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魔女と呼ばれた彼女  作者: 紫乃緒
7/8

録:血の鎖

 しみじみ思うが、本当に血縁というものは厄介だ。現代を生きている自分にとっては数世代前のことなんて知らんと言いたいしその確執だの復讐だのそっちで勝手にやってくれとしか思えない。思えないが、それでも巡り巡って降りかかってくるとどうしようもないな、どうにかするしかないか、と諦めもつく。


 ぱちぱちと爆ぜる暖炉の薪が赤く燃えている。暖炉から少し離れておかれた安楽椅子に座り直して、彼―清世は少しだけ息を吐いた。


「お疲れぇ?」


 声と同時に目の前に大きめのマグカップが差し出される。ふわりと鼻をくすぐったのは甘いミルクの香り。

 どうも、と礼に足りないような礼を言ってマグカップを受け取る。冷えた指先にマグカップの熱がじんじんと沁みる。


「どーせまぁたひとりでグルグル考えこんでるんだろ」


 茶化すような口調だが、責める色は見えない。


「どのような状況であれ思考を止めることは出来ませんからねぇ」

「考えることを否定してないっつの」

「解ってますよ、鴉、貴方に心配されるとは私も落ちたものだ」

「ひっでぇの」


 くすくすと笑いながら暖炉前に敷かれたラグにどっかりと座り込むのは、妙に痩せた体躯の女性とも男性とも一見では解らない顔立ちをした人物だった。

 鴉という呼び名に相応しい艶やかな黒髪が眼を惹く。


「ところで、報告を」


 同じようにマグカップを持ちそれに口をつけたタイミングで促すと、口唇か舌を火傷したのかあっち!という悲鳴が上がった。


「せっつかなくてもちゃんと報告するわ! 全く!」


 ごしごしと長い袖で口元を拭きながら非難めいた視線を投げてくる。もう10年以上にもなる付き合いだから扱いが雑になっている自覚はある。あるが、それでもその雑さを了としてくれる友人に苦笑する。


「現地からの報告は2点、1つは体制に変化がない、もう1つは追っ手がいない」

「簡潔明瞭で良いですね」

「それ以外に言い様がねぇわ、まぁ相当に《荒れ》てるんだろうけど、それは外には出さんだろ」

「そうでしょうねぇ……」


 頷きながら思いを馳せる。あの家で過ごした時間は、自分の人生の中でもほんの数年で決して多くはない。それでも容易に想像がつく。


「追っ手に関しては出したいけれど《出せない》、の方が正確かもな」

「おや、」

「乱れや荒れを分家に悟られたら一気にひっくり返るくらいは揺れてる。

分家筆頭の綾辻の御曹司がこれまた有能で耳を欹ててるってよ」

「おやおや、数年前は調子に乗って喧嘩をふっかけて返り討ちにあって親に泣きついたあの坊やが」

「言ってやるなって。まーそういう状況だから人員をこっちに裂いたらそこから突っ込まれそうで嫌なんだろ」


 ふむ、と相槌を打ちながらマグカップの中身をすする。ミルク多めのカフェラテだ。甘い香りに反して甘味はミルクのものだけで砂糖は入っていない。

 マグカップをサイドテーブルに戻し、置いてあった煙草に手を伸ばす。


「まーだ禁煙してないのかよ、煙草の税金また上がるぜ?」


 かしゅ、とマッチを擦りすぅ、と深く吸い込む。ふぅ、と紫煙を吐いて、


「いいんですよ、物事を深く考えたい時にしか吸いませんから」

「仕方ねぇなぁ」

「あちらが動かないのならばこちらにとっては有利でしかないですねぇ」

「そりゃそうだ」

「引き続き動向は注視しておいてください、それと、」

「まだあんのかー?」

「《ウチのお姫様》が話し相手が欲しいようなのでその手配を」

「お姫さんねー」

「何か言いたげですね」

「んやぁ?お前にしちゃ随分と入れこんでるなーって思ってるだけー」

「どう思われようと構いませんが、仕事はしてくださいね」

「へいへい」


 軽く返事をしながらサイドテーブルに置いたままの煙草に手を伸ばして一本拝借。


「鴉、」

「んぁー?」


 久々の煙草で目の前がくらくらする。酔ったような軽い眩暈と浮遊感。


「なるべくしてなったのなら仕方のないことです、私も貴方も生まれは選べなかった」

「ぁー……まぁなー……」

「どのように生きるかを選ぶのは自分です、その選択肢を与えてくれた人には報いるのが当然でしょう」

「そりゃそうだ」

「私のとって《そういう》女性なんですよ、鴉なら解ってくれていると思っていましたが」


 真摯に見つめてくるその視線が、常の清世とは違うものでどきりとする。飄々と何事もこなし感情なんてないようにも見えたこいつがこんな表情するなんて。


「ふひっ」


 思わず変な笑みが漏れた。


「何ですその笑い顔」

「んやぁ? お姫さんにちっと同情しただけーぇ」


 愛情だとか恋慕だとかそういったものを超越したような感情だった。それを自分の浅はかな語彙で定義するのもはばかられた。清世がそう言うのなら、きっと《そう》なんだろう。なら、それでいい。



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