7 武人の交換条件
「なあ、あんたが無抵抗で帝国の城まできて、姫君に謝罪したら、捕虜を解放するって言ったらどうする」
「!」
俺は目を見開いた。見開いた眼の先に寝転がっている将軍の表情は、暗くて読めない。
「王女殿下は、謝罪を求めたのに、事実を言って何が悪い、という馬鹿のせいでひどく傷ついている。そこであんただ。国の柱の一つともいえる聖姫が、正式に謝罪するとなったら、あんたの国もとんでもない事をした、と気付くだろう。だからこう言う提案をしてるんだ」
たしかに。
本物の聖姫が、たかだか一介の王女に謝罪したら、その謝罪は重く扱われるだろう。
身代わりが謝罪したら、それはどうなるのだろう。
彼等はおれが本物だと思っているけれども、本物じゃない事は、おれが一番よく知っているのだ。
迷いは一瞬だった。だっておれが謝って、捕虜の人たちを救えるんだったら、謝罪なんていくらでもしよう。
民の命を何よりも大事にしろ、とおれは教えて育てられたのだから。
「…………」
でも知っているか、あんたが聖姫だと思っているおれは、元男で、当然聖姫じゃなんかなくって、謝ってもそんなにうちの国は衝撃を受けない相手なんだぞ。
そう言いたい気持ちがあったけれども、おれが謝るだけで捕虜が解放されるんだったら、いい。
先に逃げてもらって、おれは全てが露見した時に、首を差し出して終わろう。
「レイヴン、怖いの、助けて!」
姉上の泣き顔が頭に浮かぶ。おれが守らなきゃいけない大切な、たった一人の姉上だ。
聖姫としてではなくて、おれの姉ちゃんとして泣いていた姉上を守れるんだったら、おれはそれ位安いものなのだから。
自分の命より姉上なのかよ、と思われるかもしれないが、姉上が聖姫だったから、聖姫としての力に目覚めたから、おれは聖姫を汚すわけにはいかないという理由で、誰からも表立っては狙われずに育つ事が出来たのだ。
つまり姉上は、一生勝てない命の恩人なのだ。
その恩人のためだから、おれは命をなげうつ真似ができたのだ。
……男としてのおれは終わってしまったし、魔女の薬の解毒薬は存在しない。
だからこれは俺の最善の策になった。裸になっても偽物だって言われないわけだしな。
まあ、聖なる力を使えと言われてはじめて、おれは偽物だと明らかにされるのだろう。
それまでにどうか、姉上よ、味方と合流してくれ。
「おれが、謝ればいいのか」
「あんたが謝れば解決するだろうさ、その後の事は、王宮の文官だのなんだのが考えるだろうよ」
「おれの処分もか」
「あんた本当に十四の餓鬼か……? 達観しすぎてやしないか?」
「そんな物だろ」
俺がそう言うと、そうだろうか、と悩んだ物の、将軍は寝る事に集中する事にした様子だった。
その後寝息が聞こえてきたけれども、この寝息も、おれが逃げ出そうと身じろぎをした瞬間に跳ね起きるのだろう、とわかっているからおれは、大人しくしていた。
熱が辛かったし。