5 瓜二つの双子
温かい天幕の中、おれは手当てを受けている。と言っても、熱病でも何でもない。魔女の薬が、おれをおれじゃないものに変化させているための熱だから、手の施しようがないはずだ。
でも、温かい布をかけられて、額に塗れた手ぬぐいを当てられるのは間違いなく、手当だった。
将軍は城を攻め落とすとすぐに、おれを連れて帝国に戻らなくちゃいけなかったらしい。
聖姫を、帝国の皇帝が待ち構えているのだとか。
きっとその時に、何かしらのぼろが出て、偽物だと気付かれて、首でも落とされてしまうのだろう。
でもそれまでは時間稼ぎができる。
なんて言ったっておれと姉上の見た目は、男女の性差がなければ全く同じと言ってもいい見た目。
栗色の髪の毛に、透き通るような緑の瞳、異国の踊り子だった母に似た少しだけ色のついた真っ白な肌。十二を過ぎるまでは背丈もほぼ一緒だったから、入れ替わりなんて事はよくやったのだ。
よくそれで遊んだっけなあ。懐かしい。
命を捨てる覚悟が出来ているおれは、ここで大騒ぎしても何にもならないし、逃げだそうとしても体の消耗が激しいからできないと知っているし、まあ簡単に言えば自分の状態がよく分かっているというだけの話だ。
「よっくらせ」
天幕の中の寝床に寝ているおれの脇に、あの男、将軍が座る。
そして手袋を外してから、おれの額に手をあてがって、満足そうにうなずいた。
この男は、不思議な事に日に何度もこの天幕に足を運び、おれの容態を確認するのだ。
そこが不思議だ。
帝国はうちの国に対しての感情は最悪のはず。
聖姫をよこせと言って来たのも、その悪感情の結果のはずなのに、おれを気遣う手のひらは、温かく優しいものがあった。
……もしかして、見捨てられた聖姫を、この男くらいは、哀れんでくれているのだろうか。
それもあり得ない話じゃない。
哀れまれているから、こうして手当てを受けているのかもしれなかった。
「熱もかなり下がったな、一時はそのまま死ぬんじゃないかと思う熱だったが」
おれはそれに答えない。答えなくても、彼は勝手に喋るのだから問題ない。
「にしてもおめえさん、何にも喋らねえのは、熱で苦しいからかい」
話す事が何もない、という事は考え付かないのだろうか。
俺は少し呆れた物の、黙っていた。
この男、意外と優しいのだ。
きっと女子供には優しいというだけなのだろう。
憐れな見捨てられた、敵国の王女らしき相手にも優しいのだ、きっと女子供には誰にでも優しいに違いなかった。
「何にも言われないと、どうすりゃいいのかわかりゃしねえぞ?」
彼が仮面の奥から覗きこんでくる。おれはそうなっても、寝台に寝転がったまま答えない。
「今日は進まないが、明日にはここをたって帝国に入るぞ。ゆっくり休めよ」
将軍がそう言い、おれは視線をそらした。
寝たきりの状態で、従軍についていくのは大変だ、歩くのも大変だし、馬に乗せられるのも、馬車に乗せられるのもなかなか苦しいものがある。
この熱が下がったら、おれは本物の女になるのに、苦しさのあまり、早く終わってくれないかと思ってしまう。
将軍はそのまま、おれの脇に敷かれている寝袋に、剣を脇に置いた状態で寝転がり、そのままぐうぐうと寝てしまう。
外の時間はよくわからない物の、きっと夜なんだろう。
静かさから勝手にそう判断して、おれはまた目を閉じる。