12 アルバイト
「先輩、わたしアルバイトしてみます」
「そうか、それはよかった。それじゃあ早速行ってみるか」
「え、今からですか?」
「ああ、まだ伊藤凛乎が来てないからちょうどいい」
桃子は嫌な顔を隠そうともせずに、そう言い放つ。
どうにも桃子は凛乎が嫌いな様子であった。
「あの、先輩はどうしてそんなに凛乎ちゃんをいやがるんですか?」
「ボクはね、里穂みたいないかにも文学少女っぽい娘が好きなんだよ。だから文芸部に在籍しているんだ」
「はぁ……」
「ところが伊藤凛乎と来たら……」
凛乎はなかなか魅力的な女の子だと思う里穂は、ちょっと不思議な思いがした。
でも、好みというのはそういうものかもしれないとも思う。
「アルバイト先は遠いのですか?」
「いや、学校からすぐ近くだ」
「そうなんですか。よかった」
電車で何駅もある場所では、自宅と学校とアルバイト先の移動だけで疲れてしまう。
桃子と学校を出た里穂は、セーラー服のままアルバイト先に向かった。
「文章の仕事って、どんな仕事ですか?」
「物語を作る仕事だよ。大丈夫、里穂ならできる」
「そうだといいんですけど……」
そこで里穂は、どこかで見たことのあるおじさんと目が合ってしまった。
里穂の記憶の隅にひっかかるおじさん……。
そのおじさんは、里穂のことを覚えていたらしく、そそくさと店の中に入ってしまう。
その店とは……昨日、里穂がBL本を探し回った本屋だった。
『や、やっぱり、この本屋には二度と行けない……』
心の中でもだえ狂う里穂だった。




