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8 帝国の王者

帝国との国境線について、明らかに外の自然環境が変わった。

風は冷たいし、なんとなく鋭い。

それに窓から見える景色は一変しているし、なんだかとても厳しい環境のようにも見える。

だから暖かなおれの故郷は、彼等にとって楽な場所だったのだろうか。

そんな事を思っていると、伝令が皇帝の命令を伝えに来たらしい。

将軍は馬に乗っていたけれども、休憩をとった時に、おれの寝ている馬車の中に入ってきた。


「皇帝が、先にあんたと話がしたいらしいな」


「わかった」


「わかったって、あんたまだ本調子じゃないだろう」


起き上がったおれは、呆れて言う。


「捕虜の健康状態をいちいち気にして、皇帝が動くと思ってんのか」


「あんた意外とそう言った事情には詳しいんだな、そうだな、皇帝は国境善の近くの直轄領に来ている。そこの城で対面だ」


「……その時、せめて髪の毛にくしくらいは入れさせてくれよ」


「女の身支度を、最低限はすませてやるとも」


身代わりになって何日も経ったが、どうやら将軍はまったく、おれの正体に気付かない様子だ。

聖姫の情報が、それだけこの軍に広まっていなかったという事だ。

見た目の情報は入っていただろう。でも見た目だけの情報ならば、今のおれなら誤魔化せる。

まあそれ位、姉上とおれはそっくりだし、女になったからもう、区別なんてつかないくらいのはずだ。

まあ姉上の瞳の方が、ちょっと青っぽいかもしれないけれども。

そんな風に数日進み、おれは帝国の直轄領に到着した。

その頃には熱も下がり、かろうじて食事もまともな物を受け付けるようになり、座っていられるようにはなっていた。

意外だったのは将軍が、何かにつけておれの所に戻ってきて、不便はないか、大丈夫か、と聞いてくる事だった。

それ聞くの、と思った物の、おれは笑えなかったから、頷く程度にしていた。

聖姫を連れて来るのに、小間使いになる気の利いた女性も、子供もいない軍だった。

でもきっとおれの扱いは、不慣れだったに違いなかったけれども、精一杯気遣われていた事くらいは、馬鹿なおれでもわかっていた。

それだけ、聖姫を重んじていたのだ。

これだけ重んじてもらえるんだったら、姉上が捕まっていても、問題は発生しなかったかもしれない。

姉上にはかしずく侍女たちもいたわけだし、命からがら逃がしてくれる、忠誠心の溢れる兵士もいたのだから、おれより気の利いた事をしてもらえたはずだった。

あれ、もしかしたら、姉上は捕まった方が、ましだった……?

そんな事を考えつつ、城に到着すると一層にぎやかになって、おれは馬車から出て、一つの部屋をあてがわれた。

その部屋の前には女性の使用人が何人も待っていて、おれはそこで、丸洗いをされた。

一週間ほどの従軍の結果、おれは風呂なんて入れなかったから、結構臭ったのだ。

綺麗に磨かれて、香水まで炊かれて、おれは一度も扱われた事のない扱いだったけれども、姉上は慣れていたはず、と意識して、平気なふりをした。

そして鏡に映った自分は、姉上にしか見えなくて、これなら見た目だけだったら誤魔化せるな、とちょっと安心した。

まともなドレス、まともな化粧、まともな髪型。

軍の中にいた時にはありつけなかった待遇になったあと、俺は皇帝に呼び出された。

なんとかよろめかずに歩いて、皇帝の待っている広間につくと、そこには予想を外す形で皇帝が一人、椅子に座って待っていた。

ただし、特に忠義の者であろう、文官が一人だけ、皇帝の側に控えている。

他に誰もいないのが、意外だった。


「噂にたがわぬ美しさだな、いやそれ以上か。聖姫らしい事だ」


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