41 始動
「では、これからみんなには本格的な作業に入ってもらいます」
「知っての通り、そんなに長い制作期間は切ってないから、肝に銘じておいてくれ」
里穂と松原が黙ってうなずく。
なにをするにも初体験のふたりには、ハードな日々が待っている。
「松原君はスクリプター兼ディレクター修行として、掃除、買い物なんかの雑用から、鈴木さんの補佐までいろいろやってもらいます」
「わかってるだ」
「里穂はこれから次回作の企画説明をはじめるから聞いてちょうだい。その後すぐに、箱書きを書いてもらうからね」
「はい」
会社が動き始めた。
新しく里穂と松原を迎え、新企画をスタートさせる。
今が一番活気づく時期、希望と期待に満ちた時期だった。
これからは……作業が終わるまで、汗と泥にまみれた日々しかない。
「桃子ちゃん……」
「…………」
「桃子ちゃん……」
「なに?」
「私は?」
「お姉ちゃんはとっとと塗ってくれればいいの! イラストの背景もまだでしょ!」
そこで部屋に響き渡るほど盛大に、理恵のお腹の虫が鳴った。
「…………」
理恵が悲しそうに桃子を見つめている。
「わかったよ、これでなにか食べるもの買ってきなよ」
「わーい、桃子ちゃんやさしー」
桃子に千円を手渡される理恵を見て、里穂と松原のふたりは人生のなんたるかを学んでいた。




