青少年初恋感想文全国コンクール
文部科学大臣賞
第46回中学校の部 奨励賞
「甘酸っぱいとは決して言えない僕の初恋」
石川県立一ノ沢中学校 2年 金原和希
甘酸っぱい初恋という言葉は、少なくとも僕には当てはまらない。
中学二年生の夏、結果的に結ばれることのなかった初恋を終えた今、僕は心からそう思う。そして、この初恋から学んだことは、世の中には自分の力ではどうしようもないこと、そしてそれから、自分の小さな胸の中には色とりどりの感情が今も息を潜めているということだ。
僕がA子ちゃんと初めて会話をしたのは、隣のクラスと合同で行われた体育の授業だった。A子ちゃんは当時、僕の親友であるB君の彼女でもあった。だから、僕たちはB君を通じてお互いのことを知っており、その時も、僕とA子ちゃんはすぐに打ち解けあうことができたことを覚えている。
それから僕、A子ちゃん、B君の三人で遊ぶ機会が増え、僕は少しずつA子ちゃんのことが気になっていった。おそらくこの時の僕には女の子の友達自体が皆無だったため、身近にいる異性として、A子ちゃんはかなり魅力的に見えていたのだと思われる。
そして、僕がA子ちゃんのことを意識し始めた決定的な出来事がある。それはいつものように三人で近所のゲームセンターで遊んでいた時のことだった。三人でゲームをしていた時、B君がうっかりA子ちゃんのことをC子という名前で呼んでしまったのだ。C子というのは僕とB君がいるクラスメイトの名前だ。B君は整った顔立ちをしており、かなりモテる。そして、C子ちゃんは、B君のことが好きな女子の一人であり、A子ちゃんはその事実を知っていた。
勘のいいA子ちゃんが問いただすと、B君は一週間前にC子ちゃんと二人きりで遊びにいったことを白状した。A子ちゃんは当然怒り、その場で大喧嘩になってしまった。そのまま怒り心頭のまま帰ろうとしたA子ちゃんを僕は追いかけ、公園のベンチに座ってとりあえず落ち着こうと僕は提案した。
ベンチに座ってしばらく経つと、さっきまで怒っていたA子ちゃんはわっと泣き出した。僕が泣いているA子ちゃんを必死に慰めていると、A子ちゃんは本当はB君と別れたいという本音を聞かせてくれた。A子ちゃんの話では、今まで何度もB君には別れたいと言っているけど、B君がまだA子ちゃんのことが好きで、別れさせてくれなかったらしい。
そして、それからA子ちゃんは黙り込み、僕の方をちらっと見た後で、本当は別に好きな人がいるんだと呟いた。A子ちゃんのことを意識し始めていた僕は愚かにも、A子ちゃんは本当はB君じゃなくて僕のことが好きなんだと勘違いをしてしまった。僕はA子ちゃんの手を強く握りしめ、いつでも僕はA子ちゃんの味方だと伝えると、A子ちゃんは僕の言葉にありがとうと言って泣いてくれた。初めて握ったA子ちゃんの手はとても小さく、強く握りしめたら潰れてしまいそうなほど、柔らかかった。
そして、その数週間後。僕はA子ちゃんから、A子ちゃんが本当に好きなのは、僕ではなく、大学生の家庭教師なんだと伝えられた。
僕たちが初めて会話を交わした時と同じ体育の授業。先生には見えない体育館の端っこで、A子ちゃんはどれだけ家庭教師の先生が素敵なのかを話し、そしてそれから、二人っきりの時にはどんな風にいちゃついているのかまで教えてくれた。心がハサミでズタズタに引き裂かれるような気持ちになりながらも、奥歯をぐっと噛み締めながら平気な風を装って聞き続けることしかできなかった。
先生のことが好きすぎて頭がおかしくなりそう。
A子ちゃんが泣きそうな表情でそんな言葉を言ったのが、とても印象的だった。
そして、その二ヶ月後。家庭教師との恋愛関係がバレ、両親から猛反対A子ちゃんは、その家庭教師と駆け落ち同然に家を飛び出したらしい。三日ほど行方不明になった後で家には引き戻されたとのことだが、噂が広まった学校にはA子ちゃんは来なくなり、違う学校へと転校してしまった。こうして僕の初恋は、さよならも、好きも言えないまま終わったのだった。
どうして人は恋をし、そして恋ゆえに悩み苦しむのだろう。僕はこの初恋を経験し、そんなことを思った。好きすぎて頭がおかしくなりそう。A子ちゃんの言葉を僕はあれから考え続けた。どうして自分が自分でなくなる不安と闘いながらも、その人を思い続けてしまうのか。報われない恋であっても、どうして止めることができないのか。初恋を終えたばかりの僕にとって、これは僕の人生における大きなテーマになったように思う。
これから歩んでいく人生においてあとどれだけ人を好きになれるのかはわからない。それでも、この初恋で得た甘酸っぱいとは決して言えない経験を糧に、誰かと素敵な恋をできたらと心から思う。そのためにも人との出会いを大事にし、自分の好きと言う気持ちには正直になろう。僕は強くそう決意するのだった。
とりあえずはその一歩として、僕の兄の彼女であるC子さんへ自分の好きと言う気持ちを伝えようと思う。