18 足りないものは色々あって
「ちょっとひどすぎますよ、こんなに物が足りないなんて! 巫女見習いをしていた頃の私だって、もっといろいろな物を持っていましたよ!」
「必要数はあると思うんだけど……違うのか?」
「聖姫様、一体どのような厳しい戒律の中で生活していらしたんですか? これでも平気となると逆に不安を感じるんですが」
まず手始めに、おれたち二人で衛生用品を確認した。女の身の上になってしまった以上、いつかは少女から女になるはずで、それがいつか分からない物の、それがある事は、知識として知っていた。
そのためそれらを確認して、さきにそれを経験しているアンブローゼから枚数が足りるか聞いた。
結果として、これは十分な程ある事が分かった。これに安心し、リネンなどを確認し、それもそこそこあるな、と思ったおれだが、そうはうまくはいかなかった。
「リネンも最低限、衣装も最低限! お茶もなければ茶器もない! 綺麗なアクセサリーなんてもってのほかみたいなくらい、一個もない! 何なんですか! 聖姫様だって言うに!」
「……あの、聞いても?」
「はい、何なりと、答えられる事でしたらいくらでも!!」
それにしても飛び切り元気がいい女の子である。おれの周囲にはあまりいなかった傾向の少女だ。
まあそれは、おれが姉上の側に控えている事が多かったからだろう。
姉上は聖姫で、年上の神官とか侍女とかに、かしずかれている事が多かったから、おれもそう言った人たちとの会話の方が多かったのだ。
自分より少しだけ年上の元気のいい女の子。
そういった子と、会話した事はあまりにも少なくて、ちょっとのけぞりたくなる。
しかしおれは、どうしても気になっていた事を、彼女に問いかけてみた。
「どうして、なんかこう、聖姫を憧れの目で見ているんだ?」
「だって、聖姫様って、聞くだけでもなんだか素敵じゃないですか! あの神国の建国当初から祭られている神様に、愛されている乙女だけが名乗れる称号! 神国の祭司の頂点で、聖なる儀式の時だけ民衆の前に現れる神秘性! どれをとっても憧れてどきどきしちゃいます」
「実際はこんななんだけれど……」
「たとえ喋り方がさばさばしているとしても、その憧れは消えません!」
消えないのか。
そんな彼女の言葉を聞くと、自分が偽物である事が申し訳なく感じた。
それでも。
「少なくとも、おれはこれ位で十分な生活を、これまでしてきたから、実のところ不自由って感覚はないんだ」
「では、私が、必要なものをどんどん申請しますね!」
「その申請書は、確認させてくれないとだめだからな。どっかに横流しとか疑われたら面倒だから」
「その点はわかっておりますとも! 聖姫様、あら、なんだかお顔色が悪いですよ、色々確認するの疲れましたものね! 甘いお茶を用意してきますから、そこにおかけになってお待ちくださいな」
アンブローゼに勧められるがままに、おれは見事な細工の椅子に座り、彼女が扉を開けようとするのを見た。
それ、一回閉めたら内側から開かないと思う、と言おうとして……
「あ、開かない!! 聖姫様大変です、開かないです!」
「そこにあるベルは飾りじゃないだろうが……」
あかないと慌てる彼女に、おれは呼び出しのベルを示した。