余談 その後の【暗黒の使徒】
始まりの町[バース]で繰り広げられた、トッププレイヤー達と【暗黒の使徒】による衝突から一夜が明けた。
既に掲示板では【暗黒の使徒】の惨敗が拡散され、これまで積み上げて来た”マトモな部類のPKギルド”という印象は塗り替えられていた。評判は地に落ち、【暗黒の使徒】を酷評する声が殆どとなっている。
そして外部だけではなく、内部でも変化が起きていた。
「ギルドを……抜けるだと」
そう言って、ジロリと脱退を申し出たメンバーを睨むのはギルドマスターのダリルだ。その形相は怒りに満ちており、今すぐにでも掴み掛かるのではないかとすら思わせる。
しかし、脱退を申し出たメンバー達は怯まなかった。そう、メンバー達だ。脱退を決意したのは一人や二人ではない……その数、十三人である。
「今のまま、リア充に怒りをぶつけていても得るものは何も無い……今更だが、それに気付いたんだ」
一人がそう言うと、残る面々も頷いている。
「それに決闘に負けたのもそうだが……あんな大学生くらいの女の子に、涙ながらに説教されたんだ」
「あぁ……リア充爆発だなんだと言っていた、自分が恥ずかしい」
「俺達は足を洗う。もう、決めたんだ」
そんな彼等の言葉を聞いて、ダリルだけではなくビスマルク達も声を荒げる。
「正気か、お前達! お前達のリア充に対する怒りは、その程度のものだったのか!」
「第一、ギルドを抜けてもアンタ達がやって来た事は変わらないわよ!」
「転生でもする気か!? これまでの時間を全て、ドブに捨てる事になるぞ!」
凄んで翻意を促す面々だが、脱退希望者達の意思は変わらない。
「俺達は目が覚めたんだ!! こんな無意味な事、もうやってられん!!」
「リア充に対する怒り? ミモリさんの言う通り、ただの八つ当たりだろうが!!」
「後ろ指さされようが、このギルドに居るよりマシだぜ!!」
「ドブに捨ててんのはむしろ、今までの事だろうが!!」
更に様子を窺っていた他のメンバーの中から、一人が脱退者達の方へと歩み寄った。
「お前等の、言う通りだな……こんな事続けていても、ただ虚しいだけだ! 俺も、一緒にギルドを抜ける!!」
一人のメンバーがそう言うと、その流れに乗ろうと更に一人、二人と声を上げていく。その数はダリル達を上回り、勢いを増していった。
「ぐ……ぬぅ……っ!!」
歯軋りをしながら顔を醜く歪めるダリルだが、彼等を引き留める手段が思い付かない。
ミモリに否定され、ジン達に敗北し、鬱憤が溜まっていたところにこれだ。何もかも上手くいかず、苛立ちはついに限界を超えた。
「貴様等の様な半端者、このギルドには不要だ!! 出て行きたいならば好きにするが良いッ!!」
怒鳴り散らしながら、ギルドマスター用のシステム・ウィンドウを開いたダリル。そのままギルド加入・脱退のタブ設定を、『要承認』から『自由』に変更してしまった。
ダリルの発言に怒りを感じつつ、脱退希望者達はこれ幸いとギルド脱退の手続きを進めていく。
「……じゃあな」
脱退したプレイヤー達は一言残すか、無言のままホームを出て行く。そうして次々とメンバーが脱退していき、気が付けば……
「な、なん……だと……!?」
……残ったギルドメンバーは、ダリルを除いて二十八人。たったの数分で、半分以下になってしまったのだった。




