21 侍女の特技
「なあこれはちょっと物が多すぎんじゃないのか?」
「なにをおっしゃいますか! これだけは普通に必要なものですよ! お着替えだって、二着しかなかったじゃありませんか!」
「洗いまわせば着られると思うんだけど……」
「雨が降ったら渇きません! 私たち巫女見習いだって、十着はドレスを持っていましたよ!」
「それで年に何回新しいのを新調したの?」
おれが思わず問いかけると、アンブローゼは胸を張った。
「季節に合わせて一着ずつ、それから式典用の礼装を一着、誕生日のお祝いに飾りも含めて一そろい……くらいですよ」
姉上よりも新しい衣装を新調しているな、とおれは思ってしまったが、言葉には出さなかった。
おれが姉上の身代わりなんだから、ぼろを出すわけにはいかない。
国民の命だってかかわっているんだから。
そんな事を思いつつ、おれは運ばれてきたそこそこ値が張りそうな衣装を見る。
「これ全部で一体いくらするんだろう……」
「大した額じゃありませんよ」
さらっとアンブローゼが言う。
間違いなんてありませんって声だ。
なんだかとても自信ありげな声でもある。
「本当に?」
「はい! 布地もわりと安い生地を使ってあるみたいですし、縫製だけはしっかりしているので、見た目は十分いいんですけどね」
お茶を飲みながらの会話である。お茶の用意を持ってきた後、さらに数人の使用人の人が現れて、アンブローゼが用意しろ、といった物を持ってきた。
その中に、十着はくだらない量の、ドレスも入っていたわけだ。
それをちょっと確認して、お茶の時間になったわけだ。
おれはゆっくりとカップを傾けて、お茶をじっくりと味わう。
「美味しいお茶」
「そうですか? これでも一級品じゃありませんよ」
「そんな事もわかるのか?」
「私、結構お金持ちの商人の家の出身なんです。だからこういう、物に関する事は詳しくなったんですよ」
「へえ……」
帝国のお金持ちの商人って、聖姫だった姉上よりも贅沢してたんだな……
そんな内心を気付かせないようにして、おれは箱に入れられたドレスを見る。
「もしかして今日は、ドレスを全部確認するのか?」
「しますよ。しなくってどうするんですか」
「なんだか、アンブローゼさんが頼もしく見えてきた……」
「それを言われると嬉しいです! お役に立てて!」
にっこり笑う彼女の笑顔につられたのか、おれの唇が緩む。
「聖姫様のお役に、立って見せますとも!」
断言する彼女の笑顔が、眩しいな、と思ってしまった。




