6話 別れ話のようです
そのあとだ。氷菓さんから呼び出しがあった。氷菓さんの部屋に行くと全員が揃っていた。その面持ちはやはりというべきか暗い。唯一、いつも通りな氷菓さんも空元気だろうと考える。
まあ得たいなものに操られていると考えればそうなるか。
俺はいつも氷菓さんが話し出すのを待つ。ふと目が合う。悲しく目を下げる。これは俺から始めようか。
「あー。とりあえずいつも通り状況を整理しようか?
みんな大丈夫か?」
「状況!?お前が居なくなるんだぞ!大丈夫なわけないだろ!」
全員が驚いた顔している。え?それそんなに大事!?
まじか。俺はそれよりも操られていることの方が大事だと思うが…。
まあでも、素直に嬉しい。
「あーなんだ。明道。俺が居なくなるのが寂しいのか?。
確かに、後輩の面倒を見れなくなるのは悲しいなぁ」
「ばっ!ちげえよ!!」
それで場が少し和む。そうだみんな俺より強いんだ。俺が居なくても大丈夫だ。
「まあ、俺はなんか出ていかないといけないみたいんだからな。まあでも大丈夫だろ。出来損ないとはいえ聖剣はちゃんと女神から受け取っている。能力が分からないのは俺の技量不足だ」
「それです。なぜ能力を授からなかったのですか?女神に問いただして…」
「あーそれは無理だな」
「なんで!?」
「これは俺専用の聖剣なんだ。何度引いてもこれしか出てこない…と思う」
確証はないけどな。そもそも、女神に文句言ってもしょうがないだろう。作っているのは女神だが、受け取る側に問題があるのであれば何度もやっても結果は同じだと思う。
「それよりもだ。去り際に言っておく。これからなるべくこうやって全員で話し合うのは止せ。
盗聴している可能性が出てきた」
「ん?そんな確証がなんであるんですか?」
誠也が言う。おかしいな。操られていることに気づいているのだとしたらこんなセリフは言わないだろう。
「確証は無いな。玉座にあんだけ人が居たんだ。俺たちもやっと警戒されるレベルに達したんだ。
だからこれからは自分たちの判断で行動すべきだ」
「なるほど一理ありますね」
やはり全員が気づいていないらしい。どこが監視されているか分からないからな。もしかしたらそのうち俺のことも忘れてしまうかもしれない。それほどまでにこの洗脳が強力なのだとしたらしんどいな。そして俺が洗脳されていないことがバレることが一番危ないし、命の危険がある。
「まあそういうことだ。だからこれから俺が行く場所は誰にも言わないし、これから何をするかも教えることはない。お前たちは順調に強くなればいいんだ。俺のことは忘れろ」
「っ!そんな悲しいこと言わないでください。短い間でしたが同じ同郷の人ですよ。私たちが掛け合ってもう少し長い間一緒にいるべきです!」
こくこくと同意を示すように美玖が氷菓の言葉に相槌をうつ。
「そんなことできるか。俺はあの侮辱を忘れはしないし、あんなやつに頭を下げるわけにはいかない。でも、そんな力も手に入れるかも怪しいがな。まあ食うことに困るほど弱いことは無いと思いたい」
特別な力はなくとも、俺は聖剣使いだ。ただの剣じゃない。これは聖剣なんだだから大丈夫。そう思い、俺は白銀の剣を握りしめる。
「そうか…。分かった。俺たちも強くなるぞ」
「な!どうしてなっとくしたんですか!!!。もう会えなくなってしまうかもしれないんですよ!」
なぜか納得した焔に氷菓が悲鳴に似た声で焔を責める。俺はこんなに思われていたのかと思うと、本当にここにいれるんじゃないかと思ってしまう。けど俺はもう決めたんだ。優しい氷菓の言葉は素直に嬉しく感じる。
「いや、白が昔の友人に似ていてな。今は間違いなく俺たちが強いけど、いつかは置いて行かれてしまいそうだ。こういう目をしたやつを俺は知っている」
「でも日本とは状況が…」
「僕もそれでいいかな。ここではっきり言わせてもらうと僕、白のこと苦手だし!」
全員が驚いた顔する。それはそうだろう。俺も驚いた。彼が言うとは思ってなかったからだ。だから俺もしっかり向き合おうと思った。焔はやっぱり兄貴が似合ってる。俺が居なくてもしっかり年長者として引っ張っていけそうだ。
「それは奇遇だな。俺も誠也、お前のことは苦手だ」
「あーやっぱりそう思ってたんだ。僕もこの人とは合わなさそうだなーって思ってた。
だから居なくなってくれて生々するよ…
でもね、いつか死んだって言われる方が迷惑だ。それにお前にまだ僕は一勝もしてないからね
実践で抜かそうと思ったんだけどな~」
お道化た調子でいう誠也。今まで誠実そうな彼とは真逆だ。いやこれが本当の彼なのだろう。こんなやつだったら仲良くできたのかもな。
「そうだな。俺はお前にいまのところ勝ち越してる。それをせず勝ち逃げするよ。
でも約束する。いつかは俺がお前より強いって言わせてやる」
「あーあ。ずるいよ。白。それでも隠していることはいってくれないんだ」
「…すまん」
言いたいことは言って黙る誠也。彼なりの思いは伝わった。俺は弱いからと言って見限られるなんて怯えていたんだ。でもそうはなるはずがなかった。本当のことはまだ、話していないけどもし仮に本当のことを話してもお前たちは俺を受け入れてくれる。
「…本当に…ここを出て行っても大丈夫なんですか?」
勇気を振り絞った声が聞こえる。その声は震えていた。美玖が初めて自分から話してくれたかもしれない。
「美玖。大丈夫とは言えないな。でも何も無策でいくわけじゃない」
「…そ、そうですか。私…何もしてあげることはできませんけど」
そういうと剣を鞘から抜き放つ。その剣の刀身を紫色に変色していた。美しい鞘とは対照的だった。剣から花が想像される。それがいくつも絡まりブレスレット状に形成されていく。
「これ。お守り…です。何かあったら助けてくれるかもしれません」
「…ありがとう。大切にするよ」
「はい」
まさか。こんな素敵なものを貰うとは思っていなかった。それにしても初めて、聖剣を使うところを見た。こんな優しい使い方も出来るんだな。美玖らしいといえばそうかもしれない。心配している気持ちはとても伝わった。
「…もう、止めませんよ?」
少し拗ねたようにいう氷菓さん。
「止めなくて大丈夫です。これは委員長の責任じゃないですから」
「いいっ委員長!?」
「最初から委員長っぽいと思ってたんだ。心配ありがとう。絶対皆に追い付くから。そしたらまたみんなで仲良く話でもしよう」
「…でもあなたが死んだら私は自分を責めるでしょう。どうして呼び止めなかったんだって」
「そうか。でも責任を感じる必要はないよ。俺が弱い聖剣にしか選ばれなかったのが悪い。これは自業自得だ。気休めだけど氷菓さんの責任じゃないよ。間違いなく。もし悩めば、ここにいる全員に聞けばいい。絶対に氷菓さんのせいだという人はこの中には居ないよ」
そうですね…。と弱弱しく答える氷菓さん。俺も死なないように行動はすると友達を悲しませるような真似はしない誓った。
こうして俺は短くも濃い時間を過ごしたノルマール城を後にしたのだった。
脳内には笑顔で見送ってくれる4人の聖剣使いたち。俺はこれから努力だけであいつらに追い付かなくてはならない。この女神様が与えてくれた聖剣を使って…