13 漆黒の婚約者
まだ十分に若く、髪の毛はなめらかな黒髪をしていて、瞳も見事な黒曜石を連想させる黒さだった。
それなのに肌はびっくりするほど白くて、おれのように、色が少し入っている白さではない。
彼女は赤い唇でフフフ、とうっとりするくらい綺麗に笑ってから、おれに近付いた。
「初めまして。わたくし、ジャハドの婚約者の、ノクタニアというの。あなたは……身なりを見ると聖姫だけれど……聞いていた噂よりずっと美人ね」
姉上は美人だこの野郎。とはいえず、俺はうっかり言ってしまった。
「あなたは目を見張るほどお綺麗じゃねえか」
「まあ! うれしい事を言ってくれるのね、あなた。という事は、神国の美の基準では、わたくしは大変な美女という事かしら」
くすくす笑う彼女。その仕草も身ごなしも、驚くほど優雅で、それだけで、花丸百点と言いたくなるものがあるのに、彼女はおれの方が美しいと言いたそうだった。
「帝国では、黒い髪に真っ白な肌だとな、少しばかり美女としては不健康そうだって言われちまうんだよ」
将軍が教えてくれたけれども、おれは納得がいかなかった。
「こんなに美人じゃねえかよ!」
姉上とは違う方向の美女だ。
こんな美女が微笑んでお願い、なんて言ったら、どれだけの男が言う事を聞くだろう、そんな事を思わせる、蠱惑的な美女である。
胸も豊かだし、ものすっごい色気だ。美女だ。
「ものすごい美人に言われてしまうと、恐縮だわ」
くすくす笑い、ノクタニアさんは将軍に言った。
「お帰りだと聞いていたから、食事の支度を厨房に伝えた所なの。二人分にしたから、わたくしは帰るわ。そちらの気持ちのいいお客様の分を、これから用意できないもの」
「いいのか、ノクタニア」
「ええ! 美人って褒められるって、いつでも気持ちがいい事ですのね!」
おれの褒め方が彼女を明るくしたらしい。そんな事を思いつつ、おれは頭を下げた。
「ご、ご馳走になります……」
「これからしばらく、このお客様はこのお屋敷に滞在するの? ジャハド」
「そうだな。陛下が沙汰を下すまでの間だろうが、この嬢ちゃんにはちょいと難しい問題があるんだ」
「では、暇を持て余さないように、お茶会に招待してもいいわけですね。うふふ、楽しみだわ」
ノクタニアさんはそう言って笑って、颯爽と去って行った。
「……婚約者っていうよりも、仲のいい親戚みたいに見えるんだけど」
仲のいい親戚、もしくは弱みをお互いに知っている兄妹。
そんな感想は当たっていたらしい。
将軍は頭を書きながらこう答えた。
「実際に親戚だな、はとこだ。だから婚約したわけだが、はとこの距離感でついつい接しちまう」
「ふうん……」




