ルトルヴェなその後 〜オ・ニ・ヴァ ルート~
リーゼは最初からこういうキャラのつもりで考えてました。
風が誰かに呼ばれている。
風がその声の方に行きたいみたいで、そわそわしている。
私は風の行きたいように行かせてあげる。
少しずつ、私の視界は空の青から、黄色や朱などのあたたかな木々の色に変わっていった。
「お。きたきた。待ってたよ」
やっぱりというか、なんというか。
私を出迎えてくれたのはリーゼだった。
リーゼは、私の格好を見て口笛を鳴らした。
「あー、風装束じゃん。
なるほどね。よりによって風試しの日に、風に乗っかって村を脱走してきたわけかー。
さっすがブリーズ、やることが派手だなー」
「べ、別に脱走したわけじゃ……!」
説明しようとする私の話を聞かず、久しぶりに見るリーゼは満足そうに目を細めた。
「ふっふっふ。と、いうことは風人気は完全に村よりもこっちに武があるわけだ。
ならば今こそ復讐のとき!! この私を追放なんてした報いを受けてもらおうじゃないの!! 風の裁きを食らわせてやるわ!!」
リーゼのテンションに合わせて、リーゼのまわりを風がゴォーっという音を立てて巻き上がる。
リーゼの髪がまさに、怒髪天を衝く的な状態になっている。
「ちょっとリーゼ! 復讐ってなにいってんの! 落ちついて!」
私を応援する風が、真上に逆立っているリーゼの髪を優しく包み込んで、そっとおろす。
「風ツッコミするなんて……やるわねブリーズ。
そしてなんてマイルドなツッコミなの……。優しさがしみるわ……。
あなたのその力、私の復讐のために貸してちょうだい?
追放といえばざまあ。つまりやられたらやり返す……ぶぁい返しだ!」
「どこ見てキメ顔してんのリーゼ。
……本当は別に追放されたこと、なんとも思ってないんでしょ?」
私の言葉にリーゼは、舌をちょろりと出して笑った。
「あ。やっぱり分かっちゃった?
だってさー、村に残ってたら絶対に長にされんじゃん?
やだよー。あんな閉鎖空間にずっと死ぬまで縛られて暮らすのなんてさー」
私の頭の中に、恐ろしい可能性が浮かんでしまった。
「まさか……自作自演……?」
リーゼは私の言葉に、ぷっと吹き出すと首を横に振った。
「そこまで器用じゃないよ。偶然偶然。
まあ、ラッキーとは……思ったけどね」
「ひどい! すっごい心配したんだから!」
けっこう本気で怒っている私に、リーゼは優しく笑いかける。
「私もブリーズが心配だったよ?
でもさ、ブリーズが風と話してる声、聞こえたから。
風が仲間を迎える歌も。
ああ、こりゃもうすぐここに来るなって思ってさ」
すごい……。
ここは村からかなり離れてるのに、リーゼには聴こえてたんだ。
私の声も。風の歌も。
私が探しに来るって分かって、待っててくれたんだ……。
胸がじんと熱くなり、私は涙が出そうになった。
「ふっふっふ。村の過激派のナンバー1とナンバー2がここにそろってしまった以上、もはや村の運命は決まったようなものよ!
さあ! 今こそ復讐の……!」
「だから! 復讐はしないってば! 過激派扱いで浮いてたのはリーゼだけ! 私を一緒にしないで」
出そうになってた私の涙はすぐに引っ込んだ。
「またまた奥さん、そんなこと言っちゃって。
奥さんだって実は影でいろいろ言われてたんですぜ?」
「リーゼ……それ誰のマネ……?」
「どっちにしろ村に戻る選択肢は私にはないよ。長にはなりたくないからね。
ブリーズはどうする? 帰ればたぶん、ブリーズが長決定だと思うけど」
リーゼがいない村に帰るのは、考えられなかった。
自分が長になることも。
せっかく会えたリーゼと離ればなれになることも。
「……リーゼに、ついてく」
リーゼは私の答えが最初からわかってたみたいに、満足そうに微笑む。
ずるいなあ……。
私の考えてることなんて、いつもリーゼはお見通しなんだから……。
「そ~こなくっちゃ! じゃあさっそく都にでも行ってみようか! 村の服って、すっごいダサいじゃん? どんだけ大昔のデザインよ? って感じ?
オシャレな服、いっぱい買おうよ! え? お金? そんなの風にお願いして、見栄えのする技を披露すれば簡単に稼げるって!」
どこまでも自信満々で我が道を行くリーゼ。
私を連れてきてくれた風も、リーゼに会えてテンションが高くなっている。
さっきからあたりをびゅんびゅん飛びまわって、木の葉をまき散らしていた。
リーゼといると私は強くなれる。風もきっとそうなんだ。
「都はいいよー、いい男もたくさんいるし、女の子はみんなかわいいし、食べ物もおいしい。
やっぱ若いうちは都会で過ごしてみないとね!」
同い年のはずのリーゼは、なぜなのか発言が妙に年寄りくさい。
「リーゼって、もう都は見てきたの?」
さっそく都にむけて歩きだそうとするリーゼの背中を追いかけながら、私は声をかけた。
「うんにゃ。ブリーズと一緒に行った方が楽しいと思って待ってたよ」
当たり前のように言いきってくれる。
私がここに来るって、信じてたって……そう言ってくれていた。
嬉しくてまた泣きそうになった。
泣くとリーゼに絶対笑われるから、何か話をしてごまかさなくちゃ。
「リーゼってさ、いつもそういう情報ってどこから仕入れてくるの?」
ずっと疑問に思っていたことを、私はリーゼにたずねてみた。
リーゼは、私の方をくるりと振り返り、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「そんなの決まってるじゃん。風のうわさ、だよ」
風が元気に私たちのまわりを踊っている。
風たちの笑い声が、私には聞こえた。
オニヴァの意味は……どうしましょうか。
今回は言っちゃいましょうか?
答えは……Let's Go! です。