12 帝都
息もつまるような、帝王との対面から数日が経過した。
その間にも、おれを連れている軍は確実に帝都へ進んでいき、今日はいよいよ帝都に到着するという日だ。
「なんて高い防壁……」
俺は窓の外から見える、高い防壁に目を見張った。
こんな高い防壁を、おれは、おれの国では都くらいしか知らない。
どこの都も、高い防壁を作って、外敵を防いでいるのだろうか。
「あの防壁は、実は軍の宿舎の一部でな。独り者が暮らしている」
俺の言葉に、将軍がそう伝えて来る。
へえ、とおれは相槌を打って、窓の外を眺めた。
魔女の薬は確実におれを女にした後は、後遺症も何もないとでも言いたげに、熱を下げ、おれはその事実から、体のが組み変わり終わった事を知った。
「熱はもう十分下がってるみたいだな」
俺の顔色を見ながら、将軍が言う。
「すっかりだと思うぜ、熱があるって感じはしない」
おれはあいまいに答えておいた。熱病ではない事が理由なんて、絶対に言えないからである。たとえおれが聖姫の偽物だと理解されていても、男だったという事はまだ知られたくない。
何故って色々面倒だからである。
帝都に入る際の手続きを済ませて、おれを乗せた馬車は、綺麗に整えられた、がたつきの少ない道を軽快に進んでいく
「道ががたがたしないだと」
いいや、街道の整備のされ方が、おれの故郷と比べ物にならないくらいによい、というのは、ここまで来る間に、なんとなくわかっていたけれども、この帝都、物凄く道がいい。
がたがたしないし、お尻が痛くならないし、異臭もすくない。
発展した町だな、と思わせるものが、そこにはあった。
「確かに、神国の街道は、あまり整備されてなかったからな」
俺に同意するように、将軍が言う。
そうやって道を進んでいき、馬車の乗って着いた先は、少なくとも、おれが与えられていた離宮の、何倍も立派な造りの建物だった。とてもじゃないが、言葉が出なくなった。将軍にこんな屋敷が立てられる国のお姫様に、第一王子鼻に喧嘩売ってんだよ、というか豚の鼻とか最低な事言ったんだよ。
なんで勝ち目なんて絶対にない国に、戦争のきっかけ作らせちゃったんだよ!
おれは心の中で叫びつつ、表は動揺を隠しきれなかったから、目が左右に泳いだ。
「ははっ、でっかい建物でびっくりしてんだろう」
そんなおれをからかうように言う将軍。
うん、めちゃくちゃびっくりしてる。いくら小さいとはいえ、おれだって一国の王子だったんだぞ、そのおれが知っている立派な兄上の離宮よりも立派とか、なにそれ。
「中の人は最低限だからすくねえが、不自由させないようにするから、安心しな」
からかったつもりなのだろう。将軍が、緊張をほどこうとするように言う。
でも言いたい。
「王子様のお屋敷より立派だったりするのか、これ……」
「陛下が殿下だった頃の本宮でのお部屋は、陛下の趣味で質素なものだったがな、質素って言ったってものは最上等のものだったぜ、あれと比べりゃこの屋敷なんて、見た目だけお飾りみたいにしてあるだけだ」
そういって、おれを先導して歩く将軍。逃げ出される事は想定しないらしいが、それは正しい事だろう。
おれに逃げ出して当てがあるわけじゃない。聖姫のローブは綺麗なものだし、それを狙うごろつきに襲われたら、勝ち目なんて今はないからだ。
ここでも大人しく、着いていくのが無難だった。
そして屋敷の中に入って……俺は何度目かわからない動揺を隠せなくなった。
「り、……」
「どうしたんだ?」
「何でこんなに立派なんだよ!? おれの知ってる聖姫の離宮より立派じゃねえか!!」
聖姫の離宮は、聖なる姫君が何不自由なく暮らすために、立派に豪華に、そして便利に作られていたのに……ここはそれをはるかに超えていた。
壁紙一つとっても、シミなんて付けちゃいけない事が丸わかりである。
そして天井の灯りも、細かいカッティングの施されたガラスで、光りが虹色に輝いているという代物だ。
玄関ホールは、舞踏会でも開けそうなほど大きい。
「聖姫の離宮は、立派だっただろ?」
将軍が解せぬ、と言った声で言うわけだが、おれの言葉には続きがある。
「ここだけで舞踏会開けそうじゃねえかよ!!」
「実際に開くぞ?」
「開く事前提だったかよ!」
「というか、お前さん口が随分悪いんだな。でも元気になったようで何よりだ」
「……聖姫のふりなんて、もうしなくっていいから、な」
偽物だから、品がないと思われた方が気楽だ。聖姫なのに品がないと言われるよりもはるかに。
「地が出てんのか?」
「あいにくこんな口のききかたしか知らねえんだよーだ、おあいにく様!」
「あらあらあら、元気のいいお嬢さんね。ジャハド」
そこで、玄関ホールにある階段を降りて現れたのは、綺麗な女性だった。