!!


「……ごめん、嫌だったか?」

 あっ、やっべ。タイチ兄が、告白の返事はノーか? って勘違いしてそう。くっ……本当に頑張れ、表情筋!! ダメだぁっ、緩むぅ!! くっ……それなら、作戦変更!!

「んな訳ないじゃん? 嬉しいもん」

 そう返して、私はタイチ兄の背中に腕を回し……ついでに更にタイチ兄の胸元に、おでこをくっ付ける!! どう、タイチ兄? これなら私が拒絶していないって、解るよね!?


「……そ、そっか……良かった」

「温かいし、嬉しいよ」

 これは本音だ。流石に雪が降るくらい、冷え込むとは思っていなかったから。タイチ兄が私を抱き締めた時、感じたのは……体温の温かさと、抱き締められた事に対する歓びだった。

「好きな人にこうして貰うのは、嬉しいよ。ずっとこのままでいても良いって、思うくらい」

「ん~……このままは、流石になぁ。っつか、寒いだろ。とりあえず移動を……」

 と、タイチ兄が口にした瞬間だった。雪が勢いを増し、風も更に強まって来たのだ。


「うわっ!? おいおい、マジかよ!?」

「きゃっ……今日って一日快晴の予報じゃなかったっけ!?」

 徐々に風雪が、その勢いを上げていく。これは正直、まずいですよ奥さん。だから奥さんって誰だ。

「と、とりあえず、早く移動するぞ!!」

「うん……って、ちょっと待った!!」

 私はタイチ兄の身体から距離を取り、ベンチの上に置いていたモノに手を伸ばす。

「私渾身の、本命チョコが……っ!!」

「……お、おう」

 しっかりとチョコの入った紙袋を手にして、私はタイチ兄の元へと駆け寄った。


************************************************************


 そうして私達は、タイチ兄の家へと辿り着く事に成功。その頃には、既に外は猛吹雪になってしまっていた。

「……これのどこが、一日中快晴だよ……」

「本当にね……うぁ~、手袋していたっていうのに、それでも手が悴んでるよ……」

 タイチ兄の部屋に辿り着いたは良いが、仕事帰りの部屋が暖かいはずもない。だって暖房は切ってあるんだから、それは当然だ。

「と、とりあえず暖を取ろう……マジで、凍死しかねない」

 雪まみれの上着を脱いで、スーツの雪を簡単に払ったタイチ兄。そのまま靴を脱いで玄関に上がると、来客用だろうスリッパを出して私が履きやすい様に置いてくれる。

「狭いとこだけど、どうぞ。とりあえず暖房付けて、部屋を暖めるから上がってけ」

「ん、お邪魔します」

 お言葉に甘えて、タイチ兄の部屋に上がらせて貰う。ふーん、ほぉ~? 中々良い部屋に住んでいる。


「すぐには部屋も暖まらないだろうし……服も雪まみれだろうし、シャ……シャワー、使って良いから……」

 視線を逸らしつつ、タイチ兄は私にシャワーを勧めた。これは恐らく、タイチ兄の気遣いなのは間違いない。しかしシャワーを勧めるのは、下心アリアリに聞こえるのではないか? と思って言い淀んだんじゃないかな。

 可愛いなぁ、タイチ兄。でも、そうするとタイチ兄は凍えたまんまになるんだよね。それはちょっと、見過ごせないなぁ。


「良いの? 本当に?」

「あぁ、エルが風邪をひいたら、申し訳ないし……」

「……ね、私さっき言ったよね。好きな人にして貰うのはって」

 私の言葉を聞いて、タイチ兄の頬が赤らむ。私も多分、顔が赤くなっているんじゃないかな。

「好きだよ」

 もう一度、ハッキリと伝えておく。妹分は卒業するんだって、させて欲しいって意思表明だ。

「あ、ありがとう……俺も、エルが好きだ」

「ふふ……ねぇ、”都路子”でも”みっちゃん”でも”みー”でも、好きに呼んで良いよ」

「お、おう……?」

 二人共、猛吹雪で全身凍えて仕方が無いんだ。だったら、どっちが先なんて言ってる場合じゃないよね?

「もう、私は彼女な訳だよね?」

「……!! あ、あぁ。俺も、彼氏で良いんだな?」

 むふ、顔真っ赤。本当にタイチ兄は……洋紀兄は、格好良いくせに可愛い所があるんだから。

 勿論こんなこと言えば、どんな事になるかなんて覚悟してるけどさ……でも、やっと念願叶って両想いになれたんだから。もう、大好きって気持ちがが止められない。


「そうだよ。だったら二人で……一緒に入っても、良いんじゃない? ね、”ヒロ君”?」

タイ×エルには、可能性を感じる。


本編執筆も、ゆっくりではありますが進めております。

引き続き、お付き合いの程宜しくお願い致します。


P.S.

この人達のバレンタインのお話が見たい等がありましたら、リクエストとして受付させて頂きます。

(ちょっとお時間頂きますが)

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