4 帝国の武人
「驚いた、聖なる姫と言いながら、仕えている人間皆に逃げられちまうとはなあ」
頭の上から声が響く。うるさい。頭が痛いんだ、黙ってくれ。
「噂に聞く、聖なる姫の力もいま一つってわけかい。求心力は足りねえな」
頭上から降り注ぐ声や、足音、部屋を物色する音がいくつか耳に入って来る。
だから静かにしていてくれ、俺は頭が痛いんだ。
体も痛くてたまらないんだ、だからそんな騒いだりするんじゃねえよ。
おれがぎりぎりの所で目を開けると、おれは寝台の脇に座り込んでいる状態から、床に倒れ込んでいて、そのおれの前に膝をつく、一人の男の姿が目に入った。
白い上半分の仮面をつけた男は、口元を黒い布で覆っていた。暑そうだな、となんとなく思った。
「……って、酷い熱じゃねえか、こんな熱を出している人間を放って逃げ出すなんて、神国も程度が知れてるなあ」
俺が抵抗できないのをいい事に、男がおれの額に手を当てて、その熱さに文句を言う。
そうだよ、使い物にならないんだ、だから放っておいてくれ。
そう思ったのに、その男はこの体を軽々と抱えて、こう言った。
「聖なる姫は見つかった、引くぞお前たち。あんまり乱暴な振る舞いはするなよ」
「はい、将軍!」
兵士たちが頷く。この仮面野郎は将軍なのか、と思って、おれはまた目を閉じた。
「ひどい熱だ、こんなのよっぽどの熱病じゃないとあり得ないぜ」
おれを抱えた将軍が呟く。
魔女の薬の効果だからな、よっぽどな熱病ですらねえよ。
それを飲んだ事は秘密だから、おれは黙っておく事しかできなかった。