余談 その後の【竜の牙】
ギルド【ラピュセル】が、クラン【十人十色】に加入したその日の事。
【竜の牙】の面々がギルドホームに帰還し、リンドはソウリュウをギルドマスターの部屋(という名の、リンドのマイルーム)へ呼び出した。
「ソウリュウ、イザベル嬢の写真の削除をここで行って貰う。それと、自分のPCや携帯端末に写真はあるのか? あるのなら、それも削除しなくてはならない」
リンドにそう言われては、ソウリュウも従わざるを得ない。彼にとっての切り札だった、イザベルの写真……それを公開してしまったら、自分が犯人だと即座に解ってしまうのだ。
――なら要らねぇよ、こんな女の写真なんかよ!!
「解りました、削除します……携帯端末には無いですけど、PCには残ってると思います。それも、必ず削除します」
そう言ったソウリュウはシステム・ウィンドウを開いて、可視化設定に切り替える。そうして表示された写真の一覧……それを見て、ソウリュウは気付いた。
そう……イザベルの写真の隣には、自分が作ったコラ画像があるのだ。
――や、やべぇ……!! は、早く……早く消さないと……!!
そう思ってすぐにコラ画像を削除しようとしたソウリュウは、操作を誤って画像を拡大させてしまった。しかも、丁度リンドがソウリュウの横に立ったタイミングで。
「やっば……!!」
「……ソウリュウ、これは一体何だ? グラビアか何かの写真か?」
イザベルの本物の写真をまだ見ていないので、リンド・バッハ・フレズはこれがイザベルのコラ写真だと気付いていない。ソウリュウはホッとした心持ちだったが、呆れた様なリンドの発言で再び危機感を覚える。
「まぁ良い、個人の趣味だ。俺もお前くらいの年頃には、グラビアなんかも見た覚えがある。それはそれとして、イザベル嬢の写真だ」
「……あ」
そう、コラ画像が先に見られただけだ。逆に本物の写真を見せてしまったら、これがコラ画像だと解ってしまうのだ。
「あ、あ……その……」
「ソウリュウ、どうした……顔色が悪いぞ」
「い、いえ……えーと、その……」
しどろもどろになりながら、ソウリュウはこの場を逃れようとする。しかしリンド達がそれを許すはずも無く……。
……
結局、ソウリュウが本物のイザベルの写真を表示するまでに、三十分もの時間を消費した。しかしそれで終わりでは無い……彼は、イザベルの写真を使ってコラ画像を作っていたのだから。リンド達はそんな事をした理由について、しっかりと問い質さなければならなかった。
「何故あんな画像を作ったのか、お前の口から説明しろと言っている。ソウリュウ、答えろ」
普段の気さくなリーダーとしての喋り方と異なり、今のリンドの口調は非常に厳しいものになっていた。ソウリュウの両脇に立つバッハとフレズも、厳しい視線を向けて来る。
「あ、あの……いえ……あれは、その……」
ずっとこの調子で、何も明確な理由など口にしていないソウリュウ。リンド達も根気良く付き合い、彼からの説明を待っている。アナスタシアに向けて言った「責任をもって」という言葉は、嘘ではなかったらしい。
ギルドの為に、イザベルを脅していう事を聞かせるつもりだった。それを馬鹿正直に口に出してしまったら……間違いなく、リンド達は自分を見限るだろう。
彼等は実力でトップに立つと考えており、姑息な手段を嫌う。利用できる物は利用するが、卑怯な真似はしないスタンスだ……一応。だから【ラピュセル】にも直接交渉をしていたし、【七色の橋】にも真正面からクラン加入を申し出た。
それを理解していながら、イザベルを脅迫するという行為を行ったのがソウリュウ……本名【葉鴨 大之】だ。リンド達にバレなければ、何という事は無い……それが楽観的で浅慮な考えだったと痛感しているが、もう遅い。
そこでソウリュウは、ある考えに至った。脅迫の為でなければ、まだ助かるかもしれない。ただし……それは自分のプライドを、激しく傷付ける手段だ。
これまで築き上げてきた立場と、自分のプライド……それを天秤にかけたソウリュウ。彼が選んだのは……。
「こ、この……写真は、その……イ、イザベルが……す、好きだったから……」
プライドを捨てて、保身に走る事だった。
その返答に、リンド達は呆れ返った。彼等はこれまで、ソウリュウは理性的で思慮深いメンバーだと思ってた。だが、今回の一件で見せた彼の素顔は……実に幼稚なものだった。
好きな女性の写真を加工して、グラビア写真を作る。
それ程好きなのに、振られた途端に「お前なんか好きじゃない」などと言い出す。
そもそも彼女に振られたのは、ろくに連絡も取っていなかったからだ。
これでは振られたのも、当然ではないか? リンド達はそう考えた。実際の所は、もっと最低なのだが……彼等はソウリュウの言い訳に、納得してしまっていた。
「……その加工写真は、どこにも流出させていないな?」
「は、はい……誓って、そんな事にはなっていません。元の写真も、です……」
リアル写真だけでなく、加工写真まであったとは思わなかった。それが流出していないのは、本気で不幸中の幸いであった。
「とにかく、写真は削除する。これは決定事項だ」
「……はい、従います」
そうして、リンド達の監視の下で行われる写真の削除。PCに保存されているデータの削除はこの後、現実で連絡を取り合って行うことになる。
それらの全ての処理が終わったのは、二十二時を越えた頃だった。リンド達はもう一度AWOにログインしたが、ソウリュウはそのまま今日はログインしなかった。
そのままドロップアウトさせる事も、考えておりました。
ですがこのまま無様に生き恥を晒し続けて、プライドをズタズタにされるのが、ソウリュウには似合っているんじゃないかと思った次第。




