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22 意外な提案

それにしても、こんなに大騒ぎになったのだから、これらは全て皇帝に筒抜けなのではないだろうか。

おれは今更のようにその考えに至った。

癒しの力をどうしてだか、使えるようになったおれは、偽物だと知らされていなければ、聖姫そのままに見えるだろう。

聖姫として、何か、させられるのではないだろうか?

お茶の入ったカップを傾けながら、その考えをめぐらせる。

聖姫という肩書が偽りのものだと、皇帝その人が知っているのだ。

皇帝の都合のいい使われ方をするのではないだろうか。

まあおれは……おれ一人で、たくさんの民衆が救われて、姉上も救われるんだったらそれでいい。

でも……おれが聖姫として癒しの力を帝国で使ったら、姉上の立場はどうなるのだろう。

おれが生まれた時から、姉上と違って、何かの特別な力に突出した事がないのは、姉上もよく知っている。

もしもそれを黙っていたと思われたら……姉上に嫌われるかもしれない。

いいや、絶対に嫌われるだろう。

王子たちが姉上をどう扱うのかは未定だし、政治なんて手のひら返しは当たり前だし……

まさか殺されないなんて、夢にも思わなかった結果だ。

おれは殺されると思ってここまで来たのに、意外や意外、生きていた方が使い道がある、という扱いなのだ。


「聖姫様、難しいお顔をしていらっしゃいますけど、何か?」


「おれの癒しの力って、実は制御がままならないんだ」


おれは適当に誤魔化した。でもこれも事実だ。いったい何をきっかけに、癒しの力が使われるのか、おれは全く分からない。

アンブローゼを助けようと思ったその時に、運よく発動したと言っても過言ではないのだ。

何かしらのきっかけになる、何かがあるはずなのだが……それは何だろう。

それが分からないのだ。

囚われの聖姫を、積極的に表に出す事を、帝国がするとも思えないのだけれど、自分の手札が確実なものであった方が、何かと交換条件にしやすいのはお決まりの事だ。

おれはどうして、癒しの力を目覚めさせられたんだろう……


「制御できないんですか? 聖姫様の力って、すごく強いから、逆に制御できないんですね……。あ、そうだ、そう言った力の制御の事だったら、将軍が詳しいって聞きましたよ!」


「どの将軍?」


「ジャハド将軍です。噂が確かなら、彼は炎の竜の加護を受けているから、炎の力に秀でているとか。彼も最初は制御がままならなくって、あちこち火の海にしそうになったっていうのは、帝都では結構知られた話ですよ」


にこやかに、おれが思いもよらなかった提案をする侍女。

おれはしばし考えて……もしもの時に、力が確実に使えた方がいいと判断した。

この癒しの力が、いつ取り上げられるかはわからないけれど、使い方が分かっていた方が、自分の身も、そして民草の事も守れる、そう思ったからだ。

でも姉上は、どうやって癒しの力を制御してたんだろう……

その訓練を見た事がないおれは、少しだけ、そう考えてしまった。

そんな時だ。

軽い扉を叩く音が聞こえて、おれに一体誰だかわからない来客が訪れた。

誰だろう、おれに用事がある帝国の人間なんていないはず。


「聖姫様、ここでお待ちください。対応してきますので」


アンブローゼが席を立ち、入口に向かう。

そして数回のやり取りをした後、声が聞こえない位置にいたおれに、来客の身分を告げてきた。


「驚く事です、噂をすれば影、ジャハド将軍がいらっしゃいました」


「え……」


余りにも意外な展開に、おれは目を丸くすほかなかった。


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