20 聖女の資格
聖姫とは。
神国の王族の血を引き、強大な癒しの力を持つ乙女の事だ。
ちなみに神国では、諸侯の半分は、王族となにかしら血縁関係があるから、条件を満たす諸侯は、娘をこの聖姫にすることを狙っていた、
何故ならば聖姫を輩出した諸侯は、その聖姫が任期を終えるまで、特別扱いされるから。
そして聖姫が国のために祈りを捧げると、国は豊かになると言われている。
実際に姉上が聖姫となり、祈りを捧げるようになってからこっち、神国は豊かになった。
作物もよくとれるようになり、災害も起きなくなり、これぞ聖姫の力によるもの、とよく噂されたものだった。
そんな聖姫は、諸侯のお姫様たちが、あこがれる、なりたい存在でもある。
そりゃそうだ、綺麗な衣装を着て、誰もにかしずかれて、蝶よ花よと扱われ、任期を終えたら王族との結婚のチャンスもめぐってきたりするし、聖姫だった過去があれば、神国では誰もが畏敬の念を持つ、とされているのだから。
条件を満たすお姫様たちが、それになりたいと思うのも道理だ。
だからこそ、姉上が聖姫としての条件を満たし、選ばれた時、ひと悶着あったわけだ。
父親が国王でも、母親は旅の踊り子、そう言った瑕を、諸侯たちはつついたわけだが、姉上よりも聖なる力である、癒しの力に長けたお姫様はいなかったから、結局皆しぶしぶ納得して、姉上を聖姫にしたのだ。
聖姫の任期は、聖なる力が衰えるまでと決まっていて、これも面白い事に、だいたい十八から二十歳前後でなくなるとされている。
聖姫は、結婚の適齢期になったら役目を終える……という見方がされるのだ。
それもあってか、聖姫争いは苛烈な事が多い。
おれは十四、姉上も十四だから、後四年は任期が少なくともあったわけだ。
……にしてもどうして、ないはずの癒しの力が、いきなり発動したのだろう。
おれは術式の分析は出来たし、解除も多少心得はあるものの、これまで癒しの力を発揮した事は一度もない。
なのになぜ、姉上以上かもしれない癒しの力が、いきなり行使されたのか。
おれは魔女の薬で、一体何に生まれ変わったのか。
「姉上の身代わりになりたい」
そう願って、魔女の薬を飲んだから、女になっただけのはずなのに……
そんな事を考えていると、アンブローゼがお茶の用意を整えて現れた。
「お茶の用意が出来ました、聖姫様」
「ありがとう。にしても、まさか呼び出しの鐘が壊れていたとか、意外だったな」
「聖姫を迎え入れるのに、設備が壊れているなんて信じられませんよ! きつーく言っておきましたからね!」
そう、あの誰かを呼ぶ鐘を鳴らしても誰も現れなかったのは、途中で回線が切れていたらしく、呼び出す機能が失われていたからだったのだ。
呼んでも来ない、とアンブローゼが文句を言ってはじめてわかった事で、それまで皆、聖姫が呼んだらすぐに駆け付けようと思っていたそうな。
……軟禁状態にするんだったら、設備をちゃんと確認してほしい、と思うおれはおかしな事じゃないだろう。
激怒したのは、アンブローゼで、担当者に説教したくらいだ。
「使われる予定のないものだったかもしれないじゃないか、そんな怒らなくったって」
「聖姫様は暢気に過ぎます! こう言うのは最初が肝心なんですよ!」
そんな物なのだろうか。おれはそう思いつつ、ぷりぷりしながら彼女が、お茶の支度をするのを、見ていた。
だが。
「アンブローゼさん」
「はい」
「お茶いれた事ある?」
「見たことはたくさんあります、だからできます!」
自信たっぷりに胸を張る彼女。でも。
「……教えるから、今日はおれと交代して」
彼女は茶葉を、ちょっとありえない位……山盛り三杯も入れようとしたため、慌てて止めるほかなかった。




