3 望みが敵う魔女の薬
「そう、たった一度だけ、願いが叶う魔女の薬。何とか、兄上たちに許可をもらって、霊廟の地下深く、封印されていた禁じられた棚からとってきたんだ」
おれは小瓶に入った魔女の薬を振る。姉上が、おれが何をたくらんでいるのか察したのだろう。目を見開き、だめよ、という。
「駄目よレイヴン、あなたも逃げなくちゃ!」
「でも姉上、姉上を逃がすには、こうしなくちゃいけないんだ!」
俺が強い声で言ったから、姉上は目を見開き、その時離宮の隠し通路が開いたのだろう。侍女たちが彼女を引っ張った。
「姫君、逃げましょう、弟君の気持ちを無駄にしてはいけません!」
「でも、でも!」
「どうか我々の言葉をお聞きください! あなたさまがいなければならないのです!」
姉上が抵抗するものの、侍女たちの力にはかなわず、連れて行かれる。
「あなたも、姉上をお願いいたします」
「レティレイヴン殿下、あなたは一人で?」
ここまで命からがらやってきた兵士に、姉上の事を頼む。
兵士は信じられない、といった顔で俺を見る。
「皆、兵士に見捨てられた聖なる姫、と思うだろうから、そっちの方が都合がいい」
「わかりました、……出来る限りの幸運を祈っております」
「おれもだ」
おれが兵士に笑いかけると、兵士は涙をこらえた顔になった後、ぐっと顎を引き締めて、隠し通路を内側から閉じて去って行った。
そしておれは、来る時のために、大急ぎで姉上の残った着替えに身を包み、意を決して魔女の薬を飲み干した。
魔女の薬は苦くて死にそうなほどまずかったけれども、力はてきめんだ。
あっという間に、骨が組み変わる痛みに襲われて、おれは寝台の脇に座り込んだ。
いたい、いたい、いたい、熱い、苦しい、熱い!
意識がばらばらになっていく感覚とともに、おれはそのまま意識を失った。