9 本屋
「びーえる……びーえる……びーえるって何だろう?」
輝かしい高校生活の初日、里穂の頭の中はBLでいっぱいになっていた。
それが本であることはわかる。
凛乎は、BLを原稿にしていたのだから。
里穂は帰りがけに近くの個人書店に寄ってみることにした。
この本屋は何度も通っているなじみの店だ。
どこにどんな本が置いてあるのかも大まかにわかるし、個人書店としては本の数も少なくない。
本屋に到着した里穂は、まずライトノベルの棚を探すことにした。
文芸部の人間が嫌うカテゴリーとして、一番怪しいのはこの辺りである。
一般小説をそんなに毛嫌いすることはないはずだ。
しかし、どこの棚を探してもBLという分野の本を見つけることはできなかった。
そもそも、書店での区分けは出版社や作者ごとにされているものである。
自力で探すことをあきらめた里穂は、本屋のおじさんに聞いてみることにした。
「あの、すみません……」
「はい、いらっしゃい」
人好きのするにこやかな店主が、レジで伝票の整理をしてる。
「びーえるという種類の本を探しているんですけど……このお店で扱っていますか?」
「びーえる、びーえるねえ……びーえ……え?」
「ありますか?」
「あ、いや、誰かのお使いかい?」
「いえ、今日学校で友達に聞いたんです」
「そうかい……ざ、残念だなぁ、ウチでは扱ってないよ……」
「そうですか……ありがとうございました」
本屋のおじさんは少し顔を朱くしていたが、里穂がそれに気づくことはなかった。
家に帰ってからネットで検索をかけた里穂は、パソコンの前に突っ伏しながら、羞恥と後悔に身をもだえさせ、二度と行けなくなった本屋に思いをはせたという。